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妻の実家の婿養子となって、
家業の古川紙工を継いだ。
田中:社長は、古川紙工に新卒で入社されたわけではないんですよね。
古川:もともとはサラリーマンでした。機械工具の商社に勤めていて。古川紙工は、妻の実家の家業なんですね。
田中:婿養子で来られた。
古川:妻の親が病気になったんで、家業を継いでくれないかということで、20年ぐらい前に美濃に戻ってきました。
田中:社長も美濃のご出身ですか?
古川:私は違います。実家は今、兵庫県。ちなみに、妻の父親も婿養子ですよ。
田中:そうなんですね。
古川:2代続けて婿養子で、義理の父が苦労してきているんで、私は自由にやらせてもらっているところがあります。
田中:だから、いろいろと新しいことに挑戦できたと。
古川:私が引き継いだ20年ぐらい前は、美濃の街中に直営の「紙遊」という販売店があるんですが、もうそこだけでやっていこうかというくらいで。15、16人の社員もご高齢の方ばかりで、義理の父もどう転んでもいいかなって思っていたようです。ただ、古川家は残してほしい。それぐらい商売が苦しかったんだと思います。なかなか打つ手がない時代でした。
田中:「紙遊」は好調だったと。
古川:紙遊の方が当時は勢いがあったというか、美濃市が美濃和紙あかりアート展を始めたころで、美濃和紙が注目を集めるようになっていました。私たち夫婦と妻の妹も呼び戻して、それで、ギフトショーとかに出展するようになって、このままじゃあかんよなって、ちょっとずつ改革していったみたいな感じです。
田中:でも、古川紙工の売上が直近の5年で2倍になっているとかで。
古川:そうですね。
田中:美濃和紙を使った手のひらサイズの便箋「そえぶみ箋」が大ヒットされて、2007年に発売されてこれまでに400種類以上を展開されていますね。
古川:どの部門も伸びているんですが、小売店さんとかに卸している美濃和紙の生活雑貨が人気になっていて、ここ3~4年は売上が上がっています。
田中:コロナ禍では、社員がインスタライブをしたりして、女性のファンが増えたんですよね。レターセットやマスクケースなどがよく売れたそうで。
古川:本当に、不思議なくらいご好評をいただいて。社員も一生懸命やってくれていて、自分たちでどんどんアイデアを出してくれています。
社員が70人ぐらいいるが、
女性が8割を超えている。
田中:社長が20年前に古川紙工を引き継がれたころと違って、女性の社員もずいぶん増えたんではないですか?
古川:社員が70人ぐらいいますが、女性が8割を超えていますね。
田中:それって、社長の戦略ですか?
古川:あんまり狙ってはいなかったですね。デザイン部門を立ち上げたりすると、どうしても女性の応募が多かったり、また、美濃和紙の生活雑貨もかわいらしくて細かいんで、結局、作業する人も女性が増えてきて。
田中:紙遊で販売されてきた生活雑貨が女性の感性に刺さって、私もやってみたいとなっていったんですね。
古川:そうですね。私たちは気づいてなかったんですが、古川紙工っておもしろそうな会社だなって思ってくれる女性が多くなったんですね。
田中:知らないうちにブランドイメージができていったと。
古川:そんな感じです。マネジメントにはまだ男性もいるんですが、アイデアを出したり、作業したりするのはほとんどが女性。それがうまくいっているのかなっていう気はしています。
田中:デザイン事務所みたいな感じですよ。
古川:それは途中から狙っています。今では、新卒を採用しても99%が女性の応募ですし、例えば、ECサイトのお客さまの声を拾っても99%が女性。女性がターゲットになっちゃっているんで、私がどうこういってもピント外れなので、ある程度、枠組みや仕組みをつくって、女性たちがわいわいがやがや話し合いながら、こんなの欲しい、こんなのどうだろうって、自由にやってもらっています。
田中:ここにおじゃまするまでのイメージと全然違いますもんね。
古川:古川紙工という美濃和紙の会社が、実はこういうかわいいものを作っているというギャップが、ひょっとしたら女性に刺さっている理由かもしれないですね。
田中:事業構成なんかも、ずいぶん変わりましたか?
古川:そうですね。デザインを生かした紙製品とか生活雑貨とか、今では、デザイン自体も商売につなげているんですよ。そこはだいぶ変わりましたし、コロナ禍の前からECサイトにも力を入れていたんですが、それも販路や売上の拡大にとても貢献してくれています。
これからコスメもやろうとしていて、M&Aをしたんですよ。コスメも女性がターゲットなので、社員のモチベーションも上がってきているので、それぐらい変えていって、どんどん事業を多面的にしていこうと思っています。
田中:すごいですね。
古川:とにかく、どうしたら女性たちが活躍できるのか、どうしたら女性たちが働きやすい環境にできるのかだけを考えています。
田中:リモートワークもやられているんですか?
古川:今、5人ぐらいいます。もうどんどん結婚して、子どもが生まれたらリモート、どうぞやってって。それで続けていこうと思ってくれる女性もいるんで。そのほうが効率がいいというのが、自分の感覚としてはあります。
田中:そういう時代ですよね。
古川:そうです。最初はリモートワークってどうなんだろうって思っていましたが、ちゃんとルールのなかでやってねっていうと、女性は責任感が強いんですごくがんばってくれます。逆に、そんなに無理しなくてもっていう感じですね。
田中:女性って結構そういう会社の想いにシンパシーを感じてくれるので。そういったところから愛社精神とかもね。
古川:朝からちゃんと会社に来ている社員がいるからと、社内でも反対意見はありましたよ。みんなそのうち来なくなりますよって、だったら来なくていいように考えたらいいんじゃないの?っていう話をして、もうえいやでやっちゃいました。
そしたら、今ではやっぱりそこに魅力を感じてくれている。自分たちが困っていることに、会社が柔軟に対応してくれているっていうのが、たぶん一番うれしいんだと思います。何かあったら助けてくれるっていうのは、もうみんな気づいているので。
田中:そういう機動力や柔軟性が古川紙工の強みというか、おもしろい会社だって思ってもらえる理由なんですね。
古川:そうかもしれません。
私が社長としてやってきたような、
そういうポストを与えたい。
田中:次は、コスメなんですね。
古川:今は会社の業績もいい時で、次の手を打つ時に、自分たちは何が得意かな、できるかなと思って。最近、デザインをちょこちょこ売ることがあったんで、これはうまくいけば伸びるなということで、ライセンス事業部を立ち上げることにしました。
で、もう1個、何かないかなって思っていた時に、うちが紙製品を卸させていただいている生活雑貨の専門店さんと100円ショップさんとかでは、文具とコスメでは市場規模がまったく違っていて。コスメの方にはお客さんがたくさんいて、こっちの市場に行くとおもしろいことが起こるんじゃないかということで、2つ目の新規事業としてスタートすることにしました。
田中:新しい事業を2つ同時に立ち上げたんですね。
古川:そんななかで、ライセンスの方は得意なんでよかったんですが、コスメの方がはっきりいって作ることも売ることもやったことがなかったので、うちの社員は優秀なので箱さえ渡せば、たぶんちゃんとやってくれるだろうと。
これは私の責任で、ちょっと無理してでも買ってきた方が早いなっていうことで、ずっと半年間いろんな会社を探していました。ここからはみんな任せながら、私も一緒にやりながらやっていこうかなって。きっと、うちの女性たちが大活躍してくれるだろうと。
田中:コスメはいつごろから市場に投入されるんですか?
古川:もうあるんですよ。ドラッグストアさんでも販売していますし、ネットのショッピングモールさんでも買うことができます。あとは上手に引き継いでいって、3年ぐらいで5倍の売上にしてくれって、コスメの事業部長にお願いしています。
田中:おお、すごい、すごい。
古川:事業部長は自信がありそうですよ。まだまだ、手が打てていないところあったんで、ちょっと高い目標ですが。
田中:今、メインの事業は何になるんですか?
古川:メインは古川紙工ですね。ECは5%ないですね。でも、伸ばしてもらおうと思ってはいますし、古川紙工から切り離して、何かうまくECサイトを運営してくれないかなとは思っています。
田中:そうですよね。
古川:古川紙工を見ていると、私の肌感覚では、今くらいの売上でファンをつくって、そこのファンに刺さる商品を提供していけば、たぶん一番利益が出るんですよ。これを2倍、3倍にしちゃうと、何かぼやけちゃうような気がしています。
やっぱり、経営者としては、たくさんの社員の面倒を見てあげたいし、野心もありますので、会社を大きくするなら、事業をちょっとずつ業際へ広げていきたいですね。私が古川紙工を引き継いだ時のように、がんばれば何とかなるみたいなところを、30代、40代の社員にやらせてあげた方が、成果が上がるんじゃないかなって思っています。
こちらがお膳立てをするのではなく、ちゃんと権限を委譲して任せていくというフェーズに、古川紙工も成長できたと感じています。私も、少しずつ引いていかなあかんなって。
田中:本当ですか?
古川:思っています、はい。
田中: 1835年という天保年間に創業された会社なので、9代目、10代目をどうするかっていうのは、すでに考えられていらっしゃるんですね。
古川:私は田中さんと違ってさぼりなんで、早く辞めたいと思って。
田中:いやいや、私もそうじゃないですよ。本当に自分が培ってきたものでお役に立てるんだったら、生まれ育ったまちで恩返しっていうのは思ってはいるんですが、1人じゃ何もできないので。
そうはおっしゃっても、また、M&Aでいい案件があれば、もうひと踏ん張りもふた踏ん張りもされるんでしょうね。
古川:そうですね。今度、会社をホールディングスにして、そのなかに古川紙工があって、そこにコスメの会社もっていう感じで、1つ1つの事業を大きくするのではなく、深くできるようにしてきたいですね。そういう人材が40歳前後に何人かいますので、私が10年間、社長としてやってきたようなことをやらせてあげたい。そういうポストを与えてあげたいです。
田中:いいですね。
古川:20代後半ぐらいにうちの会社に入ってくれて、私と一緒に10年以上がんばってきてくれた社員が、この10年間で成長してくれたことが、たぶん今の業績を支えてくれていると思っています。
もう私がいろいろといわなくても、私よりやれるようになってくれたんで。しかも、まだみんな若いんで歯車がだんだん合いだして、ここ4~5年ぐらいで、結果がぼんぼんってついてきているんだと思いますね。
日ごろからルールを守れる
社会人になりなさいって。
田中:古川紙工には3つのルールがあるそうですね。
古川:はい。
1.毎朝の掃除:掃除の場所を細かく区切って、10分間集中してやることで、大掃除いらず
2.価値観を揃える:社員全員が会社のルールブックとなる「経営計画書」を所有して、価値観を揃える
3.徹底した調査:徹底的な調査で「カワイイ」や「流行っている」などの感覚的な言葉を数値化
の3つですね。
田中:なるほど。
古川:私は、社長の仕事は、「決定」と「チェック」だと思っています。何かを決定しようとすると、やっぱり情報がないとできないですよね。そこで、必ずチェックすることをどこかに入れていて、情報を吸い上げる仕組みをつくっています。
それで、ちゃんと情報が上がっているのに、業績が悪くなる決定をしていれば、それは社員じゃなくて社長が悪い。そういう考え方でいるので、決定をしやすい仕組みにしてくれと社員にはいっていて、その結果、決定ができないとか間違った決定をしたら自分の責任だと。
何で整理整頓に力を入れているかというと、最終的な目標は情報の整理整頓なんですよ。大切な情報をちゃんと上司や社長に上げられるようになってほしいんですが、それをできるようにするために一番わかりやすいのが身の回りの整理整頓で、いわゆる5Sですね。
それをうちの会社では環境整理と呼びながら、毎日、朝10〜20分ぐらいやっています。月に1回、私がちゃんとルール通りできているかをチェックすることを、本当にぐるぐるともう何年もやっています。
田中:掃除する場所を細かく区切られているんですね。
古川:身の回りの整理整頓をするのもそうなんですが、まずは、どんなこともルール通りにできる人間になりなさいということです。とりあえず発想とかアイデアがいいのは置いておいて、まず上司にきちんと物事を報告できるように。
そのためには、日ごろからルールを守れる社会人になりましょうねって。これがベースにあって、私も含めて全社員が共通なんですよ。あとは自由にやってもらってもいいよ。でも、決められたことはちゃんとやろうね。これが、整理整頓に力を入れている理由です。
これをゲーム感覚でできるようにしていて、毎月チェックして、1個ぐらいのミスはオーケーなんですが、2個ミスすると0円で、1個のミスだとお食事代1,000円がもらえるようにしています。半年間やったら6,000円になるので、みんなでご飯を食べに行ってもらうとか、楽しみながら整理整頓してもらっていますよ。
田中:ペナルティではなくて、インセンティブなのがいい。
古川:今度、どこの居酒屋に行こうかみたいに、コミュニケーションもよくなりますし、会社として経費がかかりますが、安いものかなって自分では思っています。みんなで目標に向かってやっていく、その練習みたいなものとしても環境整理を生かしています。
あと、「経営計画書」っていうのは会社のルールブックで、ここに書いてあるルールを守りましょうねって。ここに書いてないことは、新しくルールをつくるか、もう自由にやってくださいかのどっちかなんですね。
田中:岐阜の地域企業のなかにも、こういうことに取り組まれている会社がありますね。これは、メインバンクなどにも提出されているんですか?
古川:はい。金融機関さんにも来てもらい、社内で経営計画発表会をやっています。うちは、フランクな会社に見えるでしょうが、こういう時はちゃんとスーツを着て、ちゃんと拍手をして。で、終わったら、みんなで飲み会してねって。
田中:経営計画書は全社員に配布されて。
古川:その後、私が毎週月曜日の朝に勉強会をやります。
田中:それは、社長のメッセージでもあるんですね。
古川:そうですね。みんなにしっかり理解してほしいので、私が解説して、5人ぐらい当てて、どう思ったか発表してもらっています。価値観のすり合わせみたいなことをしていて、社員と社長とか、ベテラン社員と若い社員って、意外とずれていて。でも、みんなすぐに理解してくれるようになる。そういった時間を大切にしていますね。
田中:すごい。「古川紙工共通言語 価値観編」っていうのがあって、ここに、「愛は関心があること」とかいろいろ書いてある。すごい、これ。社長自ら書き込まれていますね、いっぱい。
古川:本当に地道にやっています。「愛は関心があること」についても、関心がなくなったらコミュニケーションはないよとか、そういうことをずっと話して。同じ会社の社員なんやから、みんなでお互いに関心を持ってやらへんとみたいにつなげていって。
それで、みんなからも意見や感想を発表してもらうと、あんまりコミュニケーションを取れなかったんで、他部署の人とも今度からがんばって取りますとか。半分いいようにいっているだけですが、発表してもらうことがすごく大事だと思っています。
古川紙工は、美濃和紙の
おかげで生かされている。
田中:こういったことって、社内で浸透していくのに時間がかかりそうですが、どうでしたか?
古川:たぶんアレルギーはあったと思いますよ。導入して7~8年になりますが、会社の成長とシンクロしているところがあって、これも会社が成長できている1つの要因だと考えています。今ではもう当たり前になって、こういうのがあってすごくいい会社だって、入社してくれた新卒の社員もいっぱいいますよ。
でも、私は、今でも冗談でいっています。こういうのは本当は嫌いやけど、ルールがないとだれもやらへんやろ。自分もそうやしみたいな感じで、社員にはなるべくわかりやすく、別に強制しようというのではなく、私も弱い人間やから、みんなも弱いねんでみたいな。だから、こういうのがあった方がいいやんっていう感じで。
田中:社長が率先してやられているんですね。
古川:はい。そういう感じで浸透させていっていますが、管理職はこれをどうやってつくっていったらいいのかすごく悩んでくれています。自分たちが働きやすいようにしたいし、でも、ルーズになってもあかんし、若い子に変なメッセージが伝わるのもだめやしって、私よりも最近は真剣ですね。
田中:今、こういうことが大事だっていわれるようになって。コーポレートパーパスだとか、自分たちはどうやって社会に貢献していくのかが問われていて、全国的に知られている企業も創業時につくった経営理念を見直したりしています。
古川:そうなんですね。
田中:それで会社が変わってきたっていうのは、とてもすばらしいことですね。
古川:変わってきましたね。会社が管理するところと、社員に任せるところと、使い分けていると思います。
田中:そのバランスってすごく難しいですよね。
古川:そうですね。それは、社員が実感していると思います。やさしくてすごく楽しい会社やけど、締めるところは締められているって。私もだらしない部分もありますし、うるさい部分もあるんで、どこでぷっつんするかわからんっていう緊張感は、みんな持っているでしょうね。
田中:でも、経営理念にあるように、美濃和紙の伝統をちゃんと継承していくというのが、根っこにあるんでしょうね。
古川:古川紙工は美濃和紙のおかげで生かされているんで、それを忘れることは、私たちのグループ会社ではあり得ないと思っています。今度、紙遊の裏に、美濃和紙の手すき場を造ろうと計画しているんですよ。地域に貢献することになりますし、会社としてもメリットがあるんで。美濃和紙についてもちゃんと発信していかないと、と思っています。
田中:社員の子どもたちを会社に招待して、お父さんやお母さんの働いている姿を見てもらったり、美濃和紙のワークショップをして地域の伝統文化に触れてもらったりもされていますもんね。
古川:はい。
田中:あと、「カワイイ」とか「流行っている」とかの感覚的な言葉を数値化されていますが、どのようにされているんですか?
古川:それはテレビでも取り上げてもらったんでが、何かしらの指標を常に持つようにしていて。例えば、100人からアンケートを取って80人がいいよっていってくれたとか、ちゃんと数字で証明しなさい。それが無理なら、そういう癖をつけなさいといっています。
田中:こういうことを始められたきっかは何だったんですか?
古川:自分が数字が好きっていうのもあって、数字がない報告はあまり信用できないっていうのが1つ。自分の普通が相手の普通じゃないっていうのもあって、やっぱりわかりやすいのは数字で、ビジネスマンとして報連相をきちんできるようにと、そこにはこだわっています。
ただ、最近はみんな上手になってきて、私に突っ込まれるがわかっているんで。得意なのが、100人に聞きましたとか。本当はどの100人に聞いたかってすごく大事なんですが、自分のファン100人に聞きましたみたいな。まあ、ないよりはましかなって。
市場調査ってすごく難しいし、マーケティングも一筋縄でいかないことが多いんですが、私たちもレベルを上げていかないといけないと思って。いろいろな数字を持って話せるようになる訓練をしているところです。
田中:要は、ビジネスマンとしての、商売人としての基礎をしっかりと持っておけっていうことですね。
古川:そうです。やりたいのなら周りが納得するように、根拠となる数字を準備しなさいって。上手くいくかどうかわからないんですが、正直にいうと、パッションを見ているところもありますね。ただ楽しそうだからというのではなく、これだけやりたいっていう情熱が必要なんですよ。
田中:この3つのルールはわかりやすくていいですよね。いろいろと掲げたくなりがちなんですが、とてもシンプルで。
古川:そうですね。いろいろと新しい商品が増えてきていますが、そういうことにチャレンジできるようになったのも、みんなが納得してがんばろうと思ってくれているので。私がいいアイデアを出して、それが成功しているってことでは全然なくて、社員が考えてやってくれているんですね。私はさっきもいった通り、決定とチェックが仕事だと思っているんで。
女性が管理職でがんばれる
仕組みにしなあかんなって。
田中:社員の女性比率が高くなれば、管理職の女性比率も高くなっているんですよね。
古川:はい、高いです。
田中:古川紙工では、女性活躍なんて当たり前になっているんでしょうね。
古川:そうですね。
田中:私の会社もそうですが、全国的に見ても、女性を管理職にするのが難しくて。古川紙工では女性が増えてきて、社長自身も考え方を変えざるを得なかったということですか?
古川:管理職はこうあるべきっていうのがだんだんと崩れていますよね。やっぱり、体調が悪いとか、子どもが熱を出したとか、よくあることなんで。でも、それでも何とかする仕組みにしなあかんなっていうのが、たぶんそれがすべてです。女性の管理職が多い会社って、本当にいい会社だと思いますよ。
田中:やっぱりそうですよね。
古川:マネジメントする側に、女性がどれだけいるかが価値のあることなんですね。
田中:古川紙工はもうなっていますよね。
古川:意図的にしていますから。自信がないという女性もいますが、できるって、だれでもできるって、私が何とかするからっていって。
田中:社長からそういわれれば、挑戦してみようという気になりますね。
古川:まだ、女性ががんばって管理職に早くなりたいっていうよりも、無理やりこっちから指名して、ちゃんと話して、サポートするからやってくれへん?っていう方が多いのは多いんですが。うちの会社では6割ぐらいが女性の管理職です。
田中:いいスパイラルがきっと生まれますよ。
古川:そうですね。ちゃんと利益を上げなあかんでって、そういう責任感は、男性よりも強いのではと思います。
田中:そうかもしれませんね。
古川:経費なんかも細かいですよ。ブレーキ役にもなりますし、アイデア出しにもいいですし、あと、社員たちが働きやすい環境づくりにも。管理職になると会社に利益がないとできないっていうことに気づくので、やっぱり利益を出さないとこういうサービスは社員にはできないよねって。そうなったら、余計いい環境になっていくと思います。
田中:実際、生産性とかも向上されていますもんね。
古川:そうなんですよ。子どもが病気だから有休を取らせてほしいとなっても、どうぞどうぞ自由に休んでくださいって。今では、もう強制的に有休を取ってもらっています。月1回は有休を使わなあかん、あと、年に1回5日分の有休を使って9連休をつくりなさいって。もうノルマ。で、有休の消化率100%をめざそうってやっているんですよ。
みんな有休を取って、本当に大丈夫かなと心配していましたが、全然関係なかったです。有休をちゃんと取らないとだめなんで、ちゃんと引き継がないととか、ちゃんと共有しないととか、やっぱりそうなりましたね。生産性が上がりましたね。
30歳を超えたら、次のことを
やらんと飽きてまうよ。
田中:近い将来、週休3日になっていそうですね。
古川:冗談でよくいってるんですよ。海外みたいにバカンスの月をつくって、9月は休むとか、6月は休むとか。それぐらい付加価値があるんやからって。
田中:やっぱり、美濃和紙を扱っているっという誇りみたいなものが、社員のみなさんのなかにあるのではないですか?
古川:いいも悪いも強みやと思います。世間もそう思ってくれていますし、ここの場所に会社があるというのも、ちょっとよく見えるようになっていますね。
田中:新卒採用もどんどん増やしていらっしゃいますね。
古川:今年は8人ぐらいになりましたね。
田中:都市部から移住で来ている人はいるんですか?
古川:15人ぐらいいるのかなあ。みんな20代の女の子ばかりです。
田中:ここ数年でリブランディングされたんだと思いますが、古川紙工のイメージってやっぱりそうなってるわけですよね。
古川:そうですね。伝統産業なのに、社員に寄り添ってくれる。マニアが好きな会社とか、でも、ファンが多いです。単純にうちが好きっていう女性がすごく多いんですよ。
田中:では、大手百貨店とかとの取り引きは最近のことですか?
古川:伝統文化としての美濃和紙のお取り引きはずって続いていましたが、最近の商品は、ショッピングモールさんとか100円ショップさんとか生活雑貨の専門店さんとのお取り引きが多くなっています。本屋さんとかドラッグストアさん、コンビニさんともありますね。
田中:本当に販路が拡大されているってことですね。
古川:そうです。コロナ禍の前から、ECサイトとかにも力を入れていました。祝儀袋やポチ袋、ちっちゃい付箋なんかを。
田中:「そえぶみ箋」はどうですか?
古川:今もよく売れています。古川紙工=そえぶみ箋みたいな感じで、世間ではご評価していただいているようです。
田中:古川紙工をこれからどうされたいですか?
古川:新しい事業をどんどん立ち上げていって、社員が活躍できる場をいっぱいつくってあげて、で、また彼らが若手を育ててくれて。私としては、自分が育ててもらった、妻の実家から引き継いだ家業が、安定して発展してけるようにしていきたいと思っています。
田中:社長のなかでは後継者は、だいたいイメージできてるんですか?
古川:だいたいできています。古川紙工も、コスメ事業も、ライセンス事業も、もうやってほしいと話しています。社長なんて無理ですよっていうんですが、無理やないって、私でもできたんやでって一応説得していまして。30代後半とか40代前半に、いろいろなことを自分の責任でやった方が伸びると思います。
田中:これだけ若い人が入ってくると、早い段階から管理職に抜擢することもありますか?
古川:あります。本当に20代後半の子とかも、もう課長に昇進しましたよ。30歳を過ぎたら、次のことやらんと飽きてまうよっていったら、わかっていますって。
田中:モチベーションも上がりますね。
古川:まだ人数がそう多くはないんで、社員と冗談いいながら、コミュニケーションをほぼほぼ全社員と毎日します。ほぼ全社員と関わっていますよ。
田中:社長が腹のなかに持ってらっしゃることを、しっかりとご自分の言葉で伝えていかれるっていうのは、すごくやっぱり大事なことだと思いますし、これは会社が大きかろうが小さかろうが同じだと思います。
古川:そうですね。伝え方はこれから私も変えていかなければと思いますが、今はまだ自分でコミュニケーションを取れる人数ですし、基本的に自分が全部雇ってきた社員、パートさんなんでやりやすいんで。
古川紙工に関わる人を、
たくさん幸せにしたい。
田中:どんな会社にしていきたいですか?
古川:100億のグループ会社にしようと思っています。それぐらいになって初めて、がんばっているっていえるのかなと思っていて。そのためには、40歳前後の社員にもっと伸びてもらわないといけないし。やっぱり、古川紙工に関わってもらう人をたくさん幸せにしたい。
経営者とか社長だって、みんながみんな優秀ではないと思うんですよ、私は。みんな、社長って何を考えているんだとか、逆もそうですね。やっぱり、ここをきちんと結ぶコミュニケーションと、あと、私でもなれるんやから、応援するからみんなもなれよみたいな感覚が、一番いいんやないかなって思っています。
田中:すごく謙虚でいらっしゃいますね。
古川:いえいえ、そんなことないです。
田中:ホールディング会社にされて、そこに新しい事業をぶら下げていくイメージですね。
古川: そうですね。そっちの方が、社員の責任感が強くなっていいのではと。組織がでかくなってしまうと、何かサラリーマンが多くなっちゃって、中小企業の強みがなくなってしますような気がするんですね。
田中:古川紙工の課題は何かありますか?
古川:私が課題というか不安に思っているのは、自分が決断していることでちゃんと結果が出るのかなって。どんどん決定する事柄が大きくなってきているんで、私の器でチェックできるのかなっていうところがあって。それぐらいですかね。
田中:社長がいかに謙虚な方であるかがよくわかりました。
古川:本当にそんなことないです。
田中:でも、そういうところって大事ですよね。
古川:よく冗談でいうんですが、今の古川紙工に私は入社できないって。そしたら、ベテランの社員も入れませんって。今の若い子がみんなが優秀過ぎて、不採用になってしまうって。私はこうした環境を与えてもらって、紆余曲折はしていますが、ラッキーやと思いながらやっています。だから、その分ちょっとお返ししなあかんなとは思っています。
田中:本当にすばらしい。めちゃめちゃ楽しかったです。ありがとうございました。
TOPIC
未来へつないでいく。
美濃和紙と仕事ができることに誇りを持ち、日々、感謝の気持ちを忘れず、みの紙まつりや美濃和紙あかりアート展に出展者やボランティアとして参加。毎年、夏には社員の子どもたちを会社に招待して、お父さんやお母さんの働く姿を見てもらうだけでなく、美濃和紙のワークショックなどで伝統産業に触れてもらっている。
また、リモートワークや有休休暇、育児休暇などを活用して、女性が働きやすい職場づくりのほかにも女性を管理職として積極的に登用。近年では、都市部から移住してきた女性社員もおり、ジェンダーフリーや移住・定住などにも貢献している。
Company PROFILE
企業名(団体名) | 古川紙工株式会社 |
---|---|
代表者名 | 代表取締役社長 古川 慎人 |
所在地 | 〒501-3784 岐阜県美濃市御手洗東谷23 |