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Interview
SDGsの先駆者に訊く

Re:toucher 57
地域で取り残される人を
1人でもなくし、
「幸せを実現する医療」を。

医療法人かがやき(岐阜県羽島郡岐南町)

理事長 市橋 亮一さん[写真左]
総合プロデューサー 平田 節子さん[写真右]
インタビュアー Re:touchエグゼクティブプロデューサー 田中 信康
SDGsターゲット
  • 03 すべての人に健康と福祉を
  • 05 ジェンダー平等を実現しよう
  • 08 働きがいも経済成長も
  • 11 住み続けられるまちづくりを
※このターゲットはRe:touch編集部の視点によるものです
医師や看護師が自宅へ訪問し、医療が行う在宅医療。諸外国に類を見ない速度で少子高齢化が進む日本、そして特に、山間地域が多い岐阜県においては、今後、通院ができず診療を諦めざるを得ない高齢者の増加も予想され、在宅医療の重要性が増していくことは想像に難くない。しかし一方で、在宅医療の実施水準はまだまだ低い現状もある。
そうした状況下で、2007年から岐阜県で初めて在宅医療専門クリニックを開設し、「地域に足りないものを提供する」ことを目標に、岐阜県内に在宅医療の拠点を広げているのが「医療法人かがやき」だ。注目したいのは、そのプロジェクトには医療従事者だけでなく、さまざまな人材が集まり、今までの医療にはなかった視点で在宅医療を運営している点。医療分野ではあまり目にすることがない「総合プロデューサー」という肩書きを持つ平田 節子氏も、そのメンバーの1人だ。地域における医療の持続可能性を見据えてチャレンジを続けるプロセスには、私たちが学ぶべき思いや手法が詰まっているに違いない。そんな期待に胸を膨らませ、今回は、市橋 亮一理事長と総合プロデューサーの平田 節子氏にお話を聞いた。

在宅医療を志す人材が集い、
輝けるよう拠点づくりを

田中:貴法人は、2009年から岐南町で在宅医療を専門とする「総合在宅医療クリニック」を開設されました。まずその出発点からお聞きしたいと思いますが、理事長が在宅医療を選んだきっかけは何だったのでしょうか。

市橋:私は、高校時代にラグビーをしていて、ある時、トライした時に左からタックルを受けて鎖骨を骨折した経験があります。すぐに整形外科を受診し、痛み止めをもらって帰宅したところ、夕方になってその医師から「鎖骨を固定するバンドが手に入ったから、今から自宅へ行って処置をします」と電話をもらいました。当時は訪問診療という言葉はなかったですが、これはとてもいい仕事だなと実感したことが、在宅医療に興味を持ったきっかけです。
ちょうどその時、高校の文理選択をしなければならない時期で、将来の進路につながることだからと、まずは仕事の前提条件を考えたんです。1つは、自分も相手も幸せにする仕事であること。2つ目に、自分が勝って相手が負けるのではなく、相手も勝つという仕事であること。そして3つ目に、年を取った時に不要になるのは残念なので、年を経るほど価値を高められる仕事であること。この3要件を満たす仕事がいいなと思ったんですね。その結果、研究者か医師という選択肢が出てきて、医師になるなら在宅医療を手がけたいと思い、今に至ります。

田中:高校生で仕事の条件を考えるというのは、なかなかないですよね。しかも、実体験から在宅医療を選ばれたことも運命的だと感じます。ちなみに、岐南町でスタートされていますが、この場所は何か縁のある場所だったのでしょうか。

市橋:私自身は愛知県岡崎市出身で、大学も在宅医療を志してトレーニングを積んだのも名古屋です。どこにクリニックをつくろうかと考えた時、名古屋と岡崎に加えて、候補に挙がったのが妻の実家がある岐阜でした。在宅医療は24時間対応なので、仕事も家庭も持続可能な状態にするためには、岐阜の方が妻の負担が少ないのではないかと思ったんです。当時、岐阜では在宅医療専門クリニックはなかったので、それも1つの挑戦だと思いました。最初は岐阜市内を考えていたんですが、より広い地域をカバーしようと思うと、緊急対応の時に東西南北どちらへもスピード感を持って行くことができる、交通の要衝と思い、インターのある岐南町を選びました。

平田:最初は、岐南町内の別の場所で小さな黄色い家を借りてスタートしましたが、全国から研修生が来るようになって手狭になってきたので、もう少し広いところに研修センターをつくろうと、かがやきロッジの構想が始まりました。私自身も名古屋に住んでいたので、名古屋からの人材も通ってもらうとなると、交通の要衝は笠松駅。そこで岐南インターと笠松駅の間で土地を探していたところ、この場所が見つかったんです。

田中:研修生を受け入れるために、移転・拡大したということなんですね。これまでどのくらい研修生を受け入れているんですか?

平田:ここに研修センターを建ててからは、年間300人くらいでしょうか。今日も7人が研修を受けていて、1人はオランダから来ています。

田中:しかし、今は在宅医療も浸透しつつありますが、2009年当時はやはり岐阜で初ですし、現在もこれほどの規模で行っている施設は多くないのでは?

平田:そうですね。岐阜でも開業医の先生が在宅医療も手がけることはありますが、専業では初めてでした。全国でもここまでの規模は100ヶ所もないのではないでしょうか。しかも、在宅医療は家が密集している大都市の方が成立しやすいので、その大半は大都市です。

田中:大都市でできるというのは理にかなっていますが、こうしたローカルな場所に、しかも点在して拠点を持つというのは、なかなかないでしょうね。

市橋:私たちは人材教育にかなり力を入れていて、毎年、常勤のドクターを2人くらい採用しています。少し前までは「1拠点をしっかりつくっていけばいい」と思っていたんですが、スタッフの数が多くなり、応募いただいても断らざるを得ない状況になってしまったんですね。そこで、もう誰も採用しないか、毎年やる気のあるスタッフを採用して、在宅医療を提供できる拠点を増やしていくか、2択だと思ったわけです。それなら、たとえば10年後に10拠点くらいまで増やし、何人応募してもらっても働ける場所を提供できる方が、ワクワクするなと思いました

平田:理事長が決意したのは、コロナ禍の時でしたね。第5波の時に東京で感染者が急増して、在宅医療をしている先生から「助けに来てくれないか」と要請があった時に、理事長が「行ってきてもいいかな」って3週間ほど東京へ行ったんです。その時、「東京には拠点を広げているクリニックがたくさんある。このやり方なら拠点を増やしてもやっていけるかも」と感じたんですよね。

市橋:そうです。もう1つは、東京に3週間いて、戻ってきてからも感染リスクを避けるために2週間は診療に出なかったんですが、その間にクリニックへ電話して「そっちの様子はどう?」って聞いたら、「先生、残念ながら普通に回ってます」って言われたんです。じゃあ、ここは任せてどこかに拠点を出してもいいかなと思ったんですよね(笑)。それでまず2022年4月に、名古屋に拠点を増やしました。

田中:なるほど。まずは成立しやすい都市部に出されたわけですね。その点は東京で得た体験からだと思いますが、その後、3拠点目を美濃市で始められたというところは興味深いです。次はぜひその点をお聞きしたいと思います。


人口減少地域にとけこみ、
地域に必要な医療を提供する

田中:2024年1月に、美濃市内にある「まちしごとシェアオフィスWASHITA MINO」に新たな拠点として「総合在宅医療クリニックみの」を開院されました。私たちも、以前から美濃市のまちづくりに参画し、WASHITA MINOに事務所を構えていたことから、貴法人と出逢うことができましたが、第3の拠点としてなぜ美濃市を選ばれたのか、そこに秘められた思いを教えていただけますか。

市橋:私たちは、「地域に足りないものを提供する」ことを目標に掲げています。未来を考えた時、足りないものとは人口減少地域の在宅医療です。人口減少地域では、医療崩壊にどう対応していくかが大きな課題。実は、それを解決する一歩目が「大都市で拠点を持つこと」なんですよ。大都市には、医学生や医療者との出会いがたくさんあります。たとえば岐阜大学に100人の医学部卒業生がいるとします。一方、ここから車で約30分の名古屋には、医学部を持つ大学が4つあり、単純に4倍の卒業生がいるわけです。だとしたら、名古屋に拠点があれば、そこで縁ができた人に岐南町の研修センターで研修を受けてもらって、チャンスがあれば岐阜県内の人口減少地域で、在宅医療の運営者として力を発揮してもらえるかもしれない。そのために名古屋に拠点を置き、人材の受け入れ先として、まずは美濃市を選びました。

田中:では、構想としてはサテライトのような拠点をつくって、思いを共有した若手の人たちに活躍してもらう場にするということですか。

平田:そのとおりです。また、人口減少地域での在宅医療は医療だけを提供していればいいわけではなく、まちづくりの中に参画しなければいけません。在宅医療で最も大変なのは、24時間365日をどう支えるかという点で、もし近距離にある小さなクリニックと連携できれば、支え合うことができます。そこで、美濃市内でまちづくりの拠点になっているWASHITA MINOに入れてもらうことにしたんです。ここにいれば、自然とこのエリアの人との出逢いが生まれていくので、在宅医療のネットワークも築くことができます

田中:なるほど。地域の人との出逢いが、在宅医療を広げるカギを握るなら、WASHITA MINOは最適な場所ですね。

平田:はい。在宅医療がどれだけ進んでいるかを見るのに、自宅看取り率というデータがあるのですが、今は全国平均で17%くらい。一方、美濃市は10.2%なんです。私たちのクリニックがある岐南町は25%くらいなので、岐阜県内でも低い数値です。これはつまり、美濃市にはまだ自宅で看取るという文化がないということを示していて、その文化づくりからスタートしなければいけないと思っています。

田中:それは意外ですね。都市部はすでに在宅医療が提供されているから、選択肢として確立されているということでしょうか。

平田:そうです。過疎地域の方が故郷や生まれ育った家に対する愛情があるはずなんですが、多くの人は病気になったら山を下りて病院か施設に入るものだと思っています。それは、在宅医療が可能だということを知らないからです。でも、たとえば腹部から胃に栄養剤を注入する胃ろうのカテーテル交換も、病院に行けば一日仕事になってしまう一方で、在宅医療なら20分ほどで終わります。それを知れば、誰でも病院に行かずに在宅医療を受けたいと思うはずなので、在宅医療が浸透すれば、在宅医療そのものがインフラになっていくと思います。

田中:今は遠隔診療をはじめとしたさまざまな方法があるので、さらに幅が広がっていきそうですね

市橋:私たちは地域の医師と連携しながら、年間1,500回の緊急往診を行っていますが、神経内科や皮膚科の医師もいて、オンライン診療も可能です。2009年にスタートしてから、私たちの患者さんはすでに400人くらいになっているので、400床のバーチャルな総合病院を1つつくったことと同じになるんですよ。実際に、この患者さんが施設や病院に入っていたら、病床が埋まり過ぎて救急対応もできなくなるでしょうが、自宅で生活しながら診療を受けられるので、そうしたこともありません。しかも、病院を建てるよりもコストは4割くらい安いし、患者さんにとっても病院なら1泊数万円のところが無料ですから、どちらがいいかは一目瞭然ですよね。

平田:ちょうど今、私たちが模索していることをお話すると、先ほどお話した研修を受けている人材の中に、オランダで働こうとしている日本人ドクターがいます。その方がオランダに戻った時、オランダの17時~22時が日本の0時~朝5時に当たるんですね。その時差を使って、夜のオンコールを遠隔診療で担ってもらえないかと考えています。それができるようになれば、できることがもっと広がります。

田中:それはすごい話ですね。まさに発想の転換というか、遠隔診療の可能性を最大限に活かす方法だと思います。私自身も、7年ほど前に遠隔診療をカメラで見せてもらって、すごい時代が来るなと思ったことがあったんですが、今はリアルにそうしたことができるようになっているんだと実感しました。


多くのプロフェッショナルとともに、
在宅医療の未来をつくる

田中:今日は、総合プロデューサーである平田さんにも同席いただいていますが、平田さんはこれまで医療とはまったく異なる分野の経歴をお持ちです。2012年に理事長と再会したことがきっかけで、医療法人かがやきに参画したそうが、なぜ医療の世界に入ろうと思われたのでしょうか。

平田:私と理事長が出逢ったのは、さまざまな分野の人が集まる忘年会でした。その頃、私はリクルートを退社し、友人と企業の採用活動に関わる会社を立ち上げた時でした。その後、理事長からホームページをつくり直してほしいという依頼があって、在宅医療を知るために、診察に同行したことがあったんですが、現場を見たら「これはすごいことが起こっているな」と思いました。前の会社で子どもたちのキャリア教育も手がけていたこともあり、子どもたちに小さい時から生きるということを考える機会を持ってもらいたいと思っていたのですが、在宅医療は病気を患ったり亡くなったりしていく家族が、常に子どもたちの近くにいる。命の大切さ、家族と一緒にいられる時間の大切さを、自然に教えられる在宅医療に、強く感銘を受けました。その時は、まさか自分がそこに踏み出すとは思いもしませんでしたが。

市橋:平田さんとは忘年会で交流を深めていましたが、その後、私は24時間365日対応のクリニックをスタートしたため、3年ほど参加できなかったんです。少し落ち着いた時に、久しぶりに顔を出したら、平田さんが「そろそろ次の仕事を考えている」と言うので、よかったら一緒にできないかなと提案しました。

田中:それが再会と参画の経緯なんですね。平田さんにとっては、在宅医療との出逢いが業種を変えるほど大きなインパクトがあったということですか。

平田:私は、それまで関わってきた就職・採用は「人生を選ぶこと」だと考えていました。その点では、在宅医療も家で住むという人生を選ぶこと。私はずっと人生の選択に関わっていきたいと思っていたので、この仕事もこれから20年はできるなと思って、ここに来ることを決意しました。

田中:しかしおもしろいのは、総合プロデューサーという肩書きです。なかなか医療法人でこういった立ち位置の方がいるのは、珍しいですよね。

市橋:実は、うちには平田さんを含めて7人のプロデューサーがいるんです。4名はリクルートや商社、銀行、ドクターを経てうちのスタッフになっていて、1名は現役の大学生プロデューサー。あとの2名は外部のゲストプロデューサーで、1人はゲームクリエイター、もう1人はコミュニティーデザイナーとしてまちづくりを行っている人です。

田中:それはユニークですね。今回、訪問させていただいたこの「かがやきロッジ」は、2017年にクリニックの機能に加えて、リビングやオープンキッチン、宿泊室、研修室など、地域の人や在宅医療を学びたい人がオープンに集まれる居場所を設けた施設としてオープンされていますが、ここに入ってきた時、本当に医療法人という感じがしなかったんですよ。医療のイメージを超越したというか。それがむしろ狙いでもあるのかなと感じたのですが、その背景には多種多様なプロデューサーがいらっしゃったということなんですね。こうした異業種からのプロデューサーを登用された理由をお聞きしてもいいでしょうか。

市橋:医療の中でも、在宅医療はそのものが新しい分野。2000年に介護保険ができてからまだ24年で、在宅医療は今もまだ発展途上なので、本当にあるべき形もまだ分かっていないのが現状です。では、この段階で誰が未来を担当するのか。現在は医師が担当できる。過去に行った医療行為は、事務員が診療報酬として請求してくれる。未来は、簡単にいえば経営者になると思うんですが、私1人では荷が重いから、未来を考えるプロデューサーにも頼りたいと思ったわけです。私は医療に関する相談にはのれるけど、それ以外の相談事を私にすることはないと思います。そこにまったく違う人を設定しておけば、そこに寄せられた相談から新しいサービス、必要なサービスが出てくるはずです。

田中:このかがやきロッジをつくる時にも、平田さんだけでなく他のプロデューサーを招いたんですよね。一見すると、総合プロデューサーである平田さんがその役割を担えばいいじゃないかと思う人もいるのではないかと思うのですが、あえてさらに外部の人を入れたのも、そうした意図からですか。

平田:かがやきロッジをつくろうという話になった時、まずはワークショップでスタッフの希望を出し合いました。その時、これを私がまとめると、どうしても私の視点が入ってしまうと感じ、地域の人も招きながら、より大きな視点で考えていくには、外部の人に入ってもらった方がいいのではないかと考えたんです。そこで、居場所をデザインできる方を探していたところ、『ひとの居場所をつくる』という本を書かれていたプランニング・ディレクターの西村佳哲さんを見つけて、お願いすることにしたんです。

田中:施設をつくろうと思ったら、通常は建築家にお願いするところですよね。そこを外部から人を入れて、意見をまとめるところから始めるところはさすがだなと思います。とはいえ、ファシリティってとても重要なので、その部分に外部の人を起用するのは、なかなか難しいことだと思いますが、その点はいかがでしたか。

市橋:私自身、人がやりたいと思ったことに対して、大きく間違っていない限りはなるべく騙されてみたいと思っていて(笑)。大きな枠組みは私が決めるとしても、私が分かっていることは過去の成功や現在見えている世界観でしかないので、未来に対する案件は、なるべくいろいろな立場の人に担ってもらいたいと思っています。

平田:ここで起こるプロジェクトは、みんなが実に多様な意見を持ち込むので、おもしろいですよ。私はいつも「畑じゃなく森」と表現しているんですが、畑は育てる品種も時期も計画して植えるので、1つでもズレると美しくなくなるけれど、森は計画どおりではなく、知らないうちに鳥が種を落として木に育ったりするからおもしろい。森が一見邪魔者に見える雑草なども自然の一部として許容しながら成り立っているように、プロジェクトも、組織も、地域との関係も同じだと思います。

市橋:だから私は、関わる人に自由に進めてもらうことを大切にしています。この建物も、建築家には「200年もつものを」というお願いだけしたら、向こうから先を見越したアイディアをいろいろと考えてくれて。1階はコンクリートで耐震性を強め、2階は木で軽くすることで、柱がなくても耐震構造を維持できる自由な空間をつくってくれました。

田中:任せるとはおっしゃっていても、理事長がちゃんとブレないこだわりを持っていらっしゃるので、そこに魅力を感じて人が集まってくるのでしょうね。その上で、こうしてみんなが参加できる場を提供している。そこはマネジメントのヒントになる要素だと感じます。

市橋:でも、私たちのチームに入るまでには、ものすごいセレクションがあるんですよ。アフリカのある部族の中に、他所から来た人がこの部族に入りたいと言った時に、全員がOKだったら入れるというルールがあるそうで、私もクリニックを始めた時から、ずっとそのルールを採用しています。今は人数が多くなったので、看護師なら看護部など、その人が入る予定の部署のメンバーに限っていますが、部署内の全員がOKを出さなければ採用されません。面接後、どうだったかを聞いた時に、「とてもいい!」「一緒に働けたら楽しそう!」とならなければ全部アウトなので、採用はだいたい5割くらいです。

田中:合議制を大事にされているということでしょうけど、厳しいですね。

平田:医療機関は常に人手不足なので、こうした制度をとっているのは珍しいと思います。でも、これだけしっかりとセレクションをしているので、一度採用した方は辞めることがないです。その結果、うちは採用媒体への広告費も退職金も必要ないので、その分をスタッフの研修費に回しています。スタッフは、自分の業務に役立つと思った研修があれば、どんなものも受けてOKです。私たちはプロフェッショナルな人を雇用しているので、1人1人のプロフェッショナリズムを疑う必要がないんです。だから、申請や許可など面倒なことはしません

田中:プロフェッショナルが揃っているから、スタッフとも患者さんとも、信頼関係を築けているわけですね。

市橋:うちの患者さんは、基本的に病院やケアマネージャー、ご遺族やご家族から紹介される人がほとんどです。営業をすることはないので、毎日の業務が紹介につながるということ。喜んでいただけたらリピートしてもらえるので、一瞬一瞬が勝負です。
患者さんの課題解決って、今、調子が悪いことを解決するのではなく、人生でやりたいことなど、より幸せな方へ目を向けることが大切。やりたいことやあるべき姿に向かうプロセスの中で、マイナスな点も同時に解決されるのが理想ですね。だから私たちは理念に「希望する在宅生活を安心して送れるように支援する」ということを掲げています。実際、希望と安心って、「お酒はダメだけど飲みたい」というように本質的には矛盾しています。でも、危ないから止めるのではなく、誤嚥しないようにゼリーなどへ形態を変えたり、食べる時に専門家が介入したりして、危ないけれどやれるようにチャレンジし、この矛盾を成立させることが専門家の存在意義。難しいことですが、いろいろな知見からチームでアプローチして解決することによって、私たちも磨かれていきます。

平田:旅行に行けるようにとリハビリを始めたら足が動くようになったり、食べたいものが食べられるようになったりということは、実際に起こるんですよ。お葬式や法事の時に旅行へ行った時の写真や映像を見て、「あの時は行けてよかったね」って楽しい話ができることが、人生にとって大切だと思います。

市橋:こうした思いは、他のスタッフにも共通して持ってもらいたいので、運営のためのフェローシップといって、クリニックの成り立ちや基本理念を伝える時間を2週間に1度、2時間持つようにしています

田中:いや、本当に素晴らしい。この記事は、経営者が読んだ方がいいですね。今の社会では働き方改革もあって、企業におけるマネジメントの在り方が問われています。その点で、採用方法や理念の共有方法、人材が活躍できる場づくりは、いい意味で医療法人らしからぬ考え方にあふれていて、大変勉強になりました。今回は本当にありがとうございました。

TOPIC

  • 03 すべての人に健康と福祉を
  • 11 住み続けられるまちづくりを
  • 17 パートナーシップで目標を達成しよう
※このターゲットはRe:touch編集部の視点によるものです
人口減少地域における在宅医療の実現へ!
「総合在宅医療クリニックみの」を開設
2009年に岐南町にて開設した「総合在宅医療クリニック」、2022年4月に名古屋市内で開設した「総合在宅医療クリニック名駅」に続き、2024年1月には、「在宅みとり率」が10.2%と県内でも低い水準にある美濃市で、初の在宅医療専門医療機関となる「総合在宅医療クリニックみの」をオープン。クリニックより半径16km以内を対象に、美濃市全域と関市の一部地域にて、24時間365日体制で在宅医療を実践している。同クリニックは、美濃市のうだつの上がる町並みにある明治初期の古民家「相生町長家」をリノベーションした「まちごとシェアオフィス WASHITA MINO」内に開設され、地元住民との関わりを深めながら、地域密着型で在宅医療を広げている。

Company PROFILE

企業名(団体名) 医療法人かがやき
代表者名 理事長 市橋 亮一
所在地 〒501-6014
羽島郡岐南町薬師寺4-12

Re:touch Point!

これから描かれていく在宅医療の未来に大きく期待

Re:touch
エグゼクティブプロデューサー
田中 信康
将来、医療破綻の可能性も考えられる人口減少地域を、在宅医療で支える。医療法人かがやきは、その強い思いに向かって確実に歩みを進めている。それは、ただ在宅医療というサービスを提供するだけに留まらない。在宅医療を担っていく人材の研修を全国から受け入れ、岐阜県内の人口減少地域の担い手を育むという想像以上に大きな視野で、持続可能な地域の在宅医療体制を構築している。そのプロセスに強い感銘を受けた。
その中でも特に心を打たれたのが、組織マネジメントの手法だ。「海は同じ深さならどこかで出逢えるように、同じ思いや似たような考え方を持っている人とは分野が違ってもどこかで出逢える」と話す市橋理事長の下には、総合プロデューサーの平田さんをはじめ、志を同じくする多くの人材が集い、日々の業務はもちろん、採用から新たなプロジェクト運営まで、すべてのスタッフと共創することで、今までの概念を超えた斬新なアイディアを生み出している。これはまさに、SDGsを共通言語にして、思いを同じくする岐阜のヒト・モノ・コトの出逢いを生み出し、岐阜の未来を創造するという私たちが目指すことそのものだ。
「在宅医療そのものはまだ新しく、これから未来を築いていける分野」と語る市橋理事長。その瞳に描かれるこれからの在宅医療のカタチは、岐阜の未来にとって大きな希望となることだろう。