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「社員と幸せになりたい」
その一心で会社を進化
田中:まずはアース・クリエイトの事業内容や成り立ちからお聞かせください。
岩田:はい。当社は今、創業29年になりますが、先代の社長が始めた交通安全の工事会社からスタートしています。道路のラインを引いたり、標識を建てたりする工事です。私は2001年にアルバイトで入社しました。当時からずっと、当社の主軸事業は今も変わっていません。
田中:岩田さんは創業者と親族関係があるわけではないですよね? 社長になられたのはいつ頃ですか?
岩田:もうまったくの第三者承継ですね。社長には2019年、39歳の時になりました。
田中:先ほどもお話にありましたが、最初はアルバイトで入社されたと。
岩田:はい。その時、私は個人でダンスレッスンの教室をしていました。元々、高校時代から岐阜でダンスをしていて、有名になりたくて東京へ上京しました。アーティストのバックダンサーなどもしていたんですが、岐阜の知り合いから「こっちでダンススタジオをやってもらえないか」という話をもらって、帰ってきました。ただ、当時はまだ岐阜でダンスといっても、なかなか習い事としての文化が根づいてなくて。ダンスだけでは稼げないと思って、今の会社でアルバイトしていました。21歳でアルバイトを始めて、ダンススクールと両立しながら、会社の新規事業として他にも結婚式の映像をつくってみたり、いろいろとチャレンジさせてもらっていました。
田中:会社の中で、事業としてチャレンジできるのはいいですね。
岩田:はい。こんなことをしてみたいって言うと、「やってみたら?」と言ってくれる社長だったんです。何でもやらせていただける環境だったから、その映像の仕事をしたり、建設業の方も営業部を立ち上げたりしていました。建設業界って、民間の企業や個人店へ営業するという概念がなかったんです。私どもの仕事は、もちろん行政からの仕事が多いんですが、駐車場の区画線だと民間の仕事もありますよね。営業をしたら、もっと民間の仕事も獲得できるんじゃないかと提案して、営業部も立ち上げさせてもらいました。
田中:その頃から、そうした企画力や提案力、今までにないものを生み出す発想というものをもっていらっしゃったんだ。
岩田:どうでしょうか。でも、今までにないものを妄想することは好きですね。これはビジネスと相反するかもしれませんが、みんなで同じ目的をもって、ワクワクしながら楽しめる環境に、私は幸せを感じるんです。
田中:世代としては私より少し下になると思いますが、私たちの時代ってあまり群れを成さないというか、他人に干渉しないというか。協働するイメージがなかったと思います。
岩田:私はそこがまったく逆で。周りの仲間もそういうタイプが結構いますし、ダンスも個人じゃなくてチームでやるものだったこともあってか、たとえば困っている人や「この人楽しくなさそうだな」と思う人を、敏感に感じてしまうんです。結果、一緒に何かに取り組んで、その人が幸せになっていく過程が、自分の中でもモチベーションが高くなることにつながっています。
田中:元々、経営者の素質があったと思います。そこを先代の社長も見抜いていらっしゃったのかもしれませんね。
岩田:いや。先代は私とはレベルが違うくらい、本当に破天荒ですごい方でした。昨年7月に亡くなってしまったんですが、亡くなる前の10年間は、会社の経営を社員である私に任せてくれていたくらいです。
田中:会社はずっと順調だったから、岩田さんに任せたということではないんですか?
岩田:いや、そんなことはないです。やはり企業っていい時と悪い時がありますから。アース・クリエイトも、リーマン・ショックなど3回ほど倒産危機がありました。私が営業部長を任されたのが25歳だったんですが、営業は自分しかいなかったので、「会社の数字をつくらなきゃ」と、常に気持ちは崖っぷちの状態でした。
田中:それは、すごいプレッシャーだ。
岩田:そうですね。私も経営を任されていたのに、社長に「今月はお金が足りてないです」というのが、とても辛かったです。債務超過の会社で、また悪いことに先代が病気にかかってしまったことが分かって。その頃は、僕も含めて社員さんも会社の状況が分かっているから、みんな必死でした。今だったらちょっと言えない話ですけど、みんなで24時間365日働いて、超ブラック企業でした。私も社員さんに対して、「今は休みが欲しいという人は、そういう会社を選んでほしい。ここにのこって一緒に頑張ってくれるなら、今は我慢しよう」と常に言っていました。でも、今でも忘れないですが、ある年のクリスマスに、資金難でどうにもならなくなり、この先、会社をどうするかという話になった時に、私は「この会社は絶対に続けなければダメだ。自分が受け継ごう」と思ったんです。もちろん周囲には、反対されましたが、ある経営者の方に相談しに行った時に、その方が「お前が社長をやれ」と背中を押していただき、今に至ります。
田中:そこから会社をバトンタッチしたわけですね。
岩田:やっぱり私は、今までずっと頑張ってきた社員さんと一緒に幸せにならなければいけないと思っていたので、不安もありましたが「頑張ろう」と思いました。ありがたいことに、社員さんも会社が変わると期待をしてくれたので、そこから4年間で今は逆に売上・利益ともに過去最高水準を維持しています。まだまだですが、少しずつ会社は良くなってきていると思います。
自分の生き方・働き方を選択できる
1K(かっこいい)の職場に
田中:社長就任に至った経緯を聞くと、社員さんに対する思いの強さの理由が、少し分かったような気がします。反面、会社の働きやすい職場づくりというのは、社長就任前から取り組まれていたことですよね?
岩田:そうですね。取り組み自体は、私が社長になる前から始めています。私自身も一番上の長女が生まれた時には、育児休業を取得していました。その当時は会社も大変な時期だったのに、先代が「休め」と言ってくれたんです。
田中:先代が勧めてくださったわけですか。しかし、当時は業界的にそんなセオリーはない。
岩田:ないですね。もちろん当社も先ほどお伝えしたような状態でしたし、業界も男性ばかりで育児休業という概念はありませんでした。そもそも休みも取りにくい状況だったので、慢性的に不満もいっぱいありました。でも、それを先代に話すと、いつも「じゃあ、お前が変えてみろ」って言うんですよ(笑)。「だったら、変えていこう」と動き出したのがきっかけですね。今思えば、トップが言って変えてきてもきっとうまくいかなくて、やっぱり社員自身が一番いい方法は何かを考えて実行することに意味があるんだなと思います。
若手社員さんも、入社してもすぐに辞めてしまう人が多くて、定着率も低かったです。なぜ続かないかと考えると、新しく入った一番やる気がある時に、現場は職人気質で、若手はまず掃除からスタートするのが当たり前になっていました。そこで、新しく入社して一番やる気がある時期に、何でもチャレンジしてもらった結果、「みんながオールラウンダーになる」ということが社内の目標になりました。その結果、若手にリーダーを任せてベテランがサポートする仕組み定着したことで、自分がやりたいことをやれる環境ができ、1人2人と続いていくようになりました。なおかつ、若手が現場の数をこなせるようになって、売り上げもアップし、休みも取れるようになるなど、ちょっとずつ環境がよくなったのが実体験です。
田中:こうして休める環境もできてきたということですね。
岩田:そうですね。特に育児休業については、現在、男女ともに取得率100%です。社員全員が日頃からオールラウンダーを目指しているので、急に誰かが休んでもフォローできる体制ができています。自分で働き方を決められる環境を、会社としてどこまで認めてあげられるかが一番重要。だから当社は、育児休業だけでなく、子どもの義務教育が終了するまでは、休みは無制限で取っていいというルールをつくっています。子どもの参観日でも体調が悪くなった時でも、極端にいえば365日有給休暇が取れます。そのために、業務もバディ制をとっていて、同じ仕事の情報を1人で抱えず、みんなで共有しています。
田中:無制限とはすごいですね。業務の情報共有はどのように行っているんでしょうか。
岩田:たとえば女性スタッフは多くが子育て中のお母さんで、週1日1時間くらいしか出社しない人もいるので、チームを組んでもらって情報共有をしてもらっています。多分、今はパートタイムの女性スタッフが一番会社全体の情報を知っているかもしれません(笑)。
田中:それはきっと会社の環境や社風がいいからですよ。私も本日御社に入った際、やっぱりムードがいいなと思いました。いい会社の雰囲気ってあるものだと考えてます。
岩田:そうかもしれないですね。だから生産性はずっと右肩上がりに良くなっています。もう1つ、会社を変えるために行ったこととして、見える化も結構大きなポイントだと思っています。当社は社内の決算書などもオープンで、会社の目標を達成したら、みんなに賞与で分配しますと、ハッキリ示しています。会社が良くなっているのを体感してもらうことも、大切だと思っているので。
田中:それはモチベーションにつながりますね。頑張ったことが、ちゃんと評価や成果につながっているということは、原動力にもなりますし、生々しい話だけどとても大切だと思います。その結果、離職率も今はゼロになったわけですね。しかし、こうした取り組みはどんな思いでやられているんですか?
岩田:何のために仕事をしているかということは、常に社員さんと共有しています。それはつまり、先代から引き継いだ理念と、会社を受け継いでから構築したビジョンとして掲げている「社員さんの幸せを第一にする」ということです。たとえば私たち建設産業は、技術は進歩していますが、現場の仕事は体が資本。体を壊すとできなくなってしまいます。そうなっても安心して働ける場所をつくるなど、いろいろな取り組みをしたりしています。新しいことを始めて目的を見失った時も、みんなが「社員さんの幸せのため」というところに立ち返れば間違った方向にはいかないと思っています。
田中:ここに貼ってある特性要因図も、そのためにつくっているんですか?
岩田:そうですね。これは7年前くらいから、社員さん全員で定期的に作成しています。たとえば、業務も細分化して全員から付箋で集めてみると、気がついたら、やらなくてもよさそうな業務があったり、同じことをしている社員さんがいたりと、見えてくるものがあって、その部分を省くことでもっと違うことができるよねと改善ができる。ただ、今はこの人数だからできますが、人数が多くなったらできるのかなって思う部分はあります。
田中:いや、それはご謙遜!関係ないですよ。所帯が大きくなると、ビジョンの浸透って難しくなると思いがちですが、それでも結局、旗を振って「いくぞ!」と言い続けることが大事。トップに思いがあって、その人がどれだけ推進するか、それに対していかにみんなが本気になるかだと思います。そのために、こうして言語化することは、とても重要だと思います。こうして書いていくと、現状が見えるだけでなく、そこにいろんな意見が入ってくる。それがきっと御社の1つの事業になっていくのだと思います。
岩田:そうですね。まず今の目標は、長くこの業界を表す言葉になっていた3Kを1K(かっこいい)にすることです。誰からも「いいな、やりたいな」と思ってもらえる仕事にしたいです。
女性活躍、DX、新事業、NPO…、
挑戦は終わらない
田中:先ほども、さまざまな働き方の女性がチームを組んで活躍しているというお話がありました。私自身は、「女性活躍」という言葉が好きではないしこんなキーワードなくなるべきと思いますけど、実際に女性活躍はもちろん当社を含めて多くの企業は、進めたくても進められていない現状があると思います。御社は、3時間しか働けないなら3時間で受け入れて、活用されていますが、やはり部門によっては短い時間で働いている人をどう評価すればいいかなど、いろいろと難しい点もあるかと思います。
岩田:その点は、まだまだ当社も模索しながら行っているところです。ただ、子育て中で1時間しか働けない人も、今はそうした働き方しかできないかもしれないけど、将来、子どもが成長したらもっと長く働けるし、正社員にもなれる。実際、そういう方もいらっしゃいます。あとは、チームで動いているので、チームの目標をどれだけコミットしたかという評価をしています。それは男性に関しても同じですね。
田中:そうした取り組みが評価されて、2014年には厚生労働省のイクメンアワードでグランプリ・内閣府特命大臣賞を受賞。平成26年には岐阜県子育て支援エクセレント企業に認定されています。これは本当にすごいし、この時代に素晴らしすぎる。こうした受賞や認定後に変わったことはありますか?
岩田:当時、厚労省のイクメンアワードも一緒に受賞した企業はどこも誰もが知る大企業で、地域の中小企業はうちだけでしたから、受賞できた時はビックリしました。受賞してから講演依頼をいただくことや、求人を出さなくても「この会社に入りたい」という方が増えました。高校2年生の子が「卒業したら入社したいんですが」と電話をかけてきたこともありました。
田中:そこはさっきも言いましたが、やっぱりやると決めたら、大企業だとか中小企業だとか関係ないと思います。
岩田:そうですね。関係ないかもしれません。当社が取り組みを進められたポイントは、お金をかけずにできることしかできなかったこと。でも、お金をかけない制度って、お金で買えないことなんですよね。社員さんが自らどうしたらいいかを考えて試行錯誤するプロセスが、一番社内に浸透して社風や仕組みそのものになります。お金がないから託児所をつくったり補助を出したりはできなかったけど、その分、知恵を出して社員さんに一番必要な中身をつくれたことは大きいと思います。
田中:ちゃんと実態に合った取り組みをされた結果、社員さんもイキイキと働けるようになったということですね。常に新たな取り組みを先んじて行っている印象ですが、現在も何か取り組んでいることはあるんでしょうか。
岩田:今後、日本は少子高齢化で必ず担い手不足の時代が来ます。それを見越して、今は工事の全自動化・DX化にも取り組んでいます。また、もっと社員さんにいろんな活躍の場があったらいいなと思い、既存の技術を用いて新しい事業ができないかと考えました。それが、駐車場などの敷地内を自由にデザインする「デコマップ」。この施工もすでにスタートして、いくつか実例もできてきています。
あとは、これから地域で活躍する人材って、今の子どもたちですよね。地域の企業は、子どもたちがワクワクして社会に出てもらわないと、自分たちもいい人材を確保して持続可能な成長なんてできません。それをバックアップしようと思うと、1企業だけでできることではないなと思って、2022年8月に企業が参加できるNPO法人を立ち上げました。今、さまざまな事業を行っていて、当社の社員さんも積極的に参加してもらっています。
田中:私もSDGsを推進する中で、子どもたちの教育現場で話をする機会を大切にしていますので、そこはとても共感できます。今はふるさと教育の延長線上に、総合政策や総合探求学習というのがあって、地域でフィールドワークを行っているんですが、その中で地域の企業とふれあうことはすごく大切で、これこそ産官学の連携が必要だと感じています。NPO法人の話も、ぜひまたお聞きしたいです。
岩田:こちらこそ、ぜひよろしくお願いします。
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デジタル人材の育成に注力!
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