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Special issue
特別対談

「健康」という視点から持続可能な地域づくりを考える。

医療法人かがやき 総合プロデューサー 平田 節子さん 医療法人かがやき 理事長・院長 市橋 亮一さん ぎふピンクリボン実行委員会 代表 平松 亜希子さん Re:touch 田中 信康 エグゼクティブプロデューサー Special 対談 (写真中央) (写真左) (写真右)
乳がん検診受診率を上げるピンクリボン運動を岐阜でも起こそうと、2021年に発足したぎふピンクリボン実行委員会。そのムーブメントは年を重ねるごとに賛同者を集め、イベントの数も乳がん検診バスによる検診受診者の数も増加の一途をたどる、
大きなうねりとなっている。
医療法人かがやきも同様に、2009年に岐阜県初の在宅医療専門クリニックとしてスタート。多くの人を幸せにできる社会づくりに向けて、「地域にあるものを活用し、地域に足りないものを提供する」ことを大切にしながら、地域に在宅医療という新たな選択肢を広げてきた。地域における「健康」、そしてその先にある「幸せ」。同じ目標に向かって取り組みを進化させていく両者にお話を聞いた。

大きなムーブメントに
なりつつある「ぎふピンクリボン」

田中:平松さんは2021年から岐阜でピンクリボン運動を展開しています。私も「ぎふピンクリボン実行委員会」の発足時からこの活動に注目してきましたが、あらためてこの取り組みを始めた経緯を教えてください。

平松:田中さんには発足当初からご賛同をいただき、本当に感謝しています。私はもともと三重県出身で、以前から三重県で行われていたピンクリボンキャンペーンに参加していました。そのご縁もあって、名古屋で開催される同様のキャンペーンにも参加するようになったのですが、ふと考えた時に「岐阜ではこうしたキャンペーンが大きく定期的に行っているのを見たことがないな。ないならば、自分たちでやってみようか」と思ったのがきっかけでした。
設立にあたって呼びかけに応じてくれたメンバーには、実際の乳がん罹患者やイベント運営の経験者、執筆や事業運営を本業とする人、自分で起業している人などがいて、私自身もフリーアナウンサーとして活動しているので司会もできます。だったら、自分たちでできるところまでやってみようと活動をスタートし、新聞やラジオ、動画などを活用した情報発信やショッピングモールなどでのイベント運営を行ってきました。その動きを見て、岐阜県や医療機関、サンメッセさんをはじめとした企業の方々が、「一緒に活動したい」と手を挙げてくださって、徐々に活動を広まってきたのが現状です。今は、罹患者を支援する団体とも連携を図っています。

田中:団体設立から3年で、イベントの数も年々増え続けています。かなりのスピードでムーブメントが大きくなってきていますね。

平松:「こんなことをやりたいんです」と声をかけると、皆さんが手伝ってくださるんです。中には、「自分ではできないけれど、何か社会に貢献したいと思っていた」と、参加してくれる方もいます。まさにこういう輪を広げていくのが、私たちの仕事だと思っています。

市橋:ピンクリボンは、やはりいい活動ですからね。医療の側からも、病気になってからの治療よりも予防できる方がずっといいと思います。

平松:そうですね。それでもなかなか乳がん検診を受ける人がまだまだ少ないのが現状です。気をつけている人は、毎年ちゃんと受けているんですが、大切なのはまだ自分事と捉えていない人や気になってるけど受けたことがない人に、どれだけ受診してもらうか。その層に発信していかなければいけないという思いがあって、ショッピングモールなどを中心にイベントを行ってきました。その取り組みに岐阜県や医療機関も賛同してくださり、乳がん検診バスを会場に置いて、初めて受診する人に無料で受けてもらう取り組みを進めています。

平田:検診バスの取り組みは素晴らしいですね。やはり最初のエントリーがとても大切。やってみる機会があると、「こういう感じか」と不安が軽減して、次の受診につながると思います。乳がん検診ってどうしても痛いのがネックなんですよね。

市橋:でも罹患すると、もっと痛い思いをしますからね。病気になってしまったら大変ですから。それでも痛いのは気になるものですか?

平田:痛いのは嫌ですね(笑)。最初に受けた時は「こんなに痛いものなの? おかしいんじゃないの?」と思ったくらいです。でも、次に受けた時も痛かったら、あぁ、痛いものなんだなって納得しました。でも私はずっと受診してましたね。毎年、マンモグラフィー検査とエコーを交互で受けてました。

平松:私は思ったよりも痛みを感じなかったんですよ。個人差があるんですね。だから本当に痛くて、もう受けられませんという人も中にはいらっしゃいますね。

田中:ぎふピンクリボンは、平松さんも副代表の船戸さんも医療の専門家でも罹患者でもない方が中心となって、こうした活動を推進されているという点がいいところじゃないかと思います。専門知識を持っているわけではないけれど、一般の方と同じ目線で社会課題解決をしていくところに、がん検診を受けることの社会的意義を理解してもらえる秘訣があるんじゃないかと。そうじゃないと、なかなかこれほどの急ピッチで活動が広がっていかないと思うんです。その中で、医療従事者や罹患者をはじめ、いろいろな方とタッグを組んでいけば、よりよい活動、より大きなムーブメントになると思うので、ぜひこうしていろいろと意見交換をしていただきたいですね。


罹患者の目線で感じた、
治療と日常を両立する大切さ

田中:平田さんは、ご自身も乳がんを罹患された経験があると聞きました。

平田:2019年に両胸に乳がんが見つかる同時性両側乳がんになり、全乳房の摘出手術を受けました。

平松:平田さんが書かれたネット記事を拝見して、「胸はもうないけれど、今はとても健康」というコメントが書いていったのが、非常に印象的でした。罹患した人が楽しそうに毎日を送っているという姿は、多くの人の支えがあってのことなんだと思います。

平田:そうですね。今は2人に1人はがんになる時代。だから私、抗がん剤の副作用で完全に髪がなくなってしまったんですが、治療が終わった瞬間に、SNSでその写真をアップしたんですね。それはやっぱり「がんになったけど大丈夫だよ」という声を上げていくことが、すごく大事だと思ったから。そうじゃないと、周りも本人も「がんになって大変」と思ってしまうし、気を遣わせてしまうことがあると思うんです。「長い人生でそういうこともある。乗り越えられないことではない」ということを伝えたかったですね。
治療中、私がありがたかったのは、職場の仲間の理解でした。私は治療をしながら働いていたので、出勤できる日は来ればいいし、無理だったら休んでいいよといスタンスでいてもらえたのは、とても助かりました。逆に「治療に専念しろ」と言われなかったのがよかったんです。ちゃんと働きながら、普通の日常を送りながら治療をするということが、私にとってはバランスがよかった。治療も応援してもらえたし、仕事に復帰した時も普通に接してもらえたのもありがたかったですね。だから私も「もう楽しもう」と思って、髪が抜けた後も金色とか銀色とかいろいろなカツラを被ってました。髪が生えた後も、白髪染めで青を入れてますけど、きっとこんなことがなかったら、一生青なんて選ばなかったと思います。ものの見方が広がったと思いますね。

平松:周りの人に支えられたんですね。在宅医療も、やはり支えてくれる人の思いがとても大切ですよね。

平田:病気になると、周りの人に大切にしてもらえていることに気がつきますね。それはいいことの1つなのかもしれません。病気になることは大変ですが、悪いことばかりではなかったですね。

田中:ぎふピンクリボンは、設立後、かなりのスピードで岐阜に浸透していっているところに、リスペクトを感じています。そこには、平田さんのような罹患者さんからの実体験を伴う方の思いや、取り組みを応援してくれる人からのエールが原動力になっていると思いますが、最終的にはどこを目指しているんでしょうか。

平松:今日の平田さんのお話もそうですが、罹患者の方の話を聞くと、まだまだできることはたくさんあるなと思います。今、私たちが目指しているのは、検診の重要性をもっと広めて、いずれは呼びかけなくても済む社会、当たり前にみんなが検診を受ける社会ですね。加えて、もし罹患したとしても、平田さんのように日常を過ごせる環境が整っている社会づくりにも、何か貢献していけたらと思います。

平田:本当に早期で発見できれば、普通に社会復帰ができるので、やっぱり検診は大切だと思います。


社員の健康を考えることは、
企業のリスクマネジメントでもある

田中:私は常々、ぎふピンクリボンは医療の専門家が中心で行っていないという点がいいと思っていて、こうしたエネルギーのある人たちが岐阜県にあまりなかった活動をしていることには、感銘を受けています。私たちはまだ資金的な支援しかできていないですが、スポンサーもどんどん増えていますよね。

平松:はい。本当に多くの企業の方々に賛同いただいています。やはり皆さん、こうした活動の意義を実感していらっしゃって、健康に対する意識が高まっているように感じますね。

市橋:企業にとっても、リスクマネジメントというのもキーワードになるんじゃないでしょうか。病気って、実は自分自身だけじゃなく、自分の伴侶、両親、子どもたちと誰が病気になっても人生が変わってしまう。だからこそ、トータルにディフェンスしないといけないと思うんですね。たとえば両親が病気になったら、看病に通うために職場を変えなきゃいけないことにもなるかもしれない。そうした影響を自分自身だけで考えるのではなく、周りのすべてにおいて考える必要があると思うんです。そうなると、自分の会社の社員やその家族、子どもたちも、すべてがディフェンスの対象ですよね。経営者は、すべてのリスクをブロックしないと、自社の業務が保てないという意識を常に持っていた方がいいと思います。

平松:ぎふピンクリボンのメンバーにも、ご主人が前の奥様を乳がんで亡くされた後に、再婚した人がいるんですが、子どもを2人残して亡くなられたこともあり、「家族がとても大きな影響を受けることを目の当たりにした」と常々話しています。社員の方やそのご家族を守るという意識も、企業の皆さまに伝えていけたらと思いますね。

田中:その通りですね。健康経営という言葉が浸透してきていますが、そうした考え方は少しずつ企業にも広がっていると思います。御法人でもそうした取り組みは行われているんでしょうか。

市橋:私のクリニックでは、検診を受ける際の金額を3万円までサポートしています。そうすると、みんな検診を受けやすくなって、中にはがんが見つかって治療にたどり着いた人もいるので、この制度はやっておいてよかったと思っていますね。

平田:実は今も、乳がんの治療で休職している看護師がいるんですが、また復帰してもらえる予定です。私も体験しましたが、「仕事を抜けても大丈夫だよ。また戻ってきてね」と言える体制が本当に大切。私も罹患者の会などにも参加しましたが、罹患した人の中には、会社には言えないという人、言わずに治療している人もいるんですよ。そこには、病気になったことが分かると、仕事に支障が出ると思われて認めてもらえない、怖くて言えないという不安があると思います。経営者から「必要な期間は休んでいいよ」「働き方を少し変えてみようか」と言ってもらえるだけで、その点はまったく変わってくると思いますね。働きながら治療するというのは、サポートが重要だと思います。

市橋:企業側にとっても、人的資源が確保できていないとやはり不安定になるので、ワークシェアを取り入れたり、常勤・非常勤のバランスを考慮したりすることは大切です。現金を蓄えておくダム経営という言葉がありますが、人的資源もダム経営にしておけば、困った時もそれをちゃんと放流すればいいことですから。そうした体制を整えておくことで、みんな罹患したことをカミングアウトしやすくなると思います。

田中:結局、すべてがお互い様ですからね。自分もいつか休むことがあるかもしれないですから。

市橋:そうです。だから私は、優先順位を決めた職場づくりを心がけていて、健康が第一、家族が第二で、エネルギーが余ったら仕事に来てくれればいいよというスタンス。そうじゃないと、無理して出勤していたら、とても不安定なチームが築かれてしまいます。それはチームの土台が危うくなるので、調子が悪い時は勤務を減らして非常勤を選択してもらって、反対に職場が困った時には週1回でも出勤が増やしてもらうなど、適切なワークシェアしていくとチームがしっかりと維持できると思います。

田中:大変参考になりました。私たち企業も、健康という視点を経営に取り入れていかなければいけないということを、あらためて実感できたお話でした。企業も各社でこうした取り組みはしていると思いますが、さらにその意識を県内に広めていくことが、地域の元気につながると思います。そのためにも、こうした取り組みをハブにして、幅広い方々が連携していくことが大切です。私たちも引き続き、一緒に取り組んでいきたいと思います。ありがとうございます。

トークショーには田中も参加し、
企業での取組みの重要性をお伝えしました
イベント会場では、出張マンモグラフィ検査を実施

MEMO

ぎふピンクリボン2024
今年度のぎふピンクリボンでは、岐阜県内で計10回のイベントを開催。また、「女性のヘルスアップキャンペーン」として、岐阜新聞とタイアップで年2回の新聞特集を掲載するほか、ぎふチャンラジオでは、乳がん専門医や罹患者の方にご出演いただいて、ラジオ特別番組も放送する。ぎふピンクリボンオフィシャルサイトでは、岐阜大学医学部付属病院の協力で製作した乳がん啓発動画や、企業内研修向け動画も公開している。
https://www.gifupinkribbon.com/
ぎふピンクリボン2024イベントスケジュール
  • 印の会場では、乳がん検診バスにて無料検診を実施
  • ※詳しい情報はぎふピンクリボンオフィシャルサイトにて随時公開
9月1日 (日) イオンモール各務原
9月8日 (日) ぎふハウジングギャラリー
9月14日 (土) FC岐阜2024年シーズンマッチ第28節 岐阜メモリアルセンター長良川競技場 
9月16日 (月・祝) イオンモール土岐 
9月22日 (日) みんなの森 ぎふメディアコスモス 
10月5日 (土) 大垣ミナモソフトボールクラブ ニトリJD.LEAGUE 2024 11節 大垣市北公園野球場
10月6日 (日) 岐阜シティ・タワー43
10月19日 (土) モレラ岐阜 
11月9日 (土) マーゴ 
12月14日 (土) 高山市民会館

Re:touch Point!

「健康=持続可能であること」個人にも企業にもその意識を!

Re:touch
エグゼクティブプロデューサー
田中 信康
ぎふピンクリボンのキャッチコピーは、「まずは、わたしが持続可能に!」。私自身も病を患っていることもあり、その言葉には誰よりも強く同意できる。健康でなければ、新たな取り組みはおろか、日常のすべてが停滞してしまう。地球環境や社会づくりを考えるなら、まずはそれに取り組む1人1人が健康であることが必須条件だ。
少子高齢化で中小企業の半数以上が人手不足を抱えているといわれる中、従業員やその家族の健康リスクは、企業経営にとって大きな問題だ。その意識は企業においても浸透しつつあるが、医療法人かがやきのように従業員に寄り添った充実した取り組みに着手している企業は、まだまだ多くはないだろう。この動きは、人口減少が予測される地方にこそ必要なもの。乳がんという切り口から自分の、家族の、そして社員の健康に目を向けるというぎふピンクリボンの活動に賛同することは、岐阜全体の持続可能性を高める一助になるかもしれない。そう信じて、今後も連携の輪を広げるこのムーブメントを見守っていきたい。