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親の目線で感じた社会課題を
解決する商品を生み出したい
田中:まず、このプロジェクトの発起人が谷重さんだと聞きました。谷重さんが食をキーワードに活動しているのには、何かきっかけがあったのでしょうか。
谷重:きっかけは2つあります。1つは、新型コロナウイルスの流行です。私も家庭を持つ身として、自分や家族の健康を守るのに何が一番大切かと考えた時に、もしかしたら今後も新しい病気が出てくるかもしれないという中で、病気に振り回されない自己免疫力を高めておくことが重要なのではないかと考えました。
その時、ちょうど子どもが大学に進学で一人暮らしをしている時期と重なっていたんです。親元を離れると、多くの子どもたちは忙しい毎日の中で、どうしてもコンビニやファーストフード、レトルト食品に頼ることが多くなって、体調を崩すことがあります。それは、自分の子どもだけではなく、友人からもよく耳にしていたことでした。
親は「野菜も摂ってほしい」って思うけれど、野菜を送ったって、子どもたちはずっと勉強ばかり頑張っていて、家事の手伝い、ましてや自炊なんてそれほど家庭で携わっていない。その上、アパートの狭いキッチンでは、できることも限られます。そこで、子どもでも簡単に作ることができて、栄養がしっかり摂れる食品を作れないかと考えたんです。
田中:たしかに、コロナっていろいろな気づきを人に与えたものだと思います。大人でも自炊とか健康に配慮した食事って大変なのに、子どもたちに求めるのはさらに難しいです。その結果、考え出したのがドライベジタブルだったわけですね。
谷重:はい。刻んでドライにした野菜なら、スープに入れるだけで栄養バランスもよくなります。乾燥させることで、栄養素が高まる野菜もあるので、一石二鳥だと思いました。これなら、離れて暮らしている子どもにも送りやすいし、今は多くの女性が働いている時代なので、小さな子がいるお母さんが忙しくて料理の時間がとれないという時も、スープに入れるだけで一品できる。「家族には体にやさしい食事を」と思っているお母さんの思いに応えられると思いました。
それまで私は広告の仕事に携わっていたんですが、その仕事はバーンと辞めてしまって、「食に関わる仕事」に走り出しました。まず、無農薬で野菜を育てている農家さんを回ったんですが、農業をされている方たちは、おいしいものをつくることに対する思いが純粋で、芯が通っているのをあらためて再認識しました。そこで、どうにかこの野菜でドライベジタブルを作りたいという話をした時に、廃棄される部分や形が悪くて市場に出せないものがあると聞いて、それを活用できないかと思ったのが、商品化に踏み出したスタートです。
そうした取り組みをしながら、作ったドライベジタブルやフルーツをオーガニックマーケットなどで細々と販売していたのですが、その時に出店していた農家さんからも「新鮮さが失われると破棄することになる」と相談を受けるようになったり、いろいろなアイディアをいただいたりするようになって、「もっと課題を抱えている人の架け橋になるような商品がつくれないか」と。それを突き詰めていった最初の商品が、今回の十穀らーめんです。
田中:ご自身の身近な課題からスタートして動き出したところに、同じように別の課題を抱えていた人が集まってきたという感じなんですね。ちなみに、マムクレインという社名はどこから来ているんですか?
谷重:私の実家が、菊鶴足袋という約100年続いた足袋屋だったんですが、時代と共に足袋製造も岐阜の繊維産業も衰退していって、会社を閉めることになりました。事業は承継できませんでしたが、約100年続いた先祖代々の思いを受け継ぐことはできないかと思った時に、繊維ではなく食という手法ですが、日本のいいものを伝えていけたらと思って、「菊・鶴=マム・クレイン」と名づけました。
田中:そうでしたか。すごく共感できるものがあります。実は、私は一般社団法人長良川リトリートという団体をつくって、代表を務めているんですが、その団体が目指すものの1つがオーガニックを普及させること、もう1つが繊維のまちだったことから岐阜和綿を復活させることなんです。どちらも強い思いを持っている方がたくさんいらっしゃいますが、持続的に取り組むにはコストもかかります。でも、やはり今の時代、もう一度そうしたいいものを見直すべき時に来ているし、体に入るものや身につけるものに対する意識も、高まり始めていると感じています。オーガニックも、以前より多くの人に受け入れられるようになってきたと思いますが、いかがですか?
谷重:そうですね。認知は広がっていると思います。無農薬で育てられた野菜の良さは、本当に生のままでも安心して食べられること。いろいろと手を加えなくても、塩やオリーブオイルだけで本当においしいのが、一番いいと思います。
田中:やっぱりそれを食べ始めた人、使い出した人っていうのは、「これじゃなくちゃ」となっていきますよね。やっぱり食べてもらわないと、いいものでも作り手は作り続けられないですし、オーガニックの野菜を身近に感じてもらう、日常使いしてもらう手段を発信していくことは大切ですよね。
「人にも環境にもやさしい食を」
大切にしてきた思いが集結
田中:今日は、桜井食品さんが敷地内で営業している自然派食品の販売店「わらべ村」でインタビューをさせていただいています。お三方が出会ったのも、こちらで行われているマルシェだと聞きました。
桜井:桜井食品は、製麺を中心に精米や精麦加工、小麦製粉などを行っている会社ですが、1968年から人工着色料や漂白剤などを使わない無添加製品の製造を行っています。その後、欧米にラーメンの輸出を試みた際に、「オーガニックに対応してほしい」という要望があり、オーガニック認証を取得して輸出を始めました。当時、欧米はオーガニック食品も日本よりずっと進んでいて、私が「オーガニックな商品が当たり前に手に入るようになってほしい。日本でもこうした食品を販売したい」と思って始めたのが「わらべ村」です。現在は、ベジタリアン食材やマクロビオティック食材、フェアトレード品、動物実験をしていない化粧品などを販売しています。
田中:無添加・無漂白の小麦で麺を作り始めたのが、50年以上前ですか。すばらしいですね。
桜井:でも、最初はまったく受け入れられなかったんです。それまで真っ白いうどんだったのが、無漂白で少し茶色っぽい麺になったので、まったく売れなくなってしまって。ここで廃業するかと悩むところまできたときに、あと1回チャレンジしてみようと、それまで国内になかった無添加ラーメンを製造したところ、ちょうど「過度な着色料は危険だ」という意見が社会に出始めたタイミングで、受け入れられたんですね。
田中:今いただいている飲み物も、併設されているキッチンカーで作られたものなんですよね。
桜井:はい。「体にやさしい食べ物」をテーマに、ヘルシーだけどおいしくて食べ応え満点の食事を提供しようと、2022年に「Wara Vege」というキッチンカーをオープンしました。ヴィーガンのホットドックやフィッシュサンド、乳製品や卵、白砂糖を使っていないヴィーガンジェラート、フェアトレードやオーガニックのドリンクなどを提供しています。この店の前で、生産者と消費者の交流の場になればと、毎月ファーマーズマーケットやマルシェを開催していて、そこにお2人にも出店してもらっていたのがきっかけで、出会いました。
田中:中田さんは、桜井さんのマルシェに出店している際に、谷重さんに出会ってこのプロジェクトに参加されたんですね。どんな事業をされているかもお聞きしていいですか?
中田:はい。主人はずっともったいない地域資源を見つけ、起こし、繋げる仕事をしていて、遊休地の再生やそば打ちをしていた経験から、古民家をリノベーションして手打ちそばを提供するコワーキングカフェを始めました。カフェでは原材料はできるだけ近くのものにこだわって、野菜は無農薬・無化学肥料でできるだけ固定種・在来種のものを使用したり、添加物や化学調味料を最大限にカットしたりしています。現在は、自家栽培の割合もかなり増えてきています。
田中:なるほど。そこで農業もされて、その野菜をドライベジタブルにしているということですね。
中田:そうです。私たちは地域おこしの一環で農業をしていたので、「もう1人でドライベジタブルを作るには限界がある」と相談された際に、「それなら、うちにある業務用の乾燥機で加工をやってみようか」と提案しました。それから意気投合して、今は十穀らーめんに入っているドライベジタブルの加工を手がけています。
田中:ドライベジタブルにするというのは、やはり難しさがあるんでしょうか?こだわった部分なども聞ければ。
中田:乾燥させる時間も温度は、野菜それぞれでまったく違います。切り方が違うだけでも、干す時間も変わってくるので、何度も試行錯誤して最も適した方法を探りました。それに加えて、口に入れるものなので食べやすさも重要。水で戻した時にどのくらいで戻るのかも、研究を重ねましたね。簡単に調理することもコンセプトだから、野菜が太いと戻すのに時間もかかる。できるだけ時短で調理できる点も考慮して、改良を加えていきました。
田中:これだけ野菜が入っているってすごいですよね。麺もノンフライだし、スープはうま味調味料が使われてない。最近、年なのかインスタントラーメンを食べる気にならなかったけど、これなら食べられそうです。
中田:普通のインスタントラーメンは、脂分が結構入っているので、食べられないという年配の方もいらっしゃいますが、これはスープを飲み干せてしまいますよ。
桜井:麺も小麦粉だけじゃなく十穀にしました。最近、雑穀米って普及してきていますが、ご飯だと食べづらいという方にも、ラーメンとしておいしく食べてもらえたらと思ったんです。
田中:今は、どこで販売されているんですか?
谷重:現在はマルシェと中田さんのカフェ、あとは道の駅などで販売しています。今はまだドライベジタブルの生産がなかなか大変なので、200~300個を必要に応じて作って販売する感じですが、「規格外野菜を使ってほしい」という農家さんの声もあるので、徐々に生産数を増やしていきたいですね。
幅広い層の人たちが
生産に携わるダイバーシティ食品
田中:ラーメン自体は、中田さんの野菜、桜井さんの麺で成り立っていますが、このプロジェクトにはこの他にも多様な方々が携わっているんですよね。
谷重:はい。袋のパッケージデザインは、岐阜市立岐阜商業高校の生徒さんが考案してくれました。同校が毎年行っている「市岐商デパート」というイベントで販売してもらうことになって、コラボレーションが実現したカタチです。また、このパッケージを折って袋に詰める工程は、障がいを抱える方の就労継続支援事業所で担っていただいています。
田中:私もこの活動の中で、高校生の活動にも立ち会わせてもらっていますが、学生がリアルに社会体験をすることやその中でコミュニケーションをとることは、社会に出る前のいいシミュレーションになると感じています。谷重さんは、この他にも高校生とのコラボレーションを積極的に行っていらっしゃいますね。
谷重:市岐商の生徒さんとは、SDGsの課外授業の一環として、規格外野菜を活用したオリジナル弁当を開発し、課外イベントで実際に販売しました。知人の協力農家さんへ出向いて規格外野菜を収穫し、発酵食品開発の会社とタイ料理屋さんに協力してもらって、お弁当を開発。販売に必要なポスターやブランドシールをつくったり、SNSアカウントを開設して告知をするなど、販促活動の大切さも学んでもらいました。
また、ヒマラヤアウトドア館で行ったSDGsイベントでは、フェアトレードのオーガニックココアを販売する体験をしてもらったり、小さな子どもたちが楽しめる縁日をお手伝いしてもらったり。今の高校生はコロナ禍だったこともあって、人と触れ合う時間が少なくて、声掛けをしてコミュニケーションをとっている姿は先生方も見たことがなかったと言っていただいたのは、よかったと思いましたね。
田中:自分が関わったものが世の中に出て売れるという体験は、すごいことですよね。私も小学校から大学まで、多くの教育現場でSDGsの話をしに行く機会がありますが、教科書に載っていないようなことを仕事の現場で働いている人から学ぶことは大きいし、ましてや消費者と触れ合えるのは「これが本来のコミュニケーションだ」と思う。それを体感できる機会は、子どもたちにとって貴重だと思います。
防災という新たな切り口から
食の大切さを発信
田中:先ほど、インスタントの壁があって利益度外視の値段設定だというお話がありました。オーガニックとか体にやさしい食品というものの価値が普及していかない理由や妨げになっているものは、どういうところにあるとお感じですか?
谷重:やはり手間がかかっているのは分かるけれど、単価が高いものには手が出ない、安いものに向かっていく世の中の流れはあると思います。
桜井:特に食べ物は難しくて、アピールの仕方を間違えると抵抗感も生まれてしまうので、とても繊細だと感じています。
田中:周囲の理解が進まず、苦労や思いなど本当の価値を価格に転嫁できない苦労というのは、私たち印刷業界も同じですね。安いもの、それでいいという人がどんどん出てくる中で、たとえば持続可能な森林活用・保全を目的としたFSC認証を受けた紙を使用するなど、どう付加価値をつけるかが重要。世の中がそうしたものの価値を認める流れになれば、こうした思いを込めた商品も理解されて、しっかり潤っていくことになると思います。持続可能なプロジェクト運営に向けて、何か次の展開を考えていらっしゃいますか?
中田:今、ドライベジタブルや十穀らーめんを防災の備蓄品として活用できないかと考えています。多めに買って備え、食べてまた買い足すという「ローリングストック」という概念とともに、普及出来たらと思っています。
田中:それはいいですね。それは結果として、フードロス削減にもつながります。先日、大垣市で全国から高校生の起業家を募ったビジネスアイデアコンテストが行われたんですが、その際に優勝したのがローリングストックやフードドライブなど、防災食をテーマにしたものでした。女子高生のグループだったのですが、防災食に「おいしい」という観点をもっと入れていこうと、さまざまな工夫をメニューに加えていて、裏側には生産者をはじめ大人のサポートもあって、本当におもしろいアイデアでした。近年は、能登半島地震をはじめ自然災害も頻発しており、防災食はまさに注目される社会課題解決の1つだと思います。
中田:やはりドライにすることで長持ちするので、備蓄用には最適です。ゴミにもなりにくく、調理も簡単で栄養がすぐ摂れるという面でもピッタリです。
谷重:防災食の課題はあまりおいしくないという点もあると思いますが、無農薬野菜がそのままドライにされているので、野菜から凝縮された甘味が出るんです。野菜自体がスープのだしにもなるので、味も栄養も断然違います。
田中:そこにこうした若い世代の意見も取り入れると、違う気づきが生まれるかもしれませんね。フードドライブも、最近は多くの人が動き出されていますので、こうしたところにもオーガニックというエッセンスやこだわりが入るとおもしろいと思います。そうなると課題であるコスト面でも、社会課題解決ということで行政なども巻き込むことができるのではないでしょうか。
中田:実はすでに市町村から「やってみましょう」という声をいただいていて、手応えを感じています。これを子どもたちにも教えていけたらとも考えています。
田中:それはいい!まだまだ防災の観点を持っていない子どもたちに伝えてほしいですね。岐阜はまだあまり大きな地震に見舞われていませんが、やはり日本は地震大国ですし、南海トラフが起こることはずっと言われていることなので、とてもいい事例になると思います。地震だけでなく水害もありますし、行政と一緒に1つのいいケースにつながれば、さらに展開できそうですね。
桜井:もう1つ、十穀らーめんが美濃加茂市のふるさと納税の返礼品として登録されまして、広く商品を知ってもらい、リピーターになってもらうきっかけの1つになればと考えています。
田中:商品開発から、もうすでに次のステップに移られているわけですね。さまざまな可能性を感じる商品なので、今後の展開が楽しみです! 本日はありがとうございました!
TOPIC
ドライベジタブル付き「十穀らーめん」を開発
Company PROFILE
企業名(団体名) | マムクレイン |
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代表者名 | 代表 谷重早侑利 |
企業名(団体名) | 桜井食品株式会社 |
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代表者名 | 代表取締役 桜井芳明 |
所在地 | 〒505-0051 美濃加茂市加茂野町鷹之巣343番地 |
企業名(団体名) | そばのカフェおくど(合同会社地域と協力の向こう側) |
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代表者名 | 代表 中田誠志 |
所在地 | 〒501-3521 関市下之保1119番地-1 |