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岐阜のことをよく知って、
好きになってもらいたい。
田中:さて、岐阜スゥープスのフォトブックを拝見しましたが、「岐阜愛」という言葉がよく出てきますね。
那須:もっと岐阜をよく知ってもらって、岐阜を好きになってもらいたいという思いからです。
田中:那須さんはどちらのご出身ですか?
那須:私は美濃市の出身で高校までは地元にいました。大学は名古屋でしたけど、大学卒業後は上京することになって、東京ではケーブルテレビ局で正社員になって働いていました。日本一大きいケーブルテレビ局だったんですけど、そのコールセンターでいろいろと実績を積ませてもらいました。6~7年は働きましたね。家族もできて、私が31歳の時だから2009年に、岐阜に戻ろうと決意。正直いって、また岐阜に戻るのか・・・みたいな気持ちでした。
田中:私よりもずっと早い段階で岐阜に戻っていらしたんですね。
那須:岐阜市のケーブルテレビ局に入社し、そこでもコールセンターを担当することになるんですけど、1年後に転機が訪れて、テレビ番組を制作する部署に異動になりました。最初に担当したのはニュース番組でしたが、ケーブルテレビって取材から編集、原稿まですべて自分でやるんですよ。そんななかで、岐阜のよさに気づいていきました。こんなにおいしいものがあったんだ、とか、こんなにおもしろい人がいるんだ、とか。衝撃的だったのは、日本の三大大仏の1つが岐阜にあるんですね。諸説あるみたいですけど。
田中:しかも、乾漆仏としては日本一の大きさですよ。
那須:そういった事も全く知らなかったんです…。また、長良川鵜飼ってどのくらいの歴史があるか知っていますか?って聞かれたとき、まったく答えられない自分がいました。1300年も前から行われている伝統漁法なの?とか、知らないことばかりで。岐阜っておもしろいところだなと気づいていくと同時に、自分みたいな人間を増やしてはいけない、と思うようになりました。
田中:それまでの那須さんはどんな方だったんですか?
那須:岐阜のことを知らないまま外へ出ちゃって、岐阜のことを知らないまま終わるところでした。それからは、番組を通じて岐阜の魅力を伝えようというのが、ケーブルテレビ局でのモチベーションになりましたね。
田中:岐阜スゥープスとはどのように出会われたんですか?
那須:私が岐阜スゥープスを知ったのは、まだ「SWOOPS」というチーム名だった社会人クラブというカテゴリーのときで、日本一を3回も取っていたんですよ。岐阜にこんなに強いバスケットボールチームがあるんだってびっくりしました。当時、岐阜女子高校のバスケットボール部の密着取材をしていたんで、岐阜ってバスケ強いじゃんと思って。バスケが大好きでNBAも観ていたので、当時のSWOOPSにも密着取材するようになりました。その後2回日本一を取るんですけど、その決勝は佐賀県や浜松市で行われたので、遠征して試合を放映していました。
田中:そんな強豪チームだったんですね。
那須:そして、岐阜スゥープスがいよいよB3リーグに参戦するという話になって、当時の上司にホーム戦をすべて中継しましょうと掛け合って、実は私が全試合の実況をしました。かなりの仕事量でしたが、岐阜にプロバスケットボールチームができた事を知ってもらって、岐阜県民の地元愛着度を高めよう、岐阜を好きになってもらおうと必死でやっていました。そして、ちょうど1シーズンが終わるころ、「待てよ、私が岐阜スゥープスに入って大きく、強く、有名にした方が、効率的に岐阜の人たちに岐阜のことを好きになってもらえるじゃないか」と思ったんですよ。そう思うと、もう止まらなくなっちゃいました。
田中:なかなか大胆な発想ですね。
那須:当時のケーブルテレビ局の社長に話をしたら待てといわれて、最初は出向という形で8月から岐阜スゥープスに入りました。しかしお盆に、岐阜スゥープスのオーナーから「社長になって欲しい」と。本当は、広報になりたかったんです。ケーブルテレビ局で培ったマルチスキルがあれば、Bリーグ最強の広報になる自信があったんですけど、まさに青天の霹靂ですね。しかし、岐阜スゥープスのためになるならと思い、チャレンジしてみますと決心したんですが、社長になった途端にコロナ禍になってしまい、今なんとか5年目が終わったところです。
田中:激動の5年間でしたね。今でもこんな熱量でお話しされるので、当時は本当に熱狂的だったんでしょうね。
那須:はい。もちろんチームは大好きでしたし、バスケも大好きでした。でも、何よりも岐阜を好きになったというか。この仕事に就いてから調べてみたんですが、岐阜県民の岐阜への愛着度って、毎年本当に低くて、全国で40位以下なんですよ。これでは岐阜の未来が不安になります。なので、岐阜の未来は私たちがつくるんだという思いを、コロナ禍を経た今でも継続して持っています。
田中:バスケットボールを通じて、岐阜を好きになってもらいたいと。
那須:はい。なので、最初にやったことは経営理念づくりです。それまでのものは難しい文章だったので、そこをシンプルにしています。岐阜の未来をつくるというのが最終的な目標なんですけど、岐阜スゥープスのスローガンは「CONNECT SMILES WITH BASKETBALL」。「バスケットボールで笑顔をつなぐ」ということをめざしながら、これからもいろいろなことをやっていきたいと思っています。
岐阜スゥープスのブースターは、
B3リーグでナンバーワン。
田中:東京オリンピックのころから日本中が注目するようになって、今ではNBAで活躍する日本人選手も増えてきましたし、これを一過性でなく継続してきたいですね。
那須:そうですね。まずは、どうして盛り上がっているのかという要因分析も、岐阜スゥープスを経営していくうえでは必要です。1つ思っているのが、今は「タイパ」とかよくいわれていますよね。ほかのスポーツでは、例えばプロ野球だと3時間くらい観戦して、なかには0-1とかロースコアの試合もあります。私も高校野球の実況をしていたので野球は大好きです。手に汗握る投手戦は本当にドキドキしますが、そうした試合の魅力って特に初心者には伝わりにくいと思うんですね。その点、バスケはとてもシンプルで、0-0というのは絶対ない。シュートの多くが得点になるし、スリーポイントやダンクもあります。バスケットボールはスポーツとしてのエンタメ性が非常に高いんです。「同じ時間を過ごすんだったら、激しい点の取り合いの方が楽しい」というファンが、試合会場に足を運んでくれているのだと考えています。
田中:漫画の影響もすごくあるんでしょうが、実際、バスケ人口は増えているんですか?
那須:岐阜県での競技者人口は、野球やサッカーと同じくらいです。バスケットボールは野球やサッカーに比べて、女子の競技者が多いというのも要因です。女子の部活があるので、既にスポーツ文化としても根づいています。世界に目を向けると、競技者人口ナンバーワンはバスケなんです。また、これからの少子化時代、1チーム5人でできるのも大きい。私はバスケには未来があると思っていますし、競技者人口がどんどん増えていっているのも事実です。
田中:岐阜スゥープスとしてはどうですか?
那須:おかげさまで、スクールは空きを待っていただいている状態です。コーチ1人に対して何人までという制限を設定しているので、それ以上になるとクオリティが下がってしまいます。コーチの増員なども課題ですが、やはり、岐阜唯一のプロバスケットボールチームなので、そこでやっているスクールには品質や価値を感じていただけるようにと思っています。
田中:直近ではパリオリンピックもありましたので、そうした起爆剤にもなったんでしょうね。
那須:はい。なりました。
田中:スポーツってスター選手が出てくると、子どもたちが夢を描きますから。しかも、ケーブルテレビ局でバスケ番組を作っていた方なので、プロの経営者とは違って、選手の気持ちもよくわかる。きっとこういうパターンは少ないと思うんですが、経営者という立場からは選手とあまり近過ぎてもダメなんでしょうね。
那須:おっしゃる通りです。選手とはあまりご飯に行かないようにしていて、選手一人ひとりとの距離はあまり近くありませんね。あなたとは来期の契約をしないと告げる立場でもあるので、そこは一線を引いています。
田中:広報マンであればまた違う視点でいられるかもしれませんけど、社長になると経営しないといけない。勝たなきゃいけないという使命がありますもんね。
那須:はい。1つだけ心残りがあって、ちょうど最初のシーズンが終わったオフの時に入社が決まったので、一度も純粋なファンとして試合を見られていないんですよ(笑)。
田中:岐阜スゥープスのブースターの応援は、選手やほかのチームからすごいといわれているんですね。
那須:かなり他チームのブースターとは違うと思います。アウェイの試合で、地元チームの応援よりも駆けつけてくれた岐阜のブースターの声やクラップの方が大きいという事も少なくありません。本当に熱心に応援してもらっています。B3リーグのなかでは、絶対にナンバーワンだと思っています。
田中:その理由はなんだと思いますか?
那須:1つは、FC岐阜さんのスポーツ文化があったと思います。プロスポーツチーム、その選手を応援するという文化をFC岐阜さんがつくってくださったと思っていて、FC岐阜さんのサポーターが私たちの会場でブースターになって応援してくれていることもあります。これは、きっと岐阜の県民性なのでしょう。本当に熱心に応援してくれるというか、自分ごととしてやってくれているんですよね。
田中:私は、岐阜県民はやさしいとか思いやりがあるとかいわれると、確かにそこには納得する部分もありますが、熱狂的なブースターのイメージはあまりピンとこなかったんですよ。
那須:自分たちの故郷である岐阜という地にあまり自信が持てない方が多いなかで、岐阜を背負って戦ってくれている選手を応援したいという気持ちをお持ちの方も結構いる気がします。
田中:岐阜出身の選手はどれくらいいらっしゃいますか?
那須:選手では、岐阜市と大垣市の出身が1人ずつ。それと、新しく就任した小林康法ヘッドコーチが大垣市出身です。最初のシーズンはほぼ岐阜県出身者でしたが、やはり年々少なくなってきています。
田中:でも、外国籍も含めた選手のみなさんは地元出身ではないけれど、このチームに入って岐阜のためにがんばるという思いで戦ってくださるので、そんな岐阜スゥープスが好きだということになりますよね。
那須:はい。岐阜を好きになってもらうために、もっとやらなければならないのは、選手自身が岐阜のことをちゃんと知ることです。すごくわりやすい例でいうと、栗きんとんや鮎菓子、利平栗、徳田ねぎなど、岐阜県のいろんな名物を知って、好きなること。まずは、連携協定を結んでいる自治体さんの特産品を覚えるように、選手たちに教育を始めているところです。
田中:選手一人ひとりを広報マンしようということですね。選手についている熱狂的なブースターもたくさんいるんでしょうから、それを選手の口でどんどん広げてもらうおうと。
那須:まだ、シーズンが始まって間もないのでできていませんが、岐阜市で一番高い山はどこですかって聞かれたら、百々ヶ峰と答えられるチームでありたいと。
試合の勝ち負けに関係なく
応援されるチームが理想。
田中:私も少し前に岐阜城に登ったのですが、ものすごく感動している自分がいることにびっくりしました。一度外へ出て行かないと、地元のよさに気づかないこともあるみたいです。
那須:はい。特に外国籍選手は岐阜城へ登ると感激します。このまちのために戦う気になったよといってくれます。そこは、やはり同じ感覚なんですよ。長良川が濃尾平野を流れていく、あの景色は万国共通で、本当にいいものなんだと思います。
田中:美しい景色を見て、岐阜のためにがんばろうと気持ちを盛り上げてくれるのは、ありがたいというか誇らしいというか。スポーツの力でみんなを元気にしたいというのは、コロナ禍ではなかなかできなかったんですが、それができるようになった今はきっと喜びもひとしおですね。この岐阜で、みんなで一緒に盛り上がっていきましょう。
那須:そうですね。選手が発信するとブースターもそれを好きになってくれるんですね。岐南町の徳田ねぎや羽島市のレンコンもおいしいと選手が発信し、ブースターのみんながそれを知って、どんどん岐阜を好きになってもらう。これこそが地方創生というか、住んでいる方がちゃんと岐阜の魅力に気づいて、岐阜を好きになっていく。そのきっかけづくりが、プロスポーツクラブが一番貢献できることだと思っています。
田中:試合に勝たなきゃいけないというものも当然あるんでしょうけど、そこを超えたところにも大切なものがあるはずということだと思います。
那須:そうです。最終的には、勝ち負けに関係なく応援されるチームが理想です。もちろん、そんなに簡単なことではないです。やはりプロチームである以上、勝利という結果を残していかなければなりませんし、いつかはトップリーグで優勝するという目標も持っています。ただ、これはクラブの理念に対する手段であって、最終的にわれわれがB1リーグで優勝することによって、岐阜県のみなさんが岐阜スゥープスすごいやん、岐阜にこんなチームがあっていいよねと思っていただくのが目標です。勝つことはあくまで手段だということを見失ってはいけない。そこだけにこだわり始めると、とにかくいい選手を獲得するためにお金を使おうとなってしまうので、それではいけないと思っています。
田中:那須さんのお考えにはすごく共感します。ただ、やはり勝負の世界は勝っていくことも大事なので、バランスが難しいところですね。上位リーグに参戦していくためには、戦績もさることながら企業としての経営課題や、ホームグラウンドとしての地域の課題などもあると思います。今、那須さんが、まだまだ力不足と感じていることや、これに注力しているということはありますか?
那須:まず、経営的な話でいえば、やはり人材が足りないです。思いがどれだけ強くても、それを進めてくれる方がいないと、前に行けません。やりがいもあっておもしろい仕事だと思うので、興味のある方はぜひ仲間になってほしいと思います。そして、もう1つの課題は売上や観客動員数などの実績となりますが、地域企業さんへの営業体制がまだ十分に整えられていないので、早くなんとかしれなければと思っています。
田中:そんななかでも、毎年少しずつスポンサーを獲得されていますので、本当に頭の下がる思いです。また、骨髄バンクの啓蒙活動や、就労支援が必要な方々への働く場所の提供とサポートなど、社会貢献活動にも取り組まれていますね。
那須:はい。ある時、私たちが存在することで助かる方たちがこんなにいらっしゃるんだということに気がつきました。最初は、試合会場の設営作業でした。本当に体力が必要ですごく大変なんですけど、なんらかの事情で仕事ができなくなってしまった方々に、「働くってこういうことだということを体験してもらうために、会場設営を手伝わせてほしい」というお申し出をいただきました。われわれにとってはありがたいお申し出だったんですが、初めて一緒に作業をした時、少しずつ会場ができていく段階から最終的な完成をご覧になったときに、みなさんがすごく感動されたんですね。試合にもご招待して、皆さんが作り上げた会場でこれだけ多くの人が盛り上がる様子もご覧いただきました。
田中:そんなきっかけがあったんですね。
那須:これって、私たちにしかできない社会貢献じゃないかと気づいたのが昨年。今年はそうした活動に「SWOOPS COLLECTIVE」と名付け、社会貢献をもっと進めていこうとなりました。具体的には社会福祉法人舟伏さんという就労支援の方々と連携し、それから、特別支援学校にもお声がけするなど幅を広げていっています。私たちにとっても設営作業を手伝ってもらうことはすごくありがたいし、なによりも岐阜スゥープスに関わる人たちをどんどん増やし、それが社会福祉につながっていくのであれば、喜んでやっていきたい。みんなでお揃いのビブスを着て、一緒にやろうと盛り上がっています。
田中:それには選手の人たちも参加するんですか?
那須:はい。時々ですが顔を出してくれて、一緒に手を動かしたりしますね。
田中:いいですよね。選手も一緒にやってくれるのがすばらしい。岐阜市でも、「WORK! DIVERSITYプロジェクトin岐阜」いう取り組みをしていて、そうしたこととも連携できるといいですね。
那須:今後、設営作業から一歩進めて試合の運営に携わってみますか?ということにもなっていくかもしれません。普通の仕事と違って、試合の運営は必要なスキルも限られているので、職場復帰のトレーニングに適しているのかもしれません。
田中:確かに適しているかもですね。
那須:約2,000人が集まる会場で仕事をする体験は貴重な機会ですので、そこを一歩ずつ進めていけたらと思っています。
田中:バスケの試合で、観客と一体となって応援しながら働けるのですね。
那須:あまり体験できることではないかなと思います。何より、「この試合は私が手伝っているから運営できているんだ」という自己肯定感を感じてもらえるのではないかなと思います。また、「SWOOPS COLLECTIVE」では骨髄バンク活動なども取り組んでいきます。
ホームゲームがあるからと、
1週間がんばれる存在に。
田中:これから岐阜スゥープスをどうしていきたいと思っていますか?
那須:県民の岐阜への愛着度を高めることにもつながってくるんですけど、私たちの試合や岐阜スゥープスという存在って、いろいろと厳しい時代のなかで、ブースターのみなさんが自分の人生を受容するための1つの要素になっているのではと思っています。幸せそうにご家族で来ている方、お1人で来ている方、いろんな方々が試合会場にいらっしゃるんですけど、そんなみなさんが「岐阜スゥープスを応援するこの時間があるなら、自分の人生、楽しいやん」と思ってもらえる、そんな存在なのかなと思うようになりました。
田中:すばらしいですね。
那須:その気持ちの大小というのはお客さまによって当然違いはあると思いますが、ちょっと大きく捉えると、我々は皆さんの人生の1ページを作っているんです。それを認識したうえで、岐阜県民の愛着度を上げていこうと。昨シーズン初めてそのことを感じたので、スタッフや選手にもちゃんと共有しながら拡大させていこうと。大事なことに気づけてよかったと思っています。
田中:昨年、それに気づかれたというのは、何かあったんですか?
那須:試合会場では、本当にいろんな方の顔を見るようにしています。勝ち負けにこだわっている方もいれば、この時間がとにかく楽しいという顔の方もいる。きっと、私たちが一番にすべきことは、岐阜スゥープスを応援していてよかった。自分の人生の一部だとまで思ってもらえるみなさんの思いに応えることだと思いました。
田中:岐阜スゥープスへのいろいろな思いに応えたいと。
那須:例えば、1年に1度だけの音楽フェスもそうだと思うのですが、そこで思い切り弾けるんだ!という方が多いと思うんです。実際に私もそうでした。きっと岐阜スゥープスもそれと同じで、岐阜スゥープスのホームゲームがあることで、1週間がんばれるんだと思ってもらっているのではと。
田中:選手が好きだとか、チーム全体が好きだとか、ブースターによって千差万別だとは思いますけど、それは勝ち負けだけじゃないんですよ。
那須:ありがとうございます。選手同士の仲がいいとか、チームの雰囲気がいいといってくださる方も多いんですよ。私と選手の田中昌寛と2人で共同代表を務めていますけど、チームとして絶対に忘れてはいけないのが、人間性を大事にしたチームづくり。お金を使いさえすれば、いい選手を獲得できて、結果を出すことができます。バスケットは5人のスポーツなので、そのうちの外国籍選手2人が活躍してくれれば、ある程度の結果は出るんです。それはわかっているのですが、そうした選手を駒としたチームではなく、もっと人間性やチーム力を重視したチームにしていきたい。いつか私たちが成長してお金も潤沢に使えるようになったときに、一番いい使い方ができるように人間性とチーム力で勝負するチームカラーしたいと考えています。そういったクラブの哲学というか土台をつくるのが、フロントの仕事だと思っているので、絶対にそこだけはブレないようにしたいです。
田中:これは岐阜スゥープスに限ったことではなく、チームづくりの方針を選手一人ひとりに浸透させていくのは難しくて、とても大切なことだと思うんですけど、那須さんが重視されていることはありますか?
那須:チーム作りは田中昌寛に任せていることではあるんですけど、彼の選手に対するスカウティングはスキルだけでは判断しないんです。例えば、外国籍選手であればバジェットとともに、こういう特長の選手がほしいとエージェントに伝えると、エージェントが候補選手をリストアップしてくれます。それで気になった選手は、ハイライトだけでなくフルゲームを何試合も見ます。これで何がわかるかというと、自分のチームの選手が倒れたときに、すぐに手を差し伸べて助け起こしにいくか。ミスをして交代させられたときに、どんな顔をしているか。もちろん外国籍選手にはいろんなデータがありますが、こうした数字に表れない人間性を徹底的に観察するのです。その結果、今年は素晴らしい外国籍選手を獲得することができました。
田中:今のお話しを聞いていて瞬発的に思ったのは、企業経営でいうとM&Aや買収と同じだなって。これらが上手くいく事例は、経営者が何回もその会社に足を踏み入れて、かつ何回もそこで働く人たちと会話をして決断しています。岐阜スゥープスがスキルよりも人間性を重視されていることは、きっとブースターにも伝わっていると思いますよ。
那須:そうかもしれません。だから、ヘッドコーチもそれを重視する人間であってほしくて、今年のヘッドコーチに就任してくれた大垣市出身の小林康法氏は、試合中の振る舞いよりもコートを離れたときの振る舞いこそが本質なので、そこをしっかりとやりなさいという考え方なんですね。だからこそ、われわれはヘッドコーチに招聘しています。結果だけ追い求めるようなヘッドコーチは選びません。私と田中昌寛がそうした考えでいることは、これまでの選手たちにも重々伝わっていて、ほかのチームに移った選手たちからも聞きますが、岐阜スゥープスっていいチームだよという噂が、B3リーグのなかで広まっているようです。
田中:それは、うれしい話ですね。
那須:はい。お金はそれほど潤沢ではないし、練習やトレーニング環境もまだまだ一流ではないですけど、フロントが親身になってくれると。
田中:選手がチームを選ぶという点では、大きな武器というか、重要な要素になりますよね。
那須:結構、ほかのチームに出ていった選手が、気軽に相談してくることもあって。そこは、ちょっと自信を持っています。
田中:那須さんが持っていらっしゃる情熱は選手にも伝わりますし、社長と選手という立場だけど通じ合えるものがあるのでしょう。
那須:ありがとうございます。
ゆくゆくは地元出身の選手で
戦っていけるように。
田中:共同代表をされている田中昌寛選手はどんな方なんですか?
那須:田中昌寛という人間は本質を見失わないんです。もともと私は彼のファンですし、お互いに足りない部分を補い合っているという感覚があります。2人で決めることもたくさんあって、それがベストな選択だという自信はありますね。
田中:お2人で役割分担されているんですね。
那須:基本的にはチームを彼が見て、会社を私が見ているんですけど、重要なことはミーティングをしながら決めています。
田中:田中昌寛さんの外国籍選手のスカウティングはすごく参考になります。
那須:人手が足りないという話をしましたが、フロントに入ってもらう方も相当に吟味しているからなんです。
田中:チーム力と人間性でブースターが誇りを持って応援できるチーム、そして、いつかトップリーグを席巻するような強靭なチームをつくってほしいです。
那須:今、BリーグではM&Aなども巻き起こっていて、私たちもいつまで代表ができるかわかりません。チームの土台というのは自分たちのためではなく、これからこのチームが50年、100年と続いていくための下地づくりなので、そこは妥協せずにやりたいと思います。
田中:スポーツには地域や会社の絆を深めてくれる不思議な力がありますから、これからも地域社会の大切なピースとして役割を果たしていってほしいですね。
那須:最近、AIが急速に発展してきて、AIが作詞・作曲する時代になりました。近い将来、AIというかロボットがスポーツするようになるかもしれませんが、人間が目の前で死力を尽くす世界は絶対になくならないと思います。そこに、スポーツの未来があると信じています。
田中:音楽なんかも生のフィールは残るっていわれていて、今、ライブがすごく伸びているんですよね、逆に、スポーツの未来は明るいと思いますよ。
那須:ただ、スポーツビジネスの難しいところは、勝ち負けが経営に影響してしまうところです。ここだけはコントロールできません。
田中:また負けたんだとなっちゃいますもんね。
那須:スポーツ紙やネットで結果だけで見て終わりですからね。
田中:本当に、試合会場に来て応援してくださいというのが、まず一番ですよね。
那須:本当にそう思います。
田中:FC岐阜や大垣ミナモとなどとの交流はあるのですか?
那須:2024年の1月と2月に、FC岐阜のチケットなどを持参してもらうと、100円のワンコインで自由席に入場できるというのをやりました。
田中:100円とは画期的ですね。今後、岐阜出身の選手を増やしていくことはないですか?
那須:特に、U15などは進めていきたいですね。2024年は、男子は美濃加茂高校が、女子は岐阜女子高校がインターハイで準優勝しています。ところが、越境留学がほとんどで、どこの都道府県でも同じですが、それが課題となっています。
田中:強豪校は特にそうですね。
那須:今、バスケクラブが一生懸命やっているのは、U15、U18というところを育てていって、地元出身者で戦っていくことです。岐阜スゥープスもあとを追わなきゃいけないですね。
田中:でも、さっきの話じゃないですけど、スクールは順番待ちとのことですので、そこは大きな波が押し寄せているのでは?
那須:はい。しかし簡単にコーチは増やせないんです。私たちのフィロソフィーが崩れないようにする必要があります。
田中:うわ、難しいな。
那須:はい。それは田中昌寛の担当なんですけど、やはりコーチを増やさないとと思いながらも、岐阜スゥープスが大切にしていることをちゃんと理解したうえで動いてもらわないといけません。そこはまた、これからの課題でもあります。
田中:これだけSNSが普及したのは、スポーツ界にとってはよかったですね。
那須:そうですね。無料で多くの方にリーチできるのは素晴らしくありがたい事です。
田中:もう情報量が格段に違いますからね。バスケもこんなにホットになっているんだと、びっくりして。
那須:バスケットは「動画映え」もありますしスマホのこの時代に合っています。それ以上に、八村塁や河村勇輝のNBAでの活躍、ワールドカップやオリンピックでの日本代表の躍進があって、それに、『SLAM DUNK』の大ヒットも大きかったですね。スクールがいっぱいになったのは『SLAM DUNK』がきっかけでしたので。
田中:まさにうれしい悲鳴。
那須:いや、本当にそうです。
田中:今日はありがとうございました。
TOPIC
「SWOOPS COLLECTIVE」を開始。
具体的には、杉本憲男選手が中心となり取り組みをしている、「交通遺児育英会」の募金箱設置、骨髄バンクの啓蒙、就労支援が必要な方々への働く場所の提供とサポート、障がいのある方々の支援施設との連携など。岐阜スゥープスの会場設営や試合運営を手伝ってもらうことで、スポーツの現場を生活の自立や自己の成長に役立ててもらおうとしている。
全員で共有する、共同で作るという意味のある「SWOOPS COLLECTIVE」。地域社会のさまざまな社会課題を共有し、よりよい地域社会を共同でつくっていくチームやファミリーなどの集合体になりたいと、岐阜スゥープスは考えている。
Company PROFILE
企業名(団体名) | 岐阜バスケットボール株式会社 |
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代表者名 | 代表取締役社長 那須 史明 |
所在地 | 〒501-6102 岐阜県岐阜市柳津町東塚3-27 |
チーム名 | 岐阜スゥープス(GIFU SWOOPS) https://www.gifu-swoops.com/ |