たまたまスウェーデンでパッドを見つけて。
田中:今日は、羽柴社長、山本専務、加納部長、柿原さんにお話しいただけるということで、よろしくお願いします。
さっそくですが、アピアさんの概要から教えてください。
羽柴:アピアは、通常の洗浄では落とせない汚れ、染み、カビなどを、建物を傷めずにきれいにする特殊清掃を強みにしているビルメンテナンスの会社です。洗剤や溶剤、保護剤をできるだけ使わず、水とパッドの力を最大限に活用する「レストア工事」を得意としていて、カビの除去、コンクリート床仕上げ、また、生産ラインやステンレスタンクなどの衛生清掃などをしています。
田中:ワックスや剥離剤を使うのではなく、床面を独自開発のパッドで研磨洗浄されていて、とても環境にやさしいとお聞きしていますが?
羽柴:たまたまスウェーデンでパッドを見つけて、日本に持ち帰ってきて、地域のスーパーさんで検証させていただきながら、改良を加えました。もともとはコンクリートを研磨するものだったんですが、ワックス床やリノリウム、大理石、塗り床などあらゆる床材、また、あらゆる清掃機械で使っていただけるようにしています。今では、こうした清掃機械や消耗資材などは、アピコという別会社から販売させていただいています。
田中:アピアさんを立ち上げられたのが1994年(平成6年)ということですが、ビルメンテナンスを始められたそもそもきっかけは何だったんですか?
羽柴:私と山本専務は、岐阜のアパレルメーカーで働いていましたが、中国に行ったり来たりする生活に限界を感じていたんですね。ちょうど私が結婚して子どもが生まれた時期で、アレルギーだとかアトピーだとかが急に騒がれ始めたこともあって、自分の子どもは大丈夫だろうかと心配になってしまって。どうせ仕事をするんだったら、環境にやさしいことがしたい。そうしたアレルゲンが繊維に付着しているダニだっていわれていて、これってビジネスになるんじゃないかと、山本専務と一緒に会社を辞めました。
田中:本当にそんな感じだったんですか?
山本:何も考えずに動けた年齢でしたからね。
羽柴:アピアを設立してすぐにリーマンショックが起きたんですが、これがどん底ならここからはい上がればいいかって。
山本:正直にいうと、環境に固執していたわけではありませんが、私たちがやってきたことが役立ち始めたって感じですね。
羽柴:私のなかでは、日本で地に足を着けて一生懸命に体を動かす仕事をして、子どもたちに自信を持って、こういう生き方をしてきたんだっていえるようにしたい。そんな想いもありましたね。
田中:でも、そうやって方向転換されてきた原動力は、子どもたちの健康への強い想いなんだろうなって、お話を聞いていて感じました。
羽柴:そうなんだと思いますね。私も大した学歴があるわけではないんですが、やっぱり子どもたちが寝そべってもいいような床にしたいと地域のスーパーさんの社長に話したら、おまえおもしろいこというなっていうことで清掃させてもらえるようになりました。
田中:そうなんですね。
羽柴:東日本大震災の時も、みんなで応援に行こうとしたんですね。そうしたら、飲み水がないので早く地元の飲料水工場を稼働させたいんだけど、工場内に割れたびんが散乱していてできないと。その10年ほど前に、自動販売機の前がこぼしたジュースなどの糖質で汚れるので、それを何とかしてほしいとお客さまにいわれて開発していた清掃機械を持っていったら、これが除染に役立つことがわかって。
山本:そうしたら、みなさんが高圧洗浄を始められて。道路なんかは高圧洗浄しながら汚水を回収する洗浄システムをうちが持っていて、「スピンバック」という清掃機械なんですが、当時は東北地方では知らない人がいないくらいでしたね。
羽柴:NHKでも放送されましたよ。
田中:そんなこともあったんですね。
羽柴:コロナ禍になってからも、うちは早い段階からアクリルのパーテーションや消毒液をネットで販売していて、こうしたみなさんが困っていることに一生懸命に取り組んできたことがのちのち役立ってきています。
山本:うちは飛散させずに高圧洗浄ができて、カバリングして吸い上げてしまうような仕組みなんですが、これが環境にやさしいとか。
手元が狂ってワックス床を
研磨洗浄してしまって。
田中:どうやってこうした技術を開発されているんですか?
羽柴:それは、もう、社員みんなで。社長、これはこうじゃないの、ああじゃないのと、みんな一生懸命になってやってくれます。
田中:社長の想いに、社員のみなさんがしっかりと応えられているんですね。
羽柴:私たちのような岐阜の会社が、こうした新しい技術を売り込むのはなかなか難しくて、どうせなら日本の空の玄関でと、関東エリアの空港さんに「TWISTER」を営業に行ったんですよ。先ほどお話しした環境にやさしい研磨洗浄システムなんですが、このパッドでワックスを使わないメンテナンスをしませんか?って。
田中:すごい行動力ですね。
羽柴:そうしたら、実績はあるのかといわれるので、ありませんと。
田中:私たちもよくいわれます。
羽柴:いやいや、まず東京がやるんでしょう、っていったんですが、羽柴さん、実績がないものはやれませんよって。で、東海エリアの空港さんに営業に通って、半年ぐらいでやっと採用してもらうことができました。
田中:すごいですね。
山本:3万m²ぐらいやらせていただいています。
田中:そんなに広いんですね。
山本:これまでビルメンテナンスではなかった特殊清掃で、ワックスを塗らないので工程をショートカットできますし、その分の経費を削減することができます。しかも、廃液が少なくて環境にやさしいということで、もう石油系のワックスを塗る従来のやり方には戻れないですよね。
田中:そうですよね。
山本:床面はワックスを塗ることで劣化していきますので、それをアルカリ性の強い剥離剤で拭い取らないといけない。その繰り返し作業がすべてなくなりますので、環境に与える負荷もゼロに等しいぐらいになっていくんですよ。
田中:先ほど、社長がスウェーデンの話をされましたが、そのパッドで研磨洗浄するとワックスが要らなくなるということですね。
羽柴:そうです。当初は、ダイヤモンドの粒子を球体で付着させたこのパッドで、コンクリートなど石材系の床材が貼ってあるところを研磨洗浄していたんですね。それで、地域のショッピングセンターさんの「テラゾー」という石材系の床材が貼られている鮮魚コーナーで、この研磨洗浄のデモをさせていただいていた時、夜中の作業なので手元が狂ってワックスが塗ってあるピータイルを研磨洗浄してしまって。
田中:あれれ。
羽柴:ところが、何だこの光沢は? これなら、ワックスが塗ってあるピータイルもいけるぞってなったんですよ。
田中:イノベーションには「偶然」がつきものですから。
羽柴:それで、すぐに加納部長と地域のスーパーの清掃現場に行ってこのパッドで磨いてみたら、ワックスが塗ってあっても光るということになって。それなら、磨き面の粗いパッドでやったら、ワックスも取れるのではと試してみたら、これがまたワックスが剥離できたんですね。この検証結果をスウェーデンのパッドメーカーに報告したら、世界規模の展示会がある時にぜひ発表してくれということになったんですよ。
田中:それで、その展示会で発表されたんですか?
羽柴:はい。
「ありがとう!」の言葉があれば、それでいい。
田中:TWISTERは、加納部長と二人三脚で開発してこられたんですね。
羽柴:現場で冷静に物事を見てくれるのは加納部長なんですね。私はちょっと熱くなり過ぎるので、加納部長がいつもブレーキ役をしてくれています。
田中:とてもいいコンビですね。
羽柴:アイデアや発想は私1人でできるかもしれませんが、現場のことを知らないとそれを清掃作業に落とし込んだり、社員ができるようにマニュアル化したりすることはできませんので。
田中:とてもユニークな開発秘話ですね。
羽柴:そうですかね。
田中:社長、どういう時に、こうしたアイデアや発想を思いつかれるんですか?
羽柴:人が困っている、できないっていわれると、もう体が。
田中:動くんですね。
羽柴:あとは、やっぱり心がないと。人の心を動かせないような人生を送っても意味がないでしょう。お客さまに感動してもらって、それで、「ありがとう!」という言葉をいただければ、それでいい。利益はあとからついてくると思いますよ。うちの会社も、こんな社長にみんなついてきてくれて、やってくれている。ほかの会社にいけば、もっと高い給料をもらえたかもしれない。同じような気持ちが、心のなかにあるんじゃないのかな。
田中:すごく共感できます。私たちも、このRe:touchをよくやっているねっていわれるんですね。ただ、SDGsの一番いいところは、これが1つの共通言語になって、こういうご縁がいただけている。もしかしたら、これがきっかけで何か違うことが始まったりするかもしれない。今回の取材も、私が登壇したセミナーに参加いただいた柿原さんからダイレクトにご連絡をいただいて、こちらから、ぜひうかがいますと。
柿原:ありがとうございます。
田中:それで、関東エリアの空港にはリベンジはされないんですか?
羽柴:あれから採用されて、ずっとやっていますよ。
田中:やっていらっしゃるんですね。
羽柴:関西エリアの空港さんにも入れてもらっています。
田中:そうなんですね。
羽柴:夢は持たないと実現しませんね。
ワックスなしで光らすには、
本当にきれいにしないと。
田中:加納部長から見て社長はどんな方ですか?
加納:やっぱり、目線が基本的に違うんですね。私たちも精いっぱい先を見ているつもりですが、その先を見てしゃべってくるので、最初は、一生、話が合わないなって思っていました。
田中:そうなんですね。
加納:ただ、こうやって一緒にやっているうちに、とても発想がおもしろいですし、いつも挑戦している。そして、私たちにも挑戦させてくれるところがすごく楽しくて、今でも先頭に立って陣頭指揮を執って頂いております。
田中:最高の社長ですね。
加納:以前、社長にいわれた言葉で、今でも忘れないものがあります。私たちの仕事って、ワックスを塗ることだったんですね。ワックスを塗れば光るんですよ。それで、お客さまがきれいになったねっていってくれます。ところが、それが続くと、突然、ワックスを剥がしてくれと言われる。こんな商売、おかしくないかって、社長が私にいったんですよ。
田中:それまでの苦労がいったい何だったんだと。
加納:私たちが考えもしなかったことなんです。毎月、毎月、定期清掃っていわれて、毎月、毎月、ワックスを塗って、がんばって洗って。じゃあ、強力な剥離剤を使って、全部、剥がしてくださいって。それまでがんばってきたのを剥がすことにすごく疑問を抱いて、SDGsじゃないですが、これって無駄だよねってことに気がついて。それなら、ワックスを塗らなくてもきれいにできるパッドを社長が見つけてきて、これだと。ワックスを塗らないということは、剥離剤のような溶剤、環境に悪いものを使わなくてもすむんですね。
田中:まったくその通りですね。
加納:ワックスを塗らずに光らすには、本当にきれいにしないとできないんですね。これこそが、お客さまのためになる。私たちの仕事だって。SDGsの14番、15番に該当するということで、ほかのビルメンテナンス業者さんにもアプローチしているところです。
田中:これまでとは正反対のことを始められたと。
羽柴:それで、お客さまのところに行って、きれいだったら評価してくださいよって。剥離剤代くださいよって。他社と比べて、おたくの方がきれいになったっていわれて、うちと仕事していくのが本来でしょうって。剥離剤はpH値が12.5を超える強アルカリ性で、専門業者が廃液処理としないといけないんですね。
田中:そんなに有害なんですね。
羽柴:子どもたちに自信を持って安全だといえるのかって。
田中:一石を投じられたわけですね。
羽柴:関東エリアの空港さんも最初は採用してもらえなかったんですが、3年、5年通ううちにちょっとやってみようかって。やってみたら環境に負担を掛ける強アルカリ廃液(産業廃棄物)が出ないなど成果が上がったものですから、もう環境に負担を掛けるワックスを塗れないよねって。東海エリアの空港さんでも同じようなことをいわれています。
田中:すごいですね。
羽柴:しかも、年間の経費が大幅に削減できるんですね。
田中:ワックスを塗らないし、剥離もしないんですもんね。
羽柴:世界の空港調査ランキング※で「清潔さ」においても世界的トップクラス評価、東京・名古屋・大阪の日本の空の玄関口にて、弊社のツイスターダイヤモンドパッドが床の美観向上のお役に立っております。
田中:では、今さらワックスを塗ってなんていえない。
※1989年に創立された航空輸送産業専門のリサーチ会社SKYTRAX社(英国)が世界各国の550以上の空港を対象に行っている満足度調査。今回は、2020年から2021年にかけて実施され、100以上の国籍の旅客がアンケート調査に参加している。
最近では、世界からカビをなくすといっている。
羽柴:最近では、世界からカビをなくすっていっているんですよ。
田中:すごいですね。
加納:カビの除去に着手して何年か経つんですが、商業施設って天井にカビの生えている店舗があるんですね。それで、地域のスーパーさんからご相談をいただいて、カビを何とかならへんかって。カビを除去させてもらえるのはありがたいのですが、やっぱりカビの生える環境がそこにある以上、また生えてくるんですね。地球温暖化が原因で、本来、カビが生えないところにも、どんどん生えてきています。
田中:ここにも気候変動の影響があるんですね。
加納:地球温暖化が終息するのを待っているわけにはいきませんので、せめてこの1店舗の環境を変えようと取り組みを始めています。カビが生えるということはその建物を浸食していることなので、カビを除去するとだいたい天井のボードとかがボロボロなったりしているんですね。それで、ボードを貼り替えなければならない。このボードは廃棄しようとすると、表面の紙と石膏を分別しなければなりません。
田中:結構、面倒だし、経費もかかりますね。
加納:カビを除去してボードを貼り替えても、来年、また、カビが生えます。これって、本当にいいんだろうかと疑問になりました。
田中:サステナビリティとはいえませんね。
加納:それで、社長がアメリカから除湿機を輸入してきて。これで湿度をコントロールして、カビが生えにくい環境をつくりましょう、建物を長く使えるようにしましょうと。
田中:新しいビジネスをされようということですね。
羽柴:そうです。これは、私たちが調べた限りでは、ビルメンテナンスでは初めてのことです。専門業者でやってるところはありますが、まだ未知の世界のことです。それで、加納部長がお客さまのところに行って、ぜひ検証させてほしいと。カビ菌を店舗に撒き散らさないという観点から見ると、新型コロナウイルスへの応用も視野に入ってきて、いろいろな可能性が生まれてきているんですよ。
田中:確かにそうですね。
羽柴:それで、湿度を調整する業務用の除湿機を地域のスーパーさんの天井裏に設置させてもらって、1年間かけてデータを取っている段階です。湿度をコントロールしておくと、夏場なんかには熱中症にならないんですね。なので、除湿ってこれからの時代は大切になるのではと、ここにトライしています。
田中:気候変動で気温が上がることと新型コロナウイルスの関連性については、アメリカの論文で検証が進んでいると聞いていますが、湿度という観点からはまだされていなかってように思います。やっぱり、着眼点がすばらしいです。
羽柴:いやいや、カビが生えるから何とかしろっていわれただけですが。
田中:何かいいヒントがありそうですね。
羽柴:この2年間、みんなでやってきたことに、やっと出口が見えてきました。地球温暖化のなかでうちの会社ができることといえば、小さな空間の環境を変えることぐらいなんですが、それで子どもたちがのびのびと育つことができればと。
田中:今日はとても楽しいです。よかったです、お伺いできて。
羽柴:ありがとうございます。
若い人には失敗を恐れず、
どんどん挑戦してほしい。
田中:何か課題に感じていらっしゃることはありますか?
山本:正直にいいますと、人手不足なんです。
田中:それは、本当にいろいろな業界がそうですからね。
山本:仕事を求めている人っていっぱいいて、逆に探している人もいっぱいいて、需要と供給がまったくかみ合ってないので。
田中:シニア雇用はどうなんですか?
羽柴:それがスタートラインですよね。
田中:そういうことですね。
羽柴:ビルメンテナンスは日常管理もやっていますので、そこでは年齢が高い方でも大丈夫なんですよ。
田中:今の若い人たちはSDGsに取り組んでいることに敏感ですし、もうお金じゃなくておもしろそうな会社で働きたいというのが多くなっていますよ。人が困っていること、人に喜んでもらえる仕事をしたいという社長なので、若い人にもどんどん来てほしいですね。
羽柴:ありがとうございます。私は、若い人にはどんどん挑戦してほしい。失敗はつきものなので、それを恐れずにやってほしいですね。
田中:今日はありがとうございました。これで終わりじゃありませんので、また何かありましたら、WEBサイトから発信させていただければと思います。
TOPIC
「レストア工事」。
また、当初、コンクリートを研磨するために輸入したフロアパッドを改良し、ワックス床やリノリウム、大理石、塗り床などあらゆる床材を研磨洗浄できるようにしている。このワックスや剥離剤を使用しない研磨洗浄システムは、環境にやさしいだけでなく清掃経費を大幅に削減できるとして、ビルメンテナンスに一石を投じている。現在では、こうしたパッドや清掃機械、消耗資材などは、関連会社のアピコから販売している。
Company PROFILE
企業名(団体名) | 株式会社アピア |
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代表者名 | 代表取締役 羽柴 敏彦 |
所在地 | 〒501-6004 岐阜県羽島郡岐南町野中6-99 |
関連会社 | 株式会社アピコ |