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水中の浮遊物を除去する
加圧浮上装置。
田中(信):今回は、2022年に田中工業所の5代目社長に就任されました田中佑子さんにお話をお聞きします。
田中(佑):よろしくお願いします。
田中(信):まず、田中工業所さんがどんな会社なのか教えてください。
田中(佑):創業は、1949年(昭和24年)の戦後間もないころです。私の曽祖父が大手繊維メーカーで社員として働いていて、ちょうど定年を迎えようというときでした。曽祖父は中国の青島市にあった工場にいたんですけど、ボイラー関係の整備士をやっていて「ボイラーの神さま」と呼ばれていたみたいです。
そのボイラーの神さまが定年になっても技術があるからと、それまでの仕事に携われるように独立したのが始まりです。それから大手繊維メーカーさんのメンテナンス会社としてやってきたんですけど、そうやって長年お付き合いさせていただいてきたなかで、大手繊維メーカーさんが水処理事業を始められるということで、加圧浮上装置をやってみないかということになりました。
田中(信):ここに置いてあるのが、その加圧浮上装置の模型ですね。
田中(佑):コンプレッサーで水と空気を圧縮した加圧水で、水中の浮遊物を除去する方法が主流ではあったんですけど、そうすると電力も要りますし、音もうるさいし、コントロールも難しい。そこで、田中工業所独自の方法を考案しようということになりました。加圧浮上装置を始めて10年近く経ったころなんですけど、そのタイミングで私の父が入社してその開発に取り組んでいました。現在でも、加圧浮上装置の専門メーカーというか、それが唯一の自社装置になります。
田中(信):工場の表に設置してある大きな装置ですね。
田中(佑):あれはテスト機なので、テストが終わったら撤去しちゃうんですけど。
田中(信):あら、本当に。
田中(佑):トラウトサーモンの陸上養殖プラントをやられている会社さんがあって、加圧浮上装置がほしいということで弊社の装置が採用されました。そのテストをしていました。
田中(信):そういうことなんですね。
田中(佑):もう何年も前から進めてきて、いよいよ現地工事という段階に入りました。
田中(信):これはどんな仕組みになっているんですか?
田中(佑):加圧浮上装置は微細な泡を使って水中の浮遊物を取り除く装置で、加圧浮上層に加圧水を送り込んでその泡と一緒に浮遊物を浮かせて除去しようというものです。
田中(信):こうした専門メーカーは日本にどれくらいあるんですか?
田中(佑):専門メーカーというと、なかなか把握できていないんですね。
田中(信):あんまり聞かないですもんね。
田中(佑):そうなんですよ。水中の浮遊物を除去するには沈めるか浮かせるかなので、加圧浮上装置は水処理装置のなかではわりと主流なんです。ニッチだけどメジャーなんですけど、ただ、きれいな状態の加圧水を作るのに手間と経費がかかって。
田中(信):そうなんですね。
田中(佑):大きな会社さんが参入したいと思う分野ではないので、うちの会社が生き残ってきたということで、専門メーカーってほかにあるんだろうかみたいな。
田中(信):なるほど。
田中(佑):めちゃくちゃニッチなんですけど、加圧浮上装置というのは、いろいろな会社さんがやっています。だいたいは大手の水処理エンジニアリング会社さんが自分のところで設計していて、あとは下請けで製造だけ請け負っているところが多いんじゃないかと。
田中(信):大手もあまり力を入れたくない分野で、中小も下請けならやるが、装置の開発までは荷が重いといったところなんですね。
田中(佑):中小は自社で開発していても、うまくPRできていないというのもあると思います。
田中(信):でも、PRしていかないとね。
田中(佑):そうですね。せっかくいい技術を持っているのに、埋もれてしまっているという現実があります。
田中(信):日本では豊かな水が当たり前のようになっていますが、世界的には貴重な資源として考えられています。こうした時代にあって、うまくPRできるとビジネスとして大化けしそうな気がしますよ。
田中(佑):そうですね。こういった装置で、排水、捨てる水がきれいになっていないと、結局のところ、有機フッ素化合物(PFAS)とかの問題もありますし、飲み水に影響してきます。やっぱり捨てる水をきれいにするというのも大事な視点かなと思っているので、私としてはたまたま継いだのがこういう会社で本当にラッキーだったと思っています。
田中(信):少し戻りますが、お父さまが社長になられてからはどんなことをされていたんですか?
田中(佑):大手繊維メーカーさんの仕事を引き継いで、ほかのこともいくつかやっていました。それこそ水処理関係では農業集落排水とかもやっていたんですけど、それは下請け作業だったんですよね。うちが主導でできるものがほとんどなくて、どんどん縮小していきました。
田中(信):逆に、加圧浮上装置はどこにも負けない技術があるから残ったともいえますね。
田中(佑):はい。で、ホームページで加圧浮上装置の専門メーカーですってPRしてしまえば、ナンバーワンでオンリーワンみたいなことになるんじゃないかと思って。Webマーケティングの手法を取り入れて、検索でもやっと上位にくるようになったところです。
田中(信):コンペティターってどんなところになりますか?
田中(佑):水処理装置メーカーさんは全国たくさんあるんですよ。決して少ないわけではないんですけど、逆にいっちゃえば、うちはこれ1つしか残っていないんです。きちんと経営されてきたところって、ラインナップも豊富になっているので、水処理装置メーカーですとか、そういうエンジニアリング会社ですってなるので、専門メーカーとなるとあまりないかなと。
田中(信):そこが、すごくユニークだなと思って。やっぱり、そういうところでないと生き残っていけないんですよ。
田中(佑):そうですね。こういう生き残り方も悪くないなって、今は思っています。
経理で伝票処理していると、
いろんなことがわかるように。
田中(信):田中さんはご家族にご不幸があって2年前に社長になられたわけですが、それまでは田中工業所さんに入ろうとは思わなかったんですか?
田中(佑):まったくなかったです。子どものころは、祖父が代表をやっていたんですけど、おじいちゃんが社長っていうだけで、自分が継ぐなんて1ミリも思ってなかったし、なにをやっているんだろうっていう興味すらなくて。
田中(信):田中さんは、それまでどんなことをされていたんですか?
田中(佑):スポーツ用品販売チェーンに2年間いました。そこは、最初、店舗に配属されるんですね。店舗の運営を一通り学ぶみたいな感じで、商品管理だったり、人事管理だったり、業務管理だったりをやらせてもらいましたので、それは今も生かすことができているんですけど。
田中(信):田中工業所さんに戻られてからは、経理を中心にやられたそうですね。それが、まさかまさかの社長ですもんね。
田中(佑):社長に就任してから、女性に声をかけられることが増えました。それこそ奥さんとして切り盛りしていたけど、ご主人が亡くなられて社長になったというお話をされることが多くて。私は娘という立場でしたけど、女性が社長に就任するパターンには、経理から社長ということもあったのかなと思っています。
田中(信):最近では、財務をやっていた社長が増えているんですよ。例えば、カメラで有名なニコンの德成旨亮社長はずっと財務畑を歩んでこられた方で、そういった財務に詳しい方が経営をするのがいいといわれるようになっています。
田中(佑):すごく脱線しちゃうんですけど、実は、私、個人事業主にもなっちゃいまして。Xで資金繰り表作成推進委員会というのを発信してきたんですけど、中小企業の社長さんが資金繰りや財務をちゃんとできるように支援することを始めました。
田中(信):えっ? それってなんですか? 別会社としてやられているんですか?
田中(佑):まだ、開業届けを出しただけなんですけど。
田中(信):田中さんが田中工業所に戻ってこられて実践されてきた独自の資金繰り表や経理のDXを、中小企業の社長さんたちに広げていこうということですね。
田中(佑):そうです。
田中(信):全然ヨイショするつもりはないですけど、そういうことは女性の方がしっかりしていると思っていて。田中さんが経理で毎日飛んでくる伝票の山を整理しているうちに、いろんなことがわかるようになってきたんですね。
田中(佑):そうです。そうです。経理をただの伝票入力だと思わずに、そこから見えてくるデータを有効活用すれば、経営になると。
田中(信):経理が経営になると。
田中(佑):そうなんですよ。本当に。経理をDXすることで、伝票入力が軽減されて、経営が改善されて、お給料が上がれば、みんなウインウインじゃんみたいな。先日も、岐阜県DX推進コンソーシアムが進めているデジタルインボイス「PeppoLink」の実証実験で、ユーザビリティ検証アドバイザーをさせていただいたんですよ。
田中(信):田中さんの場合はご自身で体験されたことなので、説得力があるでしょうね。
田中(佑):ありがとうございます。
田中(信):経理をDXされて、どんないいことがありましたか?
田中(佑):そうですね。自分で数字を見える化できたことで、気がついたことがいっぱいあったんです。これって生産管理にもつながるなと思って現場に日程表を作るようにしたらどう?とか、そういう改善をいろいろした結果、工場で働く従業員たちも自分のやることが見えるようになって楽になったと。
田中(信):アレルギー反応みたいなことはなかったですか?
田中(佑):そういった点ではすごく慎重に進めていて、DXセミナーとかでもお話しさせてもらうネタがあるんですけど、実はうちの工場長がパソコンの電源の入れ方もわからないくらいで。
田中(信):ほー。
田中(佑):溶接をやらせたらすごいんだけど、パソコンがわからないみたいな感じで。なので、工場長になんとかやってもらおうと思ったときに、本当に大事なことはなんだろうって考えたら、やっぱりその日の作業の見える化だと。それで、スケジュール管理ができるクラウドサービスで作業予定表を作りました。
田中(信):従業員のみなさん一人ひとりに、今日の作業予定がわかるようにしたんですね。
田中(佑):これを使ってもらおうと思ったときに、大事なのは見えるようになっていることだと考えたので、最初はパソコンでとはいわなかったんです。わざわざ紙に書いて。
田中(信):あ、うまい。
田中(佑):紙に鉛筆で書いてみんなのやることを見えるようにしようっていって、自分の作業がわかるように毎日貼りだしたら、みんながそれを見て進められるようになったと。その次は、紙を毎日コピーするのが面倒だから、なんとかならないかみたいな工夫が始まって。それならタブレットにしたらどう?って、タブレットで作業予定表を作るようになって。
田中(信):すごい、すごい。
田中(佑):作業予定表も入力するのではなく、作業を選択すれば完結できるようにして、これならできる?これならできる?って聞いて。で、今度は、これちっちゃい画面じゃなくて、大きいのがいいなってなったんで、大画面のモニターに映し出して、そうしたら、これを仕事場からよく見えるようにしようとなって、みんなで手作りして今では工場に掲出してあります。
田中(信):どうして作業予定表が必要なのかわかってもらうところから始めたんですね。DXはあくまでも手段ですから。
田中(佑):これをやらないとうちはよくならないと思っていたので、どうしたらみんながやってくれるんだろうって考えて。
ネットで検索しながら、
独学で資金繰り表を開発。
田中(信):田中工業所に入社後は、ずっと経理で格闘されてきて。経理でDXを採用されたのは、いつごろからですか?
田中(佑):10年のうちの8年くらいは、もうどうしたらいいんだろうを、ぐるぐる繰り返して。
田中(信):どんなことが一番大変でした?
田中(佑):やはり資金繰りですね。これを、同じ温度感で共有したいと。
田中(信):みんなに危機感を?
田中(佑):そうなんですよ。資金繰り表を工夫していて、ずっと改良しているので、どんどん変わっちゃうんですけど。
田中(信):これを独学でやられているんですか?
田中(佑):はい。そうなんですよ。簿記の「簿」の字も知らない状態だったので。
田中(信):すごいですね。
田中(佑):資金繰り表をちゃんと作っていますかと銀行さんにいわれたのもあるんですけど、資金繰り表を作るために必要な情報を集めるのが本当に大変で。伝票がどこにあるのかもわかんないし、まず、経理の仕組みをしっかりとしなければというのが、本当のスタートですね。
田中(信):社長をやられていたお父さまともいろいろとご相談されて。
田中(佑):本当に資金繰り表を見せて、このときにいくら足りないかな。どうしようっていう話をして、さすがに足りないのがいくらか、いつにいくらかっていうのが見えると、決断がしやすいんですよね。
なので、もちろん売上というか入金を早くすることもがんばるんですけど、同時に支出を抑えないといけないから、月々何千円とか何万円とか、そういうものでも解約できるものは解約して。スマホとかと一緒なんですけど、そういうものを解約して、少しでも残すようにしたりとか。
田中(信):入るを量りて出ずるを制す、ですね。
田中(佑):あとは、従業員とかお取引先には絶対に迷惑をかけちゃいけないので、そこは絶対にマイナスにしないように、ほかでマイナスにできるものはして。また入金があれば、それをきちんと支払えば、と思っていました。
田中(信):いや、すごいな。
田中(佑):こんなことがよく独学でできるねっていわれるんですけど、私からしたらネットで検索していただけなんですよね。検索しまくって、あっ、これならできるかもって思ったらやって。で、またわかんないことがあったら検索してって、世の中にはいろんな情報がいっぱいあるなって私は思っていて。
田中(信):田中さんが責任感の強い方だからできたんでしょうね。
田中(佑):もうシンプルに自分がここの家族だから、家業だからっていうのがあると思いますね。だって、私はこの会社があったおかげで高校も行けたし、大学も行けたし、1人暮らしもさせてもらったというのがあって。あとは、子どもがいますので。
田中(信):私がすごく大事だなと思うのは、今回の個人事業主の件もそうなんですけど、やるかやらないかっていうところだと。
田中(佑):あ、そうですね。
田中(信):それと、DXという仕組みではなく、どうしてそれが必要なのかというところに重きを置かれて、従業員のみなさんに理解してもらえるよう工夫されたところは、とても参考になります。
田中(佑):目線をそろえないといけないなって。私には資金繰りとかも考えて行動してほしいって、いわゆる経営者の視点で仕事をしてほしいっていう思いがあるので、どうしたらそうなってもらえるかと。
田中(信):それって大事ですよね。
田中(佑):あとは、私の生き方みたいなところと直結しているのかなって。小さいころから仏教の教えを聞いていて、「四諦」(したい)という教えがあるんですけど、この諦めるという漢字の意味がすごく深いんですね。ネガティブな諦めるじゃなくて、「四諦」の中の「苦諦」なら苦しいことを自覚するみたいな意味があることを知って、それができるときっと人生の半分以上が楽になるなって思って。なので、あーなんか辛いな、苦しいなというときでも、そう考えるとすごく落ち着くことができます。
田中(信):そうやって苦しいことでも消化できていると。
田中(佑):あくまでもそれは私の解釈なので、従業員はなにがしんどいのか、苦しいのか、楽しいのかっていうのは、よく見るようにはしているんですけど。
田中(信):そういう家庭環境で育たれたんですね。
田中(佑):そうそう。それこそ会社が苦しい時期もあったんですけど、それを聞いてもなんとも思わなかったし、妙に腹落ちするところがありました。
田中(信):それっておそらく従業員のみなさんも感じていますよね。
田中(佑):父も技術のことになるとカーっとなるんですけど、普段はすごく穏やかで、従業員への接し方も丁寧な方だと思います。そのためか、うちの従業員って本当にみんな穏やかで。
田中(信):創業当時からの社風なんですね。
田中(佑):そうかもしれませんね。家訓であり、社風であり、みたいな。
給料は自分で増やせるってわかると、
従業員の行動が変わるかなって。
田中(信):会社が苦しいときは、どうやって乗り越えてこられたんですか? 例えば、資金繰りが厳しいときとか。
田中(佑):自分が従業員の立場だったら、どうなったらうれしいかなって考えたら、やっぱりお給料が上がったらうれしいと思うんですね。だったら、お給料が上がるためには、これが必要だ、これが必要だって、1個1個、在庫の持ちすぎのことだったりとか、そういうものがお給料にやがてつながるんだよって知ってもらうことが大事かなと思って。
全体会議とかで私が今年の目標を話すときもあるんですけど、毎回、利益の構造について話すようにしています。売上があって、材料を買って、時間をかけて造って、ここの残った分が粗利益でみたいな。でも、販売管理費もあるからといって、これが全部うまいこといったら、利益が残って、みんなのお給料になったり、ボーナスになるんだよって。お給料は自分で増やせるものなんだってわかってもらうと、従業員の行動が変わるかなとそういう話をしていますね。
田中(信):そうやって自分たちが何をすればいいのかわかってもらうことで、従業員のみなさんの行動が変わっていくと、経営者としてこんなにうれしいことはないですもんね。
田中(佑):そうなんですよ。だから、私が具体的にこれをやってということがわりとなくて、ちゃんと気づいてもらうべきところを気づいてもらえれば、従業員は自分たちのことは自分たちがよくわかっているので、ちゃんと工夫してくれるんですね。そういうときに、例えば、否定しちゃうとストップしちゃうと思うんですけど、うまくいってもいかなくてもやったことに対してはすべてOKみたいな。
やってくれたことは全部OKみたいな感じでやっていると、みんながどんどんやってくれるようになって。うちの工場はラベリングとかもまだまだなんですけど、養生テープにマジックで書いていてもOKにしていたら、みんながこうすれば楽になるなみたいな感じでどんどん工夫が自走していくので、うちの会社はこれでいいのかなって思いながら。きれいな書体でラベリングした方がかっこいいんでしょうけど。
田中(信):従業員のみなさんが持ち場、持ち場で、自分のやるべきことが明確になっていけば、会社がすごくよくなってくると思います。
田中(佑):私も社長担当をやってるだけだと思っているんで。
田中(信):働き方改革とか女性活躍だとかいわれるようになりましたが、そういうことって田中さんみたいに許容してあげることがやっぱり一番大事で。
田中(佑):そうですよね。
田中(信):やっぱりあれやっちゃだめ、これやっちゃだめっていっていると、現場の従業員のみなさんがどんどん窮屈になってしまって、いいものづくりなんてできないと思います。
田中(佑):うちの会社では、子どもを病院に連れていくときとか、もう全部OKにしています。学校の旗当番で遅れるのも仕方ないし、それができないとなんにも進まなくなっちゃうと思うんで、その分、仕事をがんばってもらえるならそれでいいじゃんみたいな感じで。
田中(信):同じ考えですね、私も。
田中(佑):そうそう。働き方改革していますっていったら、それがPRポイントになるのかなとは思うんですけど。
田中(信):田中工業所さんではそれが当たり前になっていて、従業員のみなさんが責任を持ってやっていらっしゃるのは、自分のやることがしっかりと見える化できているからですよ。
田中(佑):そうですね。みんな自分の責任みたいなものを、私もそうですけど、従業員も感じつつやってくれているのではと思っています。
うちの従業員たちを見ていると、
町工場の力も侮れないと。
田中(信):田中工業所さんは加圧浮上装置という大きな強みを持っていらっしゃって、しかも水の循環という現代社会が抱える社会課題を解決されているわけですが、SDGsを含めてそうしたことを進めていこうとは考えていないんですか?
田中(佑):本当に、そこがまだできていないと思っていて。従業員も、実際に加圧浮上装置が水処理しているところをほとんど見たことがないんじゃないかと。
田中(信):そうなんですね。
田中(佑):水処理プラントのなかで加水浮上装置がどんな役割を担っているのか、私たちもまだしっかりと認識できていないところがあって、それができるともっと自信を持って発信していけると思うんですけど。
田中(信):田中工業所さんの加水浮上装置は工場排水をきれいにして、そのまま河川に流せるようにしているという理解でよいですか?
田中(佑):そうですね。その前処理をしているんです。
田中(信):これってサーキュラーっていわないのかな。今、水などの天然資源をリサイクルして環境への負荷を低減する循環型社会の構築が叫ばれていて、田中工業所さんはこうした社会課題の解決に貢献されていると思いますよ。もちろん、これはSDGsでもあります。
田中(佑):そうなんですね。
田中(信):SDGsもそうですが、こうした社会貢献のなかで企業が利益を追求することは悪ではありません。むしろ推奨しているくらいで、そうでないと企業も続かない。いわゆる持続可能、サステナビリティとはいえません。
田中(佑):でも、慈善事業のようになっていますよね。
田中(信):それがめちゃくちゃ多いんですよ。私は、これがSDGsなどが続かない1つの理由だと思っていて、ムーブメントにするなっていうのが持論です。SDGsをはじめとする社会課題を解決することは、毎年12兆ドルの経済効果がある新規事業だといわれています。それは3億8,000万人超の雇用を創出するビジネスだと。
田中(佑):SDGsはビジネスなんですね。
田中(信):田中工業所さんをここに当てはめていくと、本来ならそのまま河川に流せない工場排水から浮遊物を分離して、地球環境のなかで貴重な資源である水の循環に貢献されている。しかも、豊かな地下水に恵まれて水の都と呼ばれてきた大垣市で。こうした水の循環のなかで、田中工業所さんとしては強みである加圧浮上装置を生かすことで、新たな需要を創出していくことができるのではと思いますよ。これは、循環経済、サーキュラーエコノミーと呼ばれています。
また、こうしたことを会社の内外に発信されていくと、従業員のみなさんも自分たちの仕事にプライドを持てるというか、世界的に貴重な水資源の循環という大切なところを担っているんだというやりがいにもつながっていきます。これから就職しようという学生さんたちも、どうせならこうした会社で働きたいということで、リクルートの面でも大きなアドバンテージになってきます。
田中(佑):加圧浮上装置っていうカテゴリーにもいっぱい装置があって、どうしてうちが選ばれるのかというと、除去しきれない浮遊物とかもやっぱりあるんですけど、処理しきれないのにひたすら電力を使っている。これはなんのために動かしているんだろうってなっちゃうんですけど、うちの装置ならちゃんとそれが除去できるところにすごい価値があるといわれています。
田中(信):省エネにもなるんですね。サステナビリティの切り口でもいろいろと発信できそうな気がします。
田中(佑):まだまだ口コミレベルなので、その根拠を証明できていないところがあって。
田中(信):先ほど、加圧浮上装置に特化されているとお聞きして、そこがすごくユニークだなと思ったんですよ。きっとすばらしい技術力をお持ちなんだろうと。そこを素直に発信していきたいですね。
田中(佑):うちの会社の従業員を見ていると、町工場の力も侮れないなって思っていて。大手の会社さんだと分野ごとに担当が分かれているんですけど、うちの会社はあれもこれもやっているので、いろんな分野のことがわかっていて個人の総合力が高いと感じています。
田中(信):本来の浮遊物を除去する能力だけでなく、余計な電力を消費しないのは、電気代が高騰している現在では、そうした装置の導入を検討している企業にとってはとても魅力的ですね。
田中(佑):私たちは、加圧水の出来っていっているんですけど。水のなかに空気が溶け込んでいる状態を解放させて、炭酸水のふたをプシュッと開けたときのように、ジュワーってなるのを水槽でやっています。この泡が粗いと空気だけボコってなって処理できません。で、細かすぎると浮いてこないので、それはそれで処理できません。
田中(信):とてもデリケートなんですね。
田中(佑):そうなんです。この空気の溶け込ませ具合が、うちの加圧浮上装置はすぐれているんですね。
田中(信):トラウトサーモンの陸上養殖プラントに採用された決め手はなんだったんですか?
田中(佑):今度は廃棄する水の処理じゃないので、うちのテスト機をお貸しして、小さいやつを。実際に試してもらったら、あ、本当に取れるね、と採用されました。
田中(信):まさに、それが町工場の力なんでしょうね。いろいろな分野のことがわかる従業員のみなさんの熟練した総合力ですよ。
田中(佑):今回のものは水を捨てて終わりじゃなくて、自分たちの加圧浮上装置で処理した水で育ったトラウトサーモンが食べられるチャンスなので、みんなでトラウトサーモンを食べようと思っています。
田中(信):これは食料自給率の向上にも貢献しますし、サーキュラーエコノミーとして発信してもいいような気がしています。
田中(佑):そうですね。陸上養殖プラントで採用されたというのは、まさにそこにぴったりと当てはまるかなと思いますね。
田中(信):本当に大きな可能性を感じます。
水をきれいにする会社だって、
プライドを持っていれば。
田中(佑):今、うちの工場の壁に看板をつけようとしていて、で、そこにつけるキャッチコピーを、「水の都で、澄み渡る未来を創造する」にしようと思っているんです。
田中(信):へえ。
田中(佑):そういう会社が大垣市にはあるんだよって、アピールできていなかったので。
田中(信):すごくいいと思います。
田中(佑):水の都で、水をきれいにする装置を造っている会社って、なんかいいじゃんって、ようやく気づきまして。それを掲げたら、若い方も興味を示してくれるかなって。
田中(信):パーパス、存在意義ってお聞きになったことがあると思いますが、どんな会社になりたいかってどんどんアピールされることは大切ですよ。
田中(佑):うちは加圧浮上装置の専門メーカーとして、水をきれいにする会社だとプライドを持っていけばいいんだなって、ふわっとは思ってはいるんですけど。
田中(信):町工場の力というのもすごくいいなと思います。
田中(佑):それこそ、自分の子どもにパパはこういう仕事、こういう会社の仕事をしているんだよっていいやすくなると、子どもたちにも将来興味を持ってもらえるのかなって思うので。本当に、今、大きな課題がそこなんです。
田中(信):今日お話いただいたことを、田中工業所さんの沿革として、うまくつなげていくといいと思いますよ。水の都と呼ばれる大垣市で創業して、この美しく豊かな水を子どもたちに残していくため、加圧浮上装置の開発に取り組んできた。みたいな内容をいくつかのスライドにして、いろいろな苦労話なども入れながら、現在に至るまでを1つのストーリーにされて、会社の内外へ発信されるといいですね。
田中(佑):本当にそれをやりたいなって。
田中(信):田中さんは講演されることも多いから、そういった機会でも話されるといいですよ。
田中(佑):そうですね。こういうSDGsの視点でも注目していただけたのは、私もすごくありがたいと思っています。
田中(信):田中工業所さんとしてでも、田中さんとしてでもいいですが、これからやっていきたいことはありますか?
田中(佑):ゴルフ場で刈った芝からバイオエタノールを生成したり、ゴルフコースに放置して肥料にするバイオエタノール精製プラントに取り組んだことがありましたが、今はもう撤退してしまいました。なので、うちの技術を生かせるようなことがあれば、また挑戦してみたいとは思っています。
田中(信):どんどん田中工業所さんのやっていきたいことを発信していきましょう。それには、まず、社内から。
田中(佑):そうですね。はい。
田中(信):うちの会社もまだまだ全然でして。ペーパーレスといって印刷はこれからどんどん減っていくので、印刷を超えようといろいろな取り組みをスタートさせているんですね。ところが、こうしたことを知らない従業員が多くて。
田中(佑):いや、でも、そんなに早急には変わっていけないんですよね。
田中(信):経営理念も根っこにはあるんですけど、今、時代がどんどん変わっていくので、そういったことも追いかけないといけない。アジャストしていくっていうんですかね、今の時代を生き延びていくためには変わっていかなければなりません。
だから、SDGsもやるんだったら徹底的にやって、ぶっちぎるぐらいでないとイメージ戦略にもならないと。おかげさまで、岐阜県ではいの一番に声をかけていただけるようになって、それってゆくゆくは商売のチャンスになっていくわけですよ。
田中(佑):そうですよね。
田中(信):ただ、今まで取引がなかった企業の方々と手を組むことによって、自分たちの商売にっていうのとはちょっと違っていて、地域でがんばっている企業のサポーターとして今日みたいなご縁ってすごく大事だと思っています。この取材で知り合った方ってもうずっと続いているので、なんかあったときに相談に乗っていただいたりとか、相談に乗ることもありますけど、なんかいいチェーンができてくるといいなと。これって本当の意味の地域連携になってくるので。なんかあったときに手を組めるようになるといいですね。
田中(佑):そうですね。なんか小さい動きでも、2年はかかるんだなって、なんとなく感じていて。そういう大きな潮流は、本当に10年20年かかるものなんだろうなって思うと、私が今日お話しさせていただいたこととかも、10年後とかに生きてくるのかもしれないですね。
田中(信):今日はありがとうございました。
TOPIC
1,000以上の納入実績。
田中工業所の加圧浮上装置の特長は、シンプルな構造でメンテナンスしやすく、ユニットで設置できるため、工場のスペースにあわせてインアウト設計が可能。町工場ならではの職人技が随所に発揮された浮遊物の除去能力は、水処理エンジニアリング会社などからも高い評価を得ている。
水が限りある貴重な資源として世界的に注目を集めている昨今、豊かな地下水に恵まれた水の都おおがきを象徴するような田中工業所。循環型社会の構築が声高に叫ばれているなかで、サーキュラーエコノミーとして大きな可能性を秘める技術力といえる。
Company PROFILE
企業名(団体名) | 株式会社田中工業所 |
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代表者名 | 代表取締役社長 田中 佑子 |
所在地 | 〒503-0918 岐阜県大垣市西崎町4-18 |