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Interview
SDGsの先駆者に訊く

Re:toucher 31
探究学習は、豊かな人生や
世界にするための学び。

岐阜県立岐阜北高等学校(岐阜県岐阜市)

教諭 後藤 隆浩さん
インタビュアー Re:touchエグゼクティブプロデューサー 田中 信康
SDGsターゲット
  • 04 質の高い教育をみんなに
  • 11 住み続けられるまちづくりを
  • 17 パートナーシップで目標を達成しよう
※このターゲットはRe:touch編集部の視点によるものです
岐阜県立岐阜北高等学校では、令和4年度の学習指導要領や教科書の改訂を見据え、生徒と教師が一緒になってスクールポリシーを考えた。「荒野をひらく探究人」がめざすのは、正解のない「現代」という名の荒野を、自分でどんどん切り開いていける人材。そのため、岐阜県の地域創生フラッグシップハイスクールに指定されるなど、「総合的な探究の時間」をはじめとする課題解決型学習に力を入れている。
エフエム岐阜の「学校で学べない授業〜高校生×若手リーダー」で、長谷虎紡績の長谷亨治社長や岐阜協立大学の竹内治彦学長と放送部の生徒2人が対談したのもその一環。また、マイナビ財団からミャンマー教育支援の話を聞き、企業のSDGsへの関わり方を学んだり、JICA海外協力隊を経験された方々に、その実情を講演してもらったりしている。今回は、Re:touchエグゼクティブプロデューサーの田中が岐阜北高校でSDGsについて出前講座を行ったあと、生徒会を担当されている後藤 隆浩先生にお話を聞いた。

岐阜北高校2年生の探究学習で、
SDGsについて出前講座。

Re:touchエグゼクティブプロデューサーの田中が岐阜北高校2年生の探究学習で、SDGsの基礎について講演を行った。講演後、生徒会を担当されている後藤先生をインタビューする予定が、生徒たちが個別質問に飛び込んできて、急きょ、生徒たちを含めた座談会形式のインタビューとなった。


岐阜北高校はかなり先進的で、
生徒に権限を委譲している。

田中:岐阜北高校さんは、地域創生フラッグシップハイスクールにも指定されていて、マイナビ財団やJICA海外協力隊などに講演してもらったりと、「総合的な探究の時間」でいろいろなことをされていますね。そういったなかで、後藤先生が感じていらっしゃることをお話しください。

後藤:特に感じているのが、女子生徒にすごく活力がありますね。文化祭や体育祭でも女子生徒が中心になったりしていますし、受験勉強に関係ないことでもどんどん突っ込んでいきます

田中:それは、私も出前講座をやらせていただいて感じましたね。

田中:エフエム岐阜が放送している「学校で学べない授業〜高校生×若手リーダー」にも出演されるなど、岐阜北高校さんは課題解決型学習(Project Based Learning)にとても熱心に取り組んでいらっしゃる印象があります。

後藤:岐阜県の高校生と企業や団体などの若手リーダーが本音で語り合うという番組で、長谷虎紡績の長谷亨治社長や岐阜協立大学の竹内治彦学長と本校の放送部の生徒2人が対談しました。

田中:長谷虎紡績さんには、フィールドワークにも行かれたんですか?

後藤:はい。コロナ禍のなかで直接お話をお聞きできたのはよかったです。やっぱり、刺激になりますね

(インタビュー中に、掃除の時間を知らせる音楽が流れてくる)

田中:この音楽は、生徒たちが選んでいるんですか?

後藤:そうですが、少なくともここ3年は変わっていません。当時の生徒会が決めた曲が、ずっとそのままになっていますね。今年度、やっと新しい曲にしようと案を出しています。

田中:私が高校生の時には、考えられなかったことですよね。

後藤:私がちょうど生徒会の担当なので、生徒がどんどん意見をいえる雰囲気づくりをしています。これまでの高校というのは、主体性や創造性が生まれにくい体質だったって感じていますね

田中:それは、学校教育の現場でも話されるようになっているんですか?

後藤:今では、それを変えていかなければという流れになりつつありますね。例えば、近年いろいろと話題になっている校則も、岐阜県の教育委員会から、改定のプロセスがわかるように明文化しておきましょうと指示されています

田中:すごいですね。私が学生の時とは雲泥の差ですね。

後藤:そういう意味では、岐阜北高校はかなり先進的だと思いますね。校則もそうですが、生徒に自由を与えると荒廃につながるという心配もあるなかで、岐阜北高校は自立した生徒が多いという安心感もあってか、生徒に権限を委譲できているのでしょう。

田中:岐阜県の高校にも生徒1人に1台ずつのタブレットが導入されて、慶応大学SFC研究所や日本マイクロソフトと連携していくことになりましたね。

後藤:まだ、始まったばかりなので、これからどうやっていこうかという状況ですね。

田中:私の会社でも、教育出版社さんと小学生向けのデジタル教科書の開発を進めていまして、近い将来、こういったものがカリキュラムに組み込まれてくるんでしょうね。

(出前講座の終わりに、個別に質問があったらインタビュー中に受け付けると、後藤先生からお話しいただいたら、本当に生徒たちがやってきた)


出前講座後のインタビュー中に、
生徒たちが飛び込んできた

後藤:ここからは、順番に、田中さんに質問していきましょう。

森井:大垣市の高校と連携して、SDGsについて考えているとおっしゃっていましたが、具体的に、どういうテーマでやっているのか知りたいです。

田中:大垣東高校さんの事例ですね。大垣東高校さんと、建築会社さんとか医療法人さんとか、6社の企業が一緒に進めていて、その1つに私の会社があります。それぞれの会社が取り組んでいるSDGsの課題に、高校生たちからアイデアをもらおうというものです。具体的には、私の会社なら、ペーパーレスになっていくのに、紙ばかり追っかけていていいのとか。医療法人さんなら、医療の現場でもデジタル化が進んできていて、こうした診療データを生かして新しい医療サービスにつなげられないかとか。わかりやすいのは、運送会社さんかな。トラックは化石燃料を使うので、地球温暖化の問題があるし、実は、運送業界って、ドライバー不足も深刻なんですね。こうした企業が抱える課題を知ってもらうところから始めて、最終的には、高校生ならでは視点で、どうしたら解決することができるか、意見をもらうことをやっています。

森井:SDGsはあまり利益が出なさそうだなと思ったんですが、どうしたら利益が出るようになるんでしょうか

田中:実際、どの会社でもそこが本当に課題で、一言でいえば、バランスですね。社会的な責任を果たすのが会社として当たり前だよねという考え方はありますが、それで自分たちの会社で業績が上がらなかったら何のためにやっているんだとなってしまいます。究極は、倒産とかに行きついてしまうので、このバランスが難しいんです。だから、自分たちの会社の本業で、何が課題なんだろうと考えます。例えば、トラックドライバーの不足が問題だということだったら、これを自動運転で解決できれば、そういう運送サービスを提供して利益を出せるビジネスモデルにしていくというのが、今の考え方かもしれませんね。

村瀬:私は、セクシャリティのLGBTについて、今まで田中さんが関わってきた事例を具体的に教えてほしいです。

田中:メガバンクに次ぐような大きな銀行で、お手洗いの事例があります。男性だけど女性トイレに入りたいとか、そういうLGBTの方のお手洗いを設けることにしました。これが、実は、生産性などの改善につながります。お手洗いに行けないって、すごく切実な問題ですよね。簡単な例なんですが、最近は、アンケートなどで男女のほかに「その他」って選択肢がありますが、これがLGBTの方への配慮だったりしますね。本人にとってはものすごくデリケートな問題で、私、男でも女でもないよっていうところで、アンケートがストップしてしまうんですよ。日本でも、こういったところを大切にする会社が増えてきました。優秀な人材には、性別は関係ないですよね。お手洗いの問題ってすごく重要なので、衛生陶器メーカーでは、それを解決する製品開発をしていると聞いていますよ。

中島:私は、フェアトレードについて、今後、研究を進めていこうと思っていて、自分で書店などに行って資料を集めようとしているんですが、古い資料しかなくて研究材料としては不十分なので、最近、フェアトレードに関する企業動向などがあれば、詳しく教えてもらいたいです。

田中:最近では、フェアトレードが普通になってきていると思いますね。一時期、NPOとかが積極的にやっていたりしていて、大垣市にもそういうNPO法人があります。「NPO泉都垂井」というところなんですが、この地域ではナンバーワンかなあっていうくらい力を入れていらっしゃいますね。地域や行政の方々と話し合いながら、フェアトレードの製品開発もされています。フェアトレードも一般化してきてはいますが、NPOの方がいい事例が多々あります。NPOは非営利団体で企業色が薄いので、いろいろな人の協力を得やすいんでしょうね。いろいろな人の意見を聞きながら製品をつくっていくところは、SDGsの共感にもつながっていくのかなって思っています。

(このあと、匿名の生徒の質問に答え、後藤先生のインタビューに戻る)


生徒と教師が一緒になって、
スクールポリシーを考えた。

後藤:先ほど、お話をされていたように、SDGsは収益が上がったり、優秀な人材が雇用できたりと、何かしらの利益につなげていくのが肝なんですね。ただ、直感しづらいですし、即効的にそれが得られないとなると、なかなかビジネスモデルとして成立させづらくて、離れていってしまうというのは、すごく納得いきましたね。

田中:ありがとうございます。

後藤:学校も会社と似ていると思うところがあって、私たちは教師として点数を取るとか、偏差値を上げるとか、いい大学に合格するというような、目先の利益というわかりやすい結果に目をむけがちですし、生徒たちにとっても大きな指標になっています。だから、そういったものを与えられる教師がいい教師だみたいな風潮もありました。しかし、こういった探究学習で流れが変わってきていて、これからは答えのないところに向かっていかなければならなくなっていて、自分で主体的に切り開いて課題解決をしていくことが大切だっていわれています

田中:学校の運営も企業の経営もすごく共通点があって、直面している課題も似ているんですよね。自分で考えて自分で決めて自分で動かないといけないのはわかってるんですが、なかなか最初の一歩が踏み出せないのです。でも、こういった探究学習は、本当に岐阜県のいろいろな企業や団体を、高校生が知るいいきっかけになってくれると思いますね。

後藤:岐阜北高校がこういう取り組みを始めることになったそもそものきっかけというのが、令和4年度から学習指導要領や教科書が改訂されていくなかで、カリキュラムを再編成しなければならないという話が数年前に上がりました。生徒指導部や進路指導部などに加えて、CD部(カリキュラムデザイン部)というものを新たに立ち上げて、学習指導要領の改訂を見据えて岐阜北高校のカリキュラムを再編成しようということになったんですね。

田中:そうなんですね。

後藤:カリキュラムを変えることで、岐阜北高校としてどういうところをめざしていくのか、2年前に生徒と教師が一緒になって、岐阜北高校のスクールポリシーをつくろう、うちの学校はどういう学校か考えようという会議を開きました。そのなかで、「荒野をひらく探究人」というキーワードができて、3つの副題として、「自分の哲学を明確に持って粘り強く取り組むことを大事にしよう」「自分で主体的・創造的に動くことを大事にしよう」「多様な他者と協力し合っていくことを大事にしましょう」といった目標を挙げ、正解のない「現代」という名の荒野を、自分でどんどん切り開けるような人でありましょう、というスクールポリシーを掲げることになりました。

田中:スクールポリシーは、そうやって生まれたんですね。

後藤:となると、やはり答えを教える講義型の授業ではなく、自分で課題を解決していくPBL、まさに探究学習などはそれを体現しているものですし、受験のために学んでいるのではなく、豊かな人生や世界にしていくための学びですから、田中さんのように実際に社会課題に直面していて、そこで試行錯誤して活躍されているような方は、自分たちの学びの延長線上にあるはずだし、そうでなければならないと思います。

田中:ありがとうございます。

後藤:ただ、現実になるとなかなかそういうイメージが持てないんですよね。生徒たちは、明日の小テストの追い込みや受験に向けた塾の宿題を、いかに間に合わせるかということで頭がいっぱいになってしまうこともあります。そういった生徒たちの目をどうやって外に向けて、先を見通したビジョンを持たせるというところに持っていけるかが課題だなとすごく感じていて、こういう機会は本当にありがたいですし、よかったと思っています。

田中:いえいえ。本当にシンプルでストレートな質問が飛んできて、私たちにとっても、頭の整理をしながらそこに向けて回答していかなければならないので、とても勉強になります。先ほど、どういう学校をめざしたいのかというお話がありましたが、会社も同じで、社会での存在意義が問われる時代になっています。しっかりと目的意識を持たないと、バラバラな活動になってしまって、何のためにやっていたんだっけとなってしまいます。SDGsやある意味ではコロナも、そういったところを考えさせてくれたといっても過言ではないと思っています。こういったことが次の一歩につながっていくように、私たちもサポートさせていただきます。本当にいい機会をありがとうございました。

TOPIC

  • 04 質の高い教育をみんなに
  • 17 パートナーシップで目標を達成しよう
※このターゲットはRe:touch編集部の視点によるものです
グローバル化が進展するなかで、
国際感覚を力を身につける。
地域の自治体や大学、企業などと連携して、グローバル化が進展するなかで、国際感覚を身につけるとともに、地域創生をはじめとするさまざまな分野で活躍できるリーダーを育成する「地域創生フラッグシップハイスクール事業」。岐阜県では、5つの県立高校をこれに指定し、重点的に支援している。
この地域創生フラッグシップハイスクールに積極的に取り組んでいる岐阜北高校。「総合的な探究の時間」を活用して、マイナビ財団からミャンマー教育支援の話を聞き、企業のSDGsへの関わり方を学んだり、JICA海外協力隊を経験された方々に、その実情を講演してもらったりしている。

Company PROFILE

企業名(団体名) 岐阜県立岐阜北高等学校
代表者名 校長 鈴木 健
所在地 〒502-0931
岐阜県岐阜市則武清水1841-11

Re:touch Point!

進学校ならでは葛藤のなかで、PBLを進められている。

Re:touch
エグゼクティブプロデューサー
田中 信康
岐阜県でも有数の進学校である岐阜北高校。SDGsについて出前講座をさせていただいたが、核心を突いた質問が次々と飛んできた。後藤先生のインタビュー中にも、何人かの生徒が質問にきてくれたのは、驚いたのはもちろんだが、とてもうれしかった。当然のことではあるが、岐阜北高校でも、大学受験という大きな目標に向かって、みんな一生懸命になって既存の授業で勉強している。
一方で、ネットワーク社会やグローバル社会が進展するなかで、これからは答えのないところに向かっていかなけれならないことにも気づかれている。それは、スクールポリシーにも表れている。岐阜北高校がどんな学校をめざすのか、生徒と教師が一緒になって考えた。そのために必要なのが、PBL(課題解決型学習)としての「総合的な探究の時間」。
探究学習に多くの時間を割けないという進学校ならではの葛藤と戦いながら、岐阜北高校では時代が求める人材の育成を始められている。「探究学習は、豊かな人生や世界にする学び」。後藤先生からお聞きしたこの言葉に、SDGsの本質が詰まっていると感じた。