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Interview
SDGsの先駆者に訊く

Re:toucher 40
まずは自分や家族が
「健康=持続可能」で
あること。

ぎふピンクリボン実行委員会(岐阜県岐阜市)

代表 平松 亜希子さん[写真左]
副代表 船戸 梨恵さん[写真右]
インタビュアー Re:touchエグゼクティブプロデューサー 田中 信康
SDGsターゲット
  • 03 すべての人に健康と福祉を
  • 05 ジェンダー平等を実現しよう
  • 08 働きがいも経済成長も
※このターゲットはRe:touch編集部の視点によるものです
SDGsでは3つ目のゴールに示されている「健康」というキーワード。しかし、体調不良を感じたらいつでも医療機関にかかることができる私たちは、どこかこのゴール達成を自分事と捉えにくいところがあるかもしれない。
そんな中、ぎふピンクリボン実行員会がキャッチフレーズに掲げているのが「まずは、わたしが持続可能に!」という言葉だ。自分の健康状態を「サステナブルな状態」にすることが、すべてのSDGsアクションにつながる重要なカギとして、早期発見・早期治療につながる乳がん検診の受診を呼びかける活動を行っている。
いまや、その活動はイベント開催や情報発信に留まらない。「健康経営」や「ダイバーシティ」「女性活躍」そして「治療と生活の両立」と、女性の健康を入口に幅広い課題解決へと挑戦し続けるこの活動に、今、多くの関心と支援が注がれ始めている。今回は、代表を務める平松亜希子さんと副代表の船戸梨恵さんに、この活動に対する思いや今後の展開についてお話を聞いた。

人には果たすべき役割が
あるのかもしれない

田中:ぎふピンクリボン実行委員会は、2021年から活動を始めて、2022年2月から正式に市民活動団体として、新たなスタートを切ったそうですね。まずはお2人に、この活動を始めたきっかけをお聞かせください。

平松:私は、以前から三重県と愛知県で行われているピンクリボンの啓発活動に、アナウンサーとして参加していました。その時にふと「岐阜には、ピンクリボンに取り組んでいる企業や罹患者の会などはあるけれど、企業や人の枠を超えて啓発活動を展開する動きはあまり見ないな」と感じて、何かできないかと思ったのが始まりです。
それに加えて、実は私、岐阜に来る前は福島県に住んでいて、岐阜に移ってから起こったのが、あの3.11東日本大震災でした。その時、すぐにボランティアで被災地へ行きたいと思ったんですが、その時はまだ下の子が小さくて、とても家を空けられなくて。どうしようもない気持ちを抱えていた時に、友人から「それは行ける時に行くもので、いつか行ける時に行けばいい。そういう気持ちを持っているだけでいいんじゃないか」と言われて、とても心が楽になったんです。それからずっと「できる時に、何か人の役に立てることをしよう」と思ってきました。それがどんな形になるかは分からなかったけれど、このぎふピンクリボン実行委員会を立ち上げた時に「あ、それは今で、これなんだ」と思いがつながったんです。

田中:とてもいい話。船戸さんはどうですか。何かきっかけがあったとお聞きしていますが。

船戸:私は、平松さんからこの活動を始めたいと聞いて、私も何かできることがあればと思ったのがスタートではありますが、私の場合、夫が前妻を若くして乳がんで亡くしているんです。私は、夫が子どもを2人抱えてシングルファーザーになっていた時期に出会ったんですが、その時の悲しみや苦労はよく聞いていました。今回、活動に参加することを夫に話したら「ぜひやった方がいい、やってほしい」と背中を押してくれたんです。その時は「これはやっぱりやるべきだな」と、自分の役割というか、少し運命的なものを感じましたね。
乳がんって女性の病気だと思われていますが、男性もわずかながらも罹患するリスクはあるし、何より女性が罹患した時、家族は大変だと思います。それは、子どもがいたら尚のこと。だから、男性も自分事と思って関心をもってほしいと思います。

田中:実は私も二度大病を患ったことがあります。健康のありがたさって、病気になってみないと実感できないかもしれない。でも、実感した時には遅い場合もあるので。体や心のダメージも大きいですし。実は私、倒れる前は健康診断も行ってなかったんですよ。だからこそ、お2人にはこの活動をぜひ進めてほしいという思いがありますね。


一歩を踏み出した時、
人の縁がつながった

田中:団体自体は今年から正式に市民活動団体となりましたが、活動は昨年からスタートしていますよね。お2人とお会いしたのもちょうど1年前ですが、私はその時からお2人には“一歩踏み出す強さ”というのを感じていて。その強さが岐阜大学医学部附属病院の先生方のバックアップや、たくさんの方々の支援を引き寄せているのではないかと思います。あらためてこの1年間の活動はいかがでしたか?

平松:昨年は、まだ自分たちに何ができるのか、まったく分からなかったんですよ。私たち自身、何をどう展開できるのか、期待と不安が入り混じった状態でスタートしたのですが、田中さんがおっしゃったように、本当にたくさんの方に支えていただくことができました。まず、岐阜大学医学部附属病院 乳腺外科の先生方には全面的なご協力をいただき、乳がんの基礎知識を学べる啓発動画を制作して、ホームページ上で無料公開することができました。その後、10月のピンクリボン月間には、岐阜市のマーサ21ショッピングモールと大垣市のイオンモール大垣でそれぞれ啓発イベントを開催。おかげ様で、1年目はうまくスタートが切れたと思っています。それは、皆さんのご協力がなければ成り立たなかったので、本当に感謝ですね。でも、実はまだまだやりたいことがいっぱいあって、どうやって実現できるか、今模索している最中です。

船戸:動画もイベントもなんとかカタチになって、本当にありがたいと思っています。やはり乳がん治療の最前線にいる方々にバックアップをいただいたことは、とても大きかったですね。ただ、実際に活動をしてみると、当然新しい課題も見えてきて、同時にもっといろいろなやり方で啓発の輪を広げていける可能性も感じました。その経験を踏まえて、今回、新体制になって今後の展開を話し合っていると、「もっとこうしよう、だったらこの人に声をかけてみよう」と、どんどんアイディアが出てくるんですよ。実際に具現化もしてきているので、これからが楽しみだなと思っています。

平松:ピンクリボンの啓発イベントって、参加者の多くを罹患者の方が占めていることも多いんですよ。罹患者の方は当然健康に気をつけていらっしゃるし、その周りの方も「私も大丈夫かな」と健康意識の高い方が多いはず。でも、乳がん検診率を向上させるには、そうじゃない人に向けてメッセージを発信する必要があって、それが私たちの役割だろうと、この1年の活動を通して感じました。家族や周りの人が声をかけるだけでも、意識の啓発になるんですよね。

田中:たしかにそうですね。家族の1人が健康への意識が高ければ、自分だけでなく家族に対しても健康を気遣うように促すと思います。でも、なかなかそう思わない人も多くて、忙しい毎日の中では、どうしても検診に行くということが二の次になってしまう。

平松:そうなんですよね。

田中:こういう方々をその気にさせるのは、とても大変だと思うんです。だから、今までもピンクリボンの活動って他にもあっただろうし、各企業単位でやっているところもあったんでしょうけど、お2人にはそういう方々へ直接アプローチしたいから旗揚げするという姿勢を見せられて、我々も支援したいと思ったんです。岐阜という地域に、県民にとっていい活動があることを知ってもらうためには、やっぱり企業の力ってすごく大切だと思っていて、もっと多くの企業がこの活動に賛同してくれないかなと思います。

船戸:そう。私たちも活動を継続するためには、やっぱり多くの企業にご協力やご協賛をいただいていかなければいけないんですけど、今考えているのは、もっと多様な協力のカタチがあってもいいんじゃないのかなと。それで今着手しているのが、企業を巻き込む新しい取り組みなんです。


働く人の健康意識を高めて、
社会を元気に

田中:企業を巻き込む取り組みに着手しているということですが、具体的にはどんなことを?

平松:企業にとって従業員は財産です。従業員が健康でないと、企業も成長しない。そして、従業員の家族も健康でないと、家庭もうまく回らなくなって、安心して働くこともできなくなります。ですので、従業員とその家族に健康を意識してもらうために、企業の中で啓発をしていきたいと思っています。

船戸:今って、ほとんどの女性が何らかのカタチで働いているんですよね。そうすると、仕事と家庭の忙しい毎日の中で、どうしたって自分の健康は後回しになってしまう。だからこそ、企業の中で健康を意識する機会をつくってもらうことが必要だと思ったんです。最近、企業の間では「健康経営」という言葉もあって、私もそうした記事を書くことも増えていますが、企業側も何から始めていいか分からないという声を聞くことがあるんですね。特に女性の病気や健康については、なかなか着手しづらいと。じゃあ、ピンクリボンを健康経営に取り入れてもらったら、女性の健康、女性の働きやすさというところにもつながるのではないかと思いました。今までは、ショッピングモールでのイベントで幅広い人にアプローチしてきましたが、企業で働く方々というちょっと違う角度でも広めていけたら、今まで以上に多くの人たちへ届けられると思っています。

田中:今の話だと、例えば我々のような企業も協賛金を出して終わり、というだけじゃなくて、発信する側に立って社内へのプロモーションができるということですね。

平松:それが必要なんです。だから新体制になって最初に始めたのが、各企業で使ってもらう社内研修用のセミナー動画の制作です。

田中:なるほど、そういうことか!

船戸:1年目に制作した一般向けの動画は、ホームページでも公開していますし、イベント会場でも上映しているんですが、やはり興味をもって訪れていただかないと見てもらえない。では、どうしたらもっと多くの人に見てもらえるかと考えた答えが、社内研修でした。でもコロナ禍の今、なかなか社内研修って実施できないですよね。でも動画だったら、従業員の方が各自で見てもらえますから、それでもう研修が完了するような動画をつくっています。

田中:それを無料で公開するということ?

平松:はい。手を挙げていただいた企業には無料で。有料になるとそこがハードルになるんですよ。今回も制作にはCCNさんが全面協力をしてくださっていて、もちろん岐阜大学医学部附属病院の先生方にも協力していただいているのに、見てもらえないものをつくっても仕方ないので、無料でお渡ししたいと思っています。

船戸:これまでの動画は、一般の方が見て分かる基礎知識を発信しているんですが、今回は企業向けなので、乳がんを患う可能性のある1人1人にだけ向けたものではなく、もし社内や家族の中に乳がんを患った方がいたら、どうやって周りはケアしたらいいのかという視点も入れた動画にしています。だから、男性も「家族が早期発見・治療できるために何をすべきか、同僚が治療している時にどうサポートしたらいいのか」ということを少しでも意識してもらえたらと思いますね。

平松:乳がんになったからといって、そこで生活がストップするわけじゃないですよね。生活は続いていくし、もちろん働き続けなければいけません。治療を行っていく上で、自分はどうしたら働き続けられるのか、周りはどうフォローしたらいいのかというのは、おそらく皆さん不安に思うところだと思います。それを解消できるような動画になればいいなと思っています。


田中:船戸さんが「健康経営」という言葉を出してくれましたけど、これは国が掲げていることで、各企業も真剣に取り組んでいるはずなんだけど、実際は「これでいいのか?」と思いながらどこかにあるフォーマットにはめ込んでしまっている部分もあると思います。当社も女性社員が多いけど、私も乳がんを患った方々がどれだけいるかという把握をしているわけではないし、もっと違うカタチでできることはないのかなというのが、疑問ではあったんです。でもこの活動に共感してもらって、1社でも研修を実施してもらえるといいですよね。

船戸:はい。もちろん一般の方々にも知ってもらって、検診率を向上させることも必要だと思っていて、イベントも継続して開催します。でも、そこで「乳がん検診に行かなきゃ」と思っても、いざ予約を取って…というのはハードルになりますよね。だから、その場で受けてもらえるのが一番だと思っていて、いずれはイベント会場に検診バスを呼んで、無料で受けていただきたいという思いも持っています。

田中:それはいいですね。

平松:ただやはり費用がかかることなので、企業の方々からの協賛というのも、もちろん募っていかなければいけないですね。今回の研修動画で、研修をするという協力の仕方もあることを知ってもらって、ピンクリボンの重要性を感じていただいたら、協賛も考えていただく…とか、いろんな方向からご支援をいただければと思います。

田中:それは必要なことですね。フリーアナウンサーである平松さんと、コピーライターの船戸さん。言葉や文字で分かりやすく伝えるお2人の強みを活かすものというのは、まさにプロモーションだと思います。昨年から活動してみて、賛同いただけそうな企業は出てきていますか?

平松:はい。イベントを開催するショッピングモールさんはもちろんですが、今年はさらに岐阜ハウジングギャラリーでもイベントを開催できることになりました。それを機に、岐阜新聞とタイアップで新聞紙面での啓発記事も展開していく予定です。昨年からも、医療のフリーペーパーに継続して特集記事を掲載してもらっていたんですが、さらに多くの方へ情報が発信できると期待しています。

船戸:研修動画もまだ制作段階にも関わらず、すでに何社か「使いたい」と手を挙げてもらっていまして。受講していただいた方にはアンケートにご協力いただいて、これまでの受診状況や意識の変化などのデータを取りたいと思っているんです。そうなると、結構な数のご意見がいただけると思うので、それを財産に新しい展開もできるのではと思います。

田中:研修動画ができあがったら、ぜひ当社でも拝見させてください。今年の目的の1つは、企業にこの活動を理解していただいて、共感していただくという点が大きいですね

平松:はい。今できていることもこれからやりたいことも、私たちの力だけでは無理なので、「一緒にやりたい」と声を上げていただけたらうれしいですね。今も「こんなことをしていきたい」と誰かに相談すると、「じゃあ、やろうか」とカタチになってきています。まだこれは先の話ですが、医療機器メーカーや医療機関と一緒に、治療の際に罹患者の方のストレス軽減につながるような取り組みができないかなど、また新しい角度での話も上がっています。

田中:すごいスピードで進んでいますね。今はウェルビーイングなんて言葉もあるし、健康というテーマに世の中全体の関心が高まっている証拠ですね。本当に今後の展開が楽しみです。最後に、メッセージをいただけますか?

平松:SDGsもそうですし、ピンクリボンも他人事ではなくて自分事に捉えていただいて、ぜひ健康づくりへの一歩を踏み出してもらいたいです。ピンクリボン=乳がん検診の啓発運動って、皆さん知っていらっしゃると思っていたんですが、活動をしていると、意外とまだまだ「ピンクリボンって何?」という声も聞くんです。そういう声を少しでも減らして、何より検診受診率を少しでも上げることを目指したいと思います。

船戸:この活動のキャッチフレーズに「まずはわたしが持続可能に」という言葉を掲げているんですが、やっぱりどんなこともまずは健康じゃないと続けられません。自分もそうですし、大切な人もそう。企業さんも持続可能であるためには、やっぱり社員の方々の健康を考えていただきたい。ピンクリボンは乳がんですが、それをきっかけに女性の健康、皆さんの健康を考えてもらえるような活動を広げていきたいと思います。

田中:このSDGsの活動は、自分たちのために、未来のために、当社が何をすべきかというところから始まっているのですが、そこに皆さんのような他者の視点が入ってきて、ご縁が絆や勇気になっています。皆さんと「こういう活動もしなければ」と交わした約束が、支えになっていく。僕も決して強い人間ではないので、支え合うってありがたいなと思います。また新たな展開があれば、ぜひお知らせください。楽しみにしています。

TOPIC

  • 03 すべての人に健康と福祉を
  • 05 ジェンダー平等を実現しよう
  • 08 働きがいも経済成長も
  • 17 パートナーシップで目標を達成しよう
※このターゲットはRe:touch編集部の視点によるものです
企業内研修動画を無料提供。
実施企業を募集中!

 ぎふピンクリボン実行委員会では、多くの人に乳がんについて知ってもらおうと、岐阜大学医学部附属病院 乳腺外科の医師や看護師の協力を得て、2021年に啓発動画7本を制作し、無料公開している。さらにその第2弾として、各企業内で受講・閲覧できる研修用動画を制作(制作協力/CCN)。現在、動画を活用した研修を実施する企業を募集中だ。
この動画では、乳がんの基本的な知識を学べるほか、罹患者へのケアや仕事との両立についてもレクチャー。実際に仕事と両立しながら治療を進めた罹患者の体験談も添えられ、年齢性別を問わず乳がんへの理解を深められる内容となっている。賛同企業には動画を無料で提供し、実施企業を広げていきたいとしている。

■ぎふピンクリボン公式ホームページ
https://www.gifupinkribbon.com/

Company PROFILE

企業名(団体名) ぎふピンクリボン実行委員会
代表者名 代表 平松 亜希子
HP https://www.gifupinkribbon.com/
Instagram https://www.instagram.com/gifu.pinkribbon/

Re:touch Point!

誰かの話ではなく“わたし”の話に。それはまさに人の心を動かすSDGsの原点。

Re:touch
エグゼクティブプロデューサー
田中 信康
ある日、社内で1人の女性社員が「ぎふピンクリボン実行委員会の公式ホームページを見た。こうした活動に会社が向き合っていることがとてもうれしい」と声をかけてきた。罹患者でもない彼女が関心を持ったこの活動は、たしかに社会から求められていることなのだと確信した出来事だった。
女性の社会進出が進み、「女性活躍」という言葉もナンセンスではないかという声もしばしば耳にするが、かくいう私自身もそれは至極ご尤ものことであり、それは確実に理想的な社会に近づいている証拠として捉えている。
一方で企業内ではその歴史が短いがために、女性の働きやすい環境が整えられているかという点では、まだまだやるべきことが多い。
そんな中、ぎふピンクリボンが見い出した新たな方向性は、ただ広く乳がん検診の重要性を伝えるだけではなく、「誰か」の話だった主語を「わたし」に変換し、あらためて女性の健康を考えさせる活動だ。まさにSDGsに不可欠な視点であり、原点でもある。
平松さん・船戸さんと話していると、いつも「思いがある人は引き合う」ことを感じる。彼女らが自ら立ち上がり、常に新たな道へと進んでいく“意思の渦”に、私を含めて多くの人が巻き込まれていくことだろう。その動きにワクワクしながら、その一助となるサポートを微力ながら続けていきたい。