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Interview
SDGsの先駆者に訊く

Re:toucher 50
高校生たちが、
高齢者向けに非常食の
アレンジメニューを開発。

岐阜県立大垣桜高等学校(岐阜県大垣市)

教諭 河村 素子さん[写真後列中央]
生徒のみなさん 武藤 那月さん[写真前列左]
解良 穂乃花さん[写真前列中央]
永井 敦大さん[写真前列右]

社会福祉連携推進法人 黎明−reimei−(岐阜県岐阜市)

経営支援室 室長 伊東 亜樹さん[写真後列右]
インタビュアー Re:touchエグゼクティブプロデューサー 田中 信康
SDGsターゲット
  • 11 住み続けられるまちづくりを
  • 12 つくる責任 つかう責任
  • 17 パートナーシップで目標を達成しよう
※このターゲットはRe:touch編集部の視点によるものです
東海3県では初となる社会福祉連携推進法人「黎明」とコラボレーションして、岐阜県立大垣桜高校の食物科2年生の生徒たちが非常食を活用した高齢者向けのアレンジメニューを開発した。社会福祉の現状について学ぶことから始まった5回の授業の最後には、食物科の生徒が6つのグループにわかれてレシピの発表会を実施。先生や栄養士などの審査員の合計点で選ばれた優秀レシピは、黎明の特別養護老人ホームなどで実際の食事として提供されることになっている。
非常食の煮物をすり潰してソースにする。豚汁の具材を取り出して卵焼きで巻く。食物科の河村素子先生でさえびっくりして、現場の栄養士が唸った発表が続くなか、3グループの「おなかいっぱいなつかし料理」が、優秀レシピとして表彰された。高齢者向けの非常食のアレンジメニューは高校生たちには未知の体験であったが、レシピの発表会の前に話を聞いた生徒のなかには進路の選択肢が広がったと語る生徒もいた。
今回は、非常食を活用した献立開発プロジェクトの仕掛け人である黎明の伊東亜樹さん、また、大垣桜高校の河村素子先生、食物科2年生の武藤那月さん、解良穂乃花さん、永井敦大さんにインタビューした。

2023年9月19日のレシピの発表会を前に、武藤那月さん、解良穂乃花さん、永井敦大さんを中心にお話をお聞きしました。

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災害時でも、高齢者においしい料理を
楽しんでもらえるように。

田中:黎明さんと、非常食を活用した献立開発プロジェクトをやろうとしたきっけは何だったんですか?

河村:黎明さんからお声かけをいただきまして、食物科2年生の授業で取り組もうということになりました。

田中:7月から9月までの5時間の授業で、まず、地域福祉について学ばれて。そのうえで、災害時でも高齢者においしい食事を楽しんでもらえるようなレシピを考えて、優秀なレシピは黎明さんの特別養護老人ホームなどで実際に食事として提供してもらえるとお聞きしてしますが。

河村:その通りです。

田中:今日はその5回目の授業で、これから6つのグループが開発したレシピを発表して、優秀レシピが決まるという大切な日なんですね。みんな発表に向けてドキドキのなか申し訳ないんですが、少しお話を聞かせてください。

複数:はい。

田中:高齢者とか非常食とか、普段の授業にはないテーマだったと思うんですが、みんなで取り組んでみてどんな感想を持ちましたか?

解良:ただ料理をするだけなくて、やっぱり高齢者の方は、私たちと同じ食事ができない方も多いので、そういうことをちゃんと考えなければならないところがとても難しかったです

田中:そうですよね。健常者の方に提供するレシピでも簡単なことじゃないと思いますが、永井くんはどうでしたか?

永井:正直、高齢者に限られると、自分たちにはわからないという問題が出てくると思うんですが、それを考えながらメニューを考案しなければならないのはすごく大変なことでした。

田中:ありがとうございます。では、武藤さんは?

武藤:はい。高齢者のこともそうなんですが、一番はあまり身近では使わない、日常では使わないような、レトルトじゃなく非常食をメインで使ったので、非常食の味から吟味しなければならないところが難しかったです

田中:自分たちが日常生活で経験したことのないことを学んでいくことになったんで、そういうことがあるんだっていうことを知っただけでも大きな学びだったと思うんですが、それだけではなくてそうしした条件に合わせてレシピ開発しなければならないって簡単なことではなかったですねよ。

武藤:そうですね。

田中:みなさんチームは違うんですか?

永井:違います。

武藤:別々です。

田中:どんなところに工夫したとか、少し教えてもらえませんか?

解良:一番はやっぱり非常食だからじゃなくて、いつもと同じ食事を高齢者の方にも楽しんでもらえるように考えました。

田中:災害という大きな不安のなかで、せめて食事の面だけでもストレスを感じてもらわないようにするっていうのは、すごく大切な視点だと思いますよ。そこに注意したということですね。

解良:そうです。

田中:どんなところに工夫しましたか?

解良:日常食っていうところに視点を置いて、私たちと高齢者の方で差が出ないように、高齢者の方でも同じ食事ができるように考えました

田中:レシピの発表が楽しみになってきました。武藤さんはどうですか?

武藤:私は災害の方に注目して、時短で調理できるようにしました

田中:どのように調理できるようにしたんですか?

武藤:ポリ袋を使って、入れて、漬け込む。ポリ袋で火を使わなくて、簡単に調理できるように。

田中:ありがとうございます。永井くん、同じ質問ですが?

永井:個人で考えたときには、高齢者の立場になることは当たり前ですが、介護をする側の立場になってみて、食べやすさとか、どうすれば短い時間で調理できるかとかを考えていて。それで、グループ交流のときには、やっぱりさっきいったようなこと、食べやすさとかも考えつつ、見た目でも災害時にはないような感じのメニューをグループで話し合って、これいいねっていうのにしました

田中:今の話って、同じ立場になって考えてみるっていうことですよね。それって、どんな想定にしていたんですか?

永井:自分が歯が弱かったとしたらとか、もし調理できる時間が短かったときに、どうやって短縮していくかって考えていました。

田中:それぞれのグループは6人ずつでしたか?

解良:そうです。

田中:みんなのバラバラな意見を、よくこの短い時間にまとめられましたね。7月に2時間で、夏休みをはさんで、9月に2時間で、今日が発表なんでしょう。本当に短期間でいろんなことを集中して学べる機会だったと思いますが、みんな充実していたんじゃないですか?

解良:そうですね。

田中:今まで勉強してきたことと、ちょっと違っていましたか? 永井くん、どうでした?

永井:やっぱりやったことがないことだったんで、正直、難しかったし、もうちょっと時間がほしいなって思っていました。

田中:武藤さんは?

武藤:私は本当に時間がないっていうのと、自分が普段食べているのでいいのかっていう不安もあったので、自信を持ってメニューが出せていたわけではないところがありますね

田中:なるほど。でも、それもいい気づきなんですよ。どうですか、解良さんは?

解良:やっぱり、料理の味だけじゃなくて、高齢者の方は歯が弱いというのもあるから、食材の切り方とか注意しなければならないのが大変でした


座学だけではわからない、
実践的な学びの場になった。

田中:高校生が授業のなかで生の社会課題に触れられることってそうそうないと思いますが、どうして大垣桜高校に声をかけられることになったんですか?

伊東:黎明も社会福祉連携推進法人として立ち上がって、岐阜県の社会福祉法人さんを対象にした防災に力を入れていきたいと思っています。そうしたなかで、黎明のスタッフだけではなくてこういう若いみなさんのお力をお借りすることによって、結果、同じメニューになったとしても、大垣桜高校さんのみなさんがレシピを考えてくださったということで、地域のみなさんに広く知っていただき応援もしていただけるんじゃないかと

田中:そうですね。高校生たちもテーマは難しかったかもしれないですが、すごく意義のあることだって感じたんじゃないかと思いますね。時間が足りなかったっていうのは仕方がないことで、それほどみんなが責任を持って真剣に取り組んだっていうことなんですよ

複数:はい。

田中:今回の非常食を活用した献立開発プロジェクトをやってきて、こういうことにすごく関心を持ったとか、何か自分の中で課題を感じたとか、自分の気持ちがこう変わっていったとか、ありますか? どうです? 永井くん。

永井:やっぱり考え方というか、考える幅が広がったなと思って。私のグループのなかで、煮物のレトルトを、非常食のものをソースにするっていう案があったんですよ。その考えは私になかったんで、すごい、また1つ引き出しが増えたなって感じがして

田中:煮物を?

永井:煮物をソースにする。

田中:煮物をソースにする。へー。

永井:煮物をソースにして、また別のものにかけて出すっていう。

田中:すごいね。ちょっと今までにない発想ですね。

永井:ないです。

田中:どうですか?武藤さん。

武藤:私は、非常食でもアレンジすれば、無理なく食べられる料理にできることを学びました。私の家に非常食を一切、置いてないんですよ、食べたがらなくて。でも、今回、食べやすくできるんだってわかって。ほかの家もそうだと思うので、レトルトのように非常食も取り入れて、もっと広げていきたいと思いました

田中:なるほど、すばらしい。非常食のローリングストックにもなるね。すごく重要な気づきだったと思います。解良さんはどうですか?

解良:あとで発表するんですが、グループの1人が提案として持ってきてくれたのが、普通の卵焼きに豚汁を加えて、一緒に巻くっていう案があったんですよ。でも、私のなかでは豚汁は汁として存在するものだったので、一緒に巻くなんてすごい発想だと思って。そういうみんなで一緒に考えることで、いろんな気づきが生まれたと思います

田中:豚汁を卵焼きで巻く?

解良:そうです。

田中:さっきの煮物をソースにするというのもそうですが、今回のプロジェクトを通じて発想の転換っていうか、新しいアイデアにつながったっていったんですね

複数:はい。

田中:岐阜県でも、毎年どこかで集中豪雨の被害が発生しているし、南海トラフ地震がいつ起こってもおかしくないといわれているんで、非常食って本当に大切なんですよね。非常食の種類もどんどん増えてきているんですよね。

解良:いろんな非常食がありました。筑前煮とか、きのこ汁とか、スープまでありました。

田中:私はこれまでの授業を見ていないんですが、みんなたくさんの気づきがあったんだろうなってことが、みなさんのお話を聞いていてよくわかります。黎明さんのような地域福祉の最前線で活躍されている方が授業に来てくださって、座学だけではわからない実践的な学びの場になったんじゃないかと思います

解良:そうですね。

田中:郡上市の中学校では、中学生と飲食店が一緒になって考えたメニューを地域のみなさんに食べてもらうマルシェをやっていますが、みなさんのアイデアでどんどん広がっていくといいですね。ところで、みなさんはご両親に今回のプロジェクトの話をしていますか?

解良:してないです。

田中:していない?したほうがいいよ。すごいことやっているんだから。私は、全国的にもそんなにない取り組みだと思います。これから少子高齢化や超高齢社会がどんどん進んでいくなかで、みなさんは本当にその真っただ中で生きていかなければならないので、こういう経験って自分の人生で必ず生きてきますよ。実際、高校生の意見やアイデアが地域社会や民間企業で採用されるようになっているし、このプロジェクトでも優秀なレシピは特別養護老人ホームなどで提供されるんですもんね

伊東:このあとに6つのグループに発表していただき、5つの項目で採点させていただきます。

田中:みなさん緊張していますか?

複数:はい。


レストランで料理するだけじゃない、
自分の進路があることがわかった。

田中:今回のプロジェクトや授業を通じて感じたこととか、何でもいいのでお1人ずつお願いします。じゃあ、武藤さんから。

武藤:私はまだ進路が定まってないんですが、レストランとかで調理をするだけのことを考えていたんですね。でも、今回、高齢者、食べる人の目線に合わせて作るということで、ただホテルとかにこだわるのではなく、本当に自分の作りたい年齢層に向けて調理する料理も、進路の片隅に入れておきたいと思いました

田中:おお、すごい。すごくいい意見。

伊東:うれしいです。

田中:本当にうれしいですね。じゃあ、解良さん。

解良:はい。私はただ作るだけじゃなくて、栄養面から支えたいということで、管理栄養士をめざしています。みんなが食べられる食事はたくさん作れますが、高齢者の方が食べられるような食事だったり、幼い子や病気の方とかも食べられる食事は少ないことがわかりましたし、今回の授業を通して発想が広がりました。ぜひ、今後に生かしていきたいと思います。

田中:すごいね。最後、永井くん。

永井:私は調理師をめざしてやっているんですが、メニューを新しく考えるってなったときに、年齢層に合わせた料理が必要になってきます。今回、高齢者に向けた非常食ということで、いろいろ学ぶことができましたし、そこでまた新しく自分で考えるってなったときに、今回の経験を生かしてメニューを考えれたらって思いました

田中:ありがとうございます。みなさん本当にすばらしい経験をされたことが、今の実感のこもった意見や感想からもよくわかります。このように地域社会が求めていることに気づいて、それを解決するために、みんなで協力していくことが大切なんです。本当に、黎明さんや先生に感謝しないと。こういう機会がどんどん増えていくといいですね

伊東:そうですね。ご要望があれば、定期的にやらさせていただきたいと思います。

田中:黎明さんのように、こういう取り組みをされるのはとても大変なことなんですね。これから発表ということですが、すばらしい発想やアイデアのメニューが飛び出してくるんじゃないかと、もう期待しかありません。みんな採用されればいいんでしょうが、同じ尺度で測ってもらうってことも大事なことなんで。みなさんは感じていないかもしれませんが、このプロジェクトは本当にインパクトのあることなんで、これからの人生の自信にしてください。もうそろそろ時間かな。

河村:あと5分ちょっとで授業が始まります。

田中:発表の準備をしなきゃいけないもんね。こんなことやってられない。本当にありがとうございました。


このあと、6つのグループが考えたレシピの発表会が行われ、3グループの「おなかいっぱいなつかし料理」が優秀レシピとして表彰されました。発表会後に、黎明の伊東亜樹さんにお話をお聞きしました。

発表会の様子

高校生たちに知ってもらわないと、
社会福祉も発展していかない。

田中:では、改めましてよろしくお願いいたします。まず、黎明さんの設立の背景を教えてください。岐阜県では初ですよね。

伊東:はい。東海3県では初で、全国的にも10番目に認定された社会福祉連携推進法人です

田中:認定までにどれぐらいかかったんですか?

伊東:1年以上かかりました。全国で2番目、3番目をめざしていたんですが。社会福祉法人の恵母の会と成蹊会が中心になって設立しました。

田中:特に、災害対策に力を入れられているとのことで、防災情報をまとめた福祉事業所向けの防災アプリ「MOSHIMO(もしも)」もリリースされているんですよね

伊東:はい。それは新聞などでたくさん取り上げていただいています。

田中:大垣桜高校の食物科は調理師や栄養士をめざしている生徒が多いんですが、先ほどの発表を聞かれて、私のような素人でもすばらしいことがわかりましたが、黎明さんとしても気づきは多かったんではないですか?

伊東:本当に勉強になりますよ、毎回。

田中:そうですよね。このプロジェクトは、大垣桜高校の理解と協力が欠かせないですよね。

伊東:私たちは社会福祉のプロであっても、教えるプロではないものですから、先生には柔軟に対応していただいて。生徒さんとの懸け橋になっていただいています

田中:このRe:touchでは、岐阜県でSDGsに力を入れていらっしゃる中小企業さんをご紹介して、SDGsの裾野を広げていきながら、こうした地域企業の連携やパートナーシップの場になればと考えています。別にSDGsに固執しているわけではないんですが、現代の社会課題のど真ん中を歩まれている黎明さんとしては、今回のプロジェクトのような高校生たちとのコラボをどのようにとらえていらっしゃるのでしょうか?

伊東:やっぱり高齢者施設イコール介護っていうイメージが強いんで、特に、今回は食物科のみなさんですので、直接的にはもう絶対イメージできませんね。

田中:難しいっていってましたね。

伊東:ただ、私たちにとってみれば、介護も直接的な介護だけじゃなくて、今回の食を通して高齢者に貢献するっていう道もあれば、バックオフィスといわれる事務系の仕事で社会福祉に貢献することもできるので、高校生のみなさんにイコール介護業務っていうところをなくしてもらうための1つの取り組みとして、このようなお声かけをさせていただいたというのもあります
今後は、先ほど先生にご相談させていただいたんですが、外国人の人材活用もうちにとっては不可欠なので、高校生たちの力を借りて異文化共生のプログラムを来年度は追加させていただこうと。より広く高校生たちに社会福祉のことを知っていただかないと、この分野で働く働かないかは別にして、社会福祉も発展していかないと思います

田中:社会福祉の本当の姿を知ってもらうことって大切ですよね。

伊東:そうですね。厳しいというイメージが非常に強いですから。

田中:でも、先ほどのインタビューでは、最初は難しいって感じていたようですが、いろんな視点があることに気づいたし、武藤さんは進路の片隅に入れたといっていましたもんね。

伊東:そうですね。うれしいですよね。

田中:若いときは、こういうことがきっかけになりますから。


黎明の強みを経営支援として、
いいとこ取りしてもらえれば。

伊東:今回のプロジェクトでは、最初の授業で認知症の動画を見ていただいたんですね。かなりのカルチャーショックを受けたと思います。

田中:そうでしょうね。

伊東:ただ、事前にちゃんと説明しておかないと逆効果になってしまいますので、高校生たちに真剣に見てもらうために前段の導入を念入りにしています。ああいう動画を見たことで、まちなかで一見したらおかしく見える方であっても、あ、認知症なんだなって受け止めてくれるでしょうし、こういう分野で働いていなくても助けてくれるんじゃないかと。

田中:やっぱり知ってもらうことが大事で。いろんな情報に容易にアクセスできるようになりましたが、自分で興味を持って能動的に取りにいかないと埋没してしまいますから。このプロジェクトでも楽しんでもらうことに腐心されたんではないですか?

伊東:そうですね。導入のところでは、楽しんでもらえるような働きかけをしましたね。

田中:さっきもいいましたが、このプロジェクトはすごいインパクトがありますね。

伊東:そうですか。うれしいです。

田中:こんなことを岐阜でやるようになったんだって、びっくりして。岐阜ってこういうことをやるカルチャーはあるんですが、どこか奥ゆかしいところがあって。

伊東:保守的なところがありますよね。

田中:新聞記事をたまたま見て、これはすごいなと思って。

伊東:ありがとうございます。

田中:黎明さんは社会福祉連携推進法人ですごいなと思っていましたが、こういうところに着眼されてすぐに実行されるんですから。

伊東:そうですね。本当に若いスタッフで立ち上げた組織ですから、走りながら考えるみたいなところがありますね

田中:黎明さんが設立されてまだ1年も経っていませんが?

伊東:この仕組みは企業買収じゃなくて、私たちの強みを経営支援という形でいいとこ取りしてもらう組合みたいな制度なんですね。そのなかで、うちでは防災や外国人の雇用と定着に力を入れていて、こうした点をどんどんアピールしていきたいと思います

田中:お互いのいいところを話し合って、経営やサービスを強化していく仕組みは、すごくいいスキームだと思います。黎明さんの今後に期待しています

伊東:そうですね。まだまだこれからですね。


ここからは、河村素子先生にも合流していただき、お2人からお話をお聞きしました。


現場で働いている方のお話が聞けて、
とてもいい授業になったと思う。

河村:すいません。お待たせして。

田中:河村先生、ありがとうございます。すごくいい発表で、採点に困ったんじゃないですか?

伊東:困りましたね、本当に。

河村:欲をいっちゃえば、まだまだ。ちょっと、あーとか思いながら見ていました。

田中:いえいえ。社会課題としては難しいところから入っていかれて、高校生には少ししんどいかなっところを、ああやって楽しんでやってくださいって方向に持っていかれて。伊東さんにあんな斬新なアイデアは大人にはありますか?って聞いたら、伊東さんも無理だってお話されていたんですよ。

河村:ああやって使っていいの?って逆に思っちゃいますからね。

田中:でも、いいですよね。

伊東:ええ。全然いいですよ。

河村:なるほどって。

田中:枠にとらわれないという発想って、学校教育の現場でも必要になっているんではないですか?

河村:そうですね。大垣桜高校の食物科では、アイデア料理をどんどんコンクールに応募させているので、これまでにない発想が要るよとか、柔軟にならなきゃとか、これはこうでないといかんって思うと余計できないからとか、いっています。だから、料理ができてみると、これはなかろうって思うようなものもあったりします。でも、それを楽しんでいるようでもあるので、却下ってあんまりいわないようにはしています

田中:決められたレギュレーションのなかで、驚くような発想やアイデアがありましたから。

伊東:すごいですよ。すごいですよ。本当にびっくりしましたね。

田中:私は最後の授業を見ただけですが、素直にすごいなと思いましたよ。カロリーとか調理時間とかもちゃんと調べていて。優秀レシピに選ばれた3グループの「おなかいっぱいなつかし料理」は、実際に特別養護老人ホームなどで提供されるんですよね

伊東:そうです。個人的にはほかのレシピも使わせていただきたいと思ってはいるんですが、非常食もローリングストックしていかないといけないものですから。

河村:本当ですか。

田中:これは、大垣桜高校の高校生が開発したレシピだと紹介してもらえるんですか?

伊東:はい。そのように宣伝させていただこうと思っています。

田中:すばらしいですね。

河村:ありがたいです。

田中:お互いにすごくいいコラボレーションになりましたね。高校生たちもすごく自信になるでしょうし。大垣桜高校としても、こうした取り組みをこれからも続けていかれるんですか?

河村:そうですね。やっぱり家庭科の授業のなかで、超高齢社会とか、最近では3分の1が高齢者ということも授業で教えているので、生徒たちもそういう仕事も必要だろうとか、そういう人たち向けの栄養士さんも要るだろうなっていうのを何となく感じながら、管理栄養士をめざしていると思うんですね。
なので、初めの2回の授業は、みんな真面目に、真剣に、興味津々に聞いていて、栄養士さんからのお話も、あ、そういう食事を考える仕事もあるんだと気づけたというか。病院やホテルのインターンシップとか行くんですが、そういう献立自体に、考えが及んでいなくて、今回のプロジェクトが目新しいというか。だから、こういう料理を作っているんだって気づけたので、本当によかったんじゃないかと思っています

田中:今後、大垣桜高校として、また、黎明さんとしてこのような取り組みをどのように発展させていきたいと考えていらっしゃいますか?

河村:もともとライフステージごとの栄養とか食事っていう単元はあるので、高齢者の栄養っていうところで、教科書とか資料だけではなく、現場の方のお話が聞けて実際に考えられるのはとてもいい授業だと思っています。先ほども、来年もお願いしますとお話ししていたんですが。やっぱり栄養とか食事とか献立ってなると、調理以外は座学になりがちで思い描きにくいというか、教科書からの知識になりがちなのを、今回、現場の写真とかも見せてもらえたし、ここで働いていらっしゃる方のお話も聞けて、だから時間が足りないっていうことになったと思います。
ただ、さーって勉強するだけなら5時間で十分なんですが、もっといろいろ考えたいって思うと、やっぱり時間が足りなくなったので、意欲につながっているんだろうなと思いました。学ぶ姿勢としてもよかったんじゃないかという気がしています

田中:よかったですね。

伊東:そうですね。本当にすばらしいです。

田中:黎明さんとしては、先ほどおっしゃっていた外国人との異文化共生が次の課題としてあって、今度はそうした点でも高校生たちに知恵を借りたいと。

伊東:高校生のみなさんにもいろいろと視野を広げていくきっかけになればうれしいですし、黎明としてもいろいろな意見を聞くことができる機会になって、大垣桜高校の先生方のご協力に本当に感謝しています

田中:実際にレシピ化されるっていうのはいつぐらいですか?

伊東:今回のプロジェクトについて概要やレシピをまとめさせていただいて、1〜2カ月後ぐらいには黎明の機関誌としてお届けしたいと考えています。

田中:楽しみですね。

河村:はい。みんな喜ぶと思います。

田中:今日は、貴重な時間をありがとうございました。

TOPIC

  • 09 産業と技術革新の基盤をつくろう
  • 11 住み続けられるまちづくりを
  • 12 つくる責任 つかう責任
  • 17 パートナーシップで目標を達成しよう
※このターゲットはRe:touch編集部の視点によるものです
災害対策や外国人雇用を強みにする、
東海3県初の社会福祉連携推進法人。
2022年4月に改正社会福祉法が施行されたことにともない、東海3県では初となる社会福祉連携福祉法人として設立された「黎明」。社会福祉法人の恵母の会と成蹊会が中心になって、2023年1月に岐阜県知事の認定を受けている。小規模な社会福祉法人を束ねる調整役を担い、単独では対処できない課題を解決することで、経営基盤の強化や福祉サービスの向上などをめざしている。
黎明では、防災アプリの「MOSHIMO」をリリースするなど福祉施設の災害対策や、慢性的な人手不足に悩む福祉施設での外国人の雇用と定着を強みにしている。今回の非常食を活用した献立開発プロジェクトは、災害時に食事制限のある高齢者の栄養バランスの維持が課題となっているなかで、賞味期限のある非常食のフードロスを減らすSDGsへの取り組みでもあり、高齢者に楽しんでもらえる献立づくりに高校生たちのアイデアを生かすことができる。

Company PROFILE

企業名(団体名) 岐阜県立大垣桜高校
代表者名 校長 安田ゆかり
所在地 〒503-0103
岐阜県大垣市墨俣町上宿465-1
企業名(団体名) 社会福祉連携推進法人 黎明
代表者名 理事長 宇野隆夫
所在地 〒500-8384
岐阜県岐阜市薮田南3-7-20

Re:touch Point!

料理のアイデアが広がったのはもちろん、将来への選択肢が増えたのも間違いない。

Re:touch
エグゼクティブプロデューサー
田中 信康
岐阜県で初めて社会福祉連携推進法人として認定された黎明さんには注目していたが、大垣桜高校とこんなすばらしい取り組みをされていることにびっくりした。近年、高齢者や障害者の方など要介護者の防災が社会課題となるなか、防災アプリ「MOSHIMO」をリリースされるなど福祉施設の災害対策に取り組まれており、その一環として今回の高齢者向けの非常食を活用した献立開発プロジェクトがある。また、非常食をローリングストックすることで、フードロスを削減するなどSDGsへも貢献している。
大垣桜高校の食物科で実施された5回の授業のなかでは、現場の管理栄養士が高齢者のための献立づくりの基本を伝授。飲み込む力が弱い高齢者向けの嚥下食について学んだり、誤嚥を防ぐために有効なとろみ剤を溶かす体験などもしている。こうしたことは教科書では学んでいても、実際に経験できることは少ない。今回のプロジェクトは、調理師や栄養士をめざす高校生たちにとって、レシピを考えるうえでの発想やアイデアの幅を広げてくれたのはもちろん、将来に向けた選択肢を増やしてくれたのは間違いない。
それにしても、高校生たちの発想やアイデアはすごい。黎明の伊東亜樹さんも優秀レシピだけでなくみんな採用したいとおっしゃっていたが、大垣桜高校の食物科の卒業生のなかからミシュランに掲載されるようなシェフが現れるのも近いかも。そんな期待を抱いた。