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Interview
SDGsの先駆者に訊く

Re:toucher 26
ビルが排出する
CO2を削減する、
ZEBに切り込んでいく。

株式会社兜一級建築士事務所(岐阜県岐阜市)

代表取締役社長 三摩 浩さん
インタビュアー Re:touchエグゼクティブプロデューサー 田中 信康
SDGsターゲット
  • 11 住み続けられるまちづくりを
  • 12 つくる責任 つかう責任
  • 13 気候変動に具体的な対策を
※このターゲットはRe:touch編集部の視点によるものです
岐阜県を中心に高級注文住宅の設計・施工をする「兜一級建築士事務所」。コロナ禍でリモートでの打ち合わせが多くなったことから、精緻なCGと動画を組み合わせることで、オンライン上で設計した住宅などの建築デザインを確認できるサービス「THE・リアル」を開発した。屋内外をリアルに再現したそのクオリティーは、本物と見間違えるほどの質感で、これを活用して受注まで漕ぎ着けた案件もある。
また、ハウスメーカーがZEH(Net Zero Energy House)に本腰を入れ始めるなか、ビルやホテル、商業施設など大型施設のカーボンニュートラル設計であるZEB(Net Zero Energy Building)に乗りだした。まだ、国交省の「省CO2先導プロジェクト2019」に採択されるなど、その第一歩を踏みだしたばかりだが、大手建設会社ですら大きな実績がないマーケットに切り込んでいる。
今回は、この兜一級建築事務所の社長である三摩浩(さんまひろし)さんにお話を聞いた。

当たり前のことを当たり前にやる、
「堅い仕事」がしたい。

田中:「兜一級建築士事務所」っていわれるんですね。珍しい漢字をお使いですが、何かここだわりがありますか?

三摩:海外に出ていって仕事をしたいとずっと思っていましたので、そうした時に日本の企業だとわかりやすいというのが一つあります。

田中:なるほど。

三摩:あとは、「堅い仕事」がしたいと。

田中:それはどういうことですか?

三摩:当たり前のことを当たり前にやる。特に、リフォームがそうなんですが、建築の仕事というのは、施工した業者の姿勢が見えるんですよ。いい加減なことはしたくないんですね。

田中:とても、共感しますね。そして、ゆくゆくは海外でお仕事されたいと。

三摩:そうですね。私のところは設計事務所なんですが、施工もやっているんですね。私は現場にいることが多くて、職人さんと一緒に仕事していると、職人さんが高齢化しているのがよくわかります。

田中:そういう社会課題があるんですね。

三摩:たまたま、知人がベトナムで建築の仕事をしていることもあって、この職人さんを育てる仕組みができないか、ずっと模索している状態なんですよ。今、アジアの方が日本に勉強に来られていますし、その辺りをぐるぐる回せるようになるとおもしろいかなって、少しずつ動いてはいたんですね。ただ、コロナ禍になってしまって、完全に止まっていますが。

田中:そういうビジョンをお持ちなんですね。ところで、先ほど交換させていただいた名刺なんですが、兜一級建築事務所としての企業理念が掲載されていますね

三摩:それは、私の備忘録みたいな側面もあって、初志貫徹じゃないんですが、独立した時に感じていたことを、ちゃんと実践していきたいという想いがあります。

田中:そういうことですね。社長は、公務員のご経験もおありになるんですね。

三摩:はい。4年間。建築関係の技術職として採用になって、住宅課に籍を置いていました。

田中:そのあと、ハウスメーカーにほぼ10年勤められていて、いろんなところで経験を積まれていますね。

三摩:ハウスメーカーに入る時は、独立したいという想いがあって、それには、営業経験がないとダメだろうと。そこで、営業とはどういうものかを叩き込まれましたよ。

田中:人材育成プログラムがしっかりしていると評判のハウスメーカーですから。

三摩:本当にいろんなタイプの営業の方がいらっしゃいましたので、自分の目標をしっかり持って勉強させていただきました。


コロナ禍でも営業できるように、
「THE・リアル」を開発。

田中:建築業界では、コロナ禍の影響はどうですか?

三摩:昨年の前半ぐらいから打ち合わせが減りました。うちのお客さまはご年配の方が多いので、とにかくお会いすることができない。じゃあどうしようかってものすごく考えまして、それで、「THE・リアル」を開発しました。

田中:で、どうですか? このサービスというかツールの反響は?

三摩:おかげさまで、とてもいいですね。先日も、これで営業や設計のご説明をして、ご契約をいただけることになりました

田中:新聞にも取り上げられていましたね。

三摩:はい。新聞をご覧いただいて。

田中:CGで作った立体的で精緻な画像が、家のなかを歩くように見られるとか

三摩:先日ご提案したものですが、どうぞ、ご覧ください。

田中:ああ、すごい。何かもう、ドアのここまで。

三摩:はい。質感までリアリティーを出して、ご提案ができるようにしています

田中:本当にリアル。本当にリアル。

三摩:これまでは画像でご説明していたんですが、このように動いていくことで、部屋と部屋のつながりなどもよくわかります。

田中:全然違いますね。壁の質感までちゃんと再現されています。

三摩:ご自宅を建てられるにしても、社屋を建てられるにしても、ご予算のなかでどんな建物にできるのか。まずはディテイルよりもイメージが先行して、あとは、契約後に詳細を決めていくことになりますので、こういうツールがあるとインパクトが強いですね。

田中:建築業界では、新しい取り組みではないんですか?

三摩:そうですね。まだまだ珍しいですね。

田中:きっと、レンダリングだけでもすごい時間がかかりますよね。

三摩:通常のスペックだと1日では足りないですね。うちは、30分でできますが。

田中:やっぱり、そうですか。

三摩:これのいいところは、昼夜の光の具合とかも調整できますし、天候も変えることができます。なかなか、雨の日のイメージって湧かないんですよね。

田中:ここでシミュレーションされていることは、実際に建築できるんですよね。

三摩:私たちは、建築士としてできることだけをご提案しています。

田中:ここまでやられると、ご提案までに手間や時間がかかりますね。

三摩:そうですね。これを制作するだけで本当に何十時間ってかかっています。ただ、それだけ価値のあることだと思っていますから。


ビルやホテル、商業施設などの
カーボンニュートラル設計。

田中:これなら、冒頭にお話されていましたように、海外のお客さまでも大丈夫ですよね。

三摩:ちょうど、今、フィリピンの案件が動き始めたところで。私たちは、いかにCO2を削減するかをテーマにやっていますので、環境省とかいろいろと打ち合わせしながら、CO2のクレジットをどうやって調達するとか、しっかりと役割分担したチームで進めているところです。

田中:そもそも、SDGsに対応したカーボンニュートラル設計を始めようと思われたきっかけは、何だったんですか?

三摩:CO2削減のコンサルテーションをされている方との出逢いですね。

田中:そういう方がいらっしゃるんですね。

三摩:私は、頼まれたらやってみるという性格なんです。正直、ちょっと苦手な分野ではありました。私ようにものをつくる人間は、見えないCO2とかエネルギーとか、性に合わないんですよ。きっと。

田中:こうしたことはまだ法制化されているわけではないんですが、これからは取り組まないといけないんだろうなっていう微妙なところですよね。

三摩:そうなんですよ。

田中:むしろ、自主規制みたいなところで、ただ、菅総理も2050年カーボンゼロ発言をされて、国民の意識も高くなってきた。とはいっても、費用対効果ということもあって、確かに付加価値はあるが、お金がかかることなので。新聞にも掲載されていましたが、周囲の反応はどうですか?

三摩:まだまだ、これからってところではないでしょうか。

田中:社長がめざされているのは、国が定める基準値の半分以下ですよね。

三摩:そうです。

田中:ハウスメーカーがZEH(Net Zero Energy House)への取り組みを始めているなかで、いずれビルやホテル、商業施設などにも、こうした流れがやってくるとのお考えなんですね。

三摩: ZEHについてはほとんどの方が知っていらっしゃいますが、私たちがやっているのはZEB(Net Zero Energy Building)なんですね

田中:そうですね。

三摩:ZEBとなると、ほとんどの方が知らない。役所ですら、ZEBを知らないところがありました。

田中:そうですか。

三摩:なので、まずは認知度をどうやって上げていくか。これは、国の仕事かもしれませんが、まずは、そこからかと

田中:これからじわじわと出てくるのかもしれませんね。

三摩:まずは法制化されて、企業が慌てだして、こういう話になっていくと。

田中:こうしたことは突然やってきますから。

三摩:ZEHにしたいっていう方は、もうすでにいますからね。

田中:私は、この新聞記事を見た時に、すごいことを始められたなあと。ZEBへの認知度が高まってくると、世の中が本当に変わるぞって直感しました

三摩:うちもハウスメーカーとうまくコラボしたいと、こちらから一生懸命アプローチはしているんですね。

田中:ぜひ、ここの読者にもアピールしてください。

三摩:まず、大きな建物が対象になります。ビルやホテル、商業施設、病院、介護施設などをこれから建てられる方は、ぜひ、CO2の削減にチャレンジしていっていただければと。そこに、私たちが少しでもお手伝いできればと思っています

田中:これから、どういったところに営業されていく予定ですか?

三摩:法人を中心に営業していきたいと考えています。前職で法人営業もしていましたので、その時の経験を生かしたいと思います。


CO2削減の先進的な取り組みで、
「省CO2先導プロジェクト2019」に。

田中:石黒建設さんですでに実績を上げられているんですが、これはどういった経緯からですか?

三摩:石黒建設さんとは前職でお付き合いがあったのですが、私たちの取り組みをご紹介させていただいた際にお声掛けいただいたのが発端ですね。

田中:国交省の「省CO2先導プロジェクト2019」に採択されていますね。

三摩:はい。来年は、「省エネ大賞」に応募しようかって話もしています。

田中:補助金の申請書類ってこんなにあるんですね。

三摩:石黒建設さんも建築会社なので、みんなで一生懸命やりましたよ。

田中:会社としては、SDGs対応のカーボンニュートラルの設計比率をどうしていきたいとか、具体的な目標はお持ちでしょうか?

三摩:こればっかりは押しつけられないので、とりあえず、実績を積み重ねていくことが先決だと考えています

田中:世の中にSDGsというムーブメントが起きてはいるものの、こんなに早い段階からこうしたことを手がけられていて、岐阜にはすごい方がいらっしゃると感心しています。

三摩:これをやっていこうって思ったのは、先ほどのような補助金事業があったのが大きな理由ですね。あとは、企業価値っていうところですよね。目先のコストの話をされるのか、その先を見るのかですよね。そこは、経営者さんの考え方にはなると思うんですが。

田中:三摩さんも、どえらい出逢いがあったものですね。こういったところに引っ張り込まれて。

三摩:かなり強引に引っ張ってもらっているので、大変なこともあるんですが、まあまあでも、一緒に付き合っていくとおもしろい方なので。

田中:これって施工後の使用方法っていうか、そういったとこもしっかりサポートされるんですね。

三摩:そうですね。建物の運用に失敗するとCO2の削減に影響があるので、ちゃんとケアできるようにしたいと思います。

田中:こんな建物が、岐阜にできるとうれしいですね。

三摩:大手さんが手がけられたものが岐阜にもありますが、私たちみたいな小さな会社でも、こういうことができるところを見せていきたいと。

田中:いや、そこがすばらしいと思っています。

三摩:ありがとうございます。

田中:この会社を、これからこうしていきたいという想いはありますか?

三摩:そうですね、本当に、初志貫徹で、まず、仕事は楽しく。で、「堅い仕事」を続けていく。あとは、グローバルにやっていきたいと思っていますので、物理的な距離は別に関係はなくて、いかにお客さまにも喜んでいただくか、私たちもこういう仕事をさせていただいていかに喜べるか、これが目標ですね。

田中:ありがとうございました。

TOPIC

  • 11 住み続けられるまちづくりを
  • 13 気候変動に具体的な対策を
※このターゲットはRe:touch編集部の視点によるものです
ZEBの企業価値が認知される時、
兜一級建築士事務所が異彩を放つ。
管総理が2030年におけるCO2の削減目標を発表したことで、国民のCO2削減への関心が高まりを見せるなか、建築分野においては、ハウスメーカーが住宅からのCO2を削減するZEH(Net Zero Energy House)への取り組みを加速させている。こうしたZEHとは一線を画し、ビルやホテル、商業施設などの大型施設が排出するCO2を削減しようというのが、ZEB(Net Zero Energy Building)。
大手建設会社ですらそのマーケットの動向を見定めようとしている段階で、兜一級建築士事務所はいち早くSDGsに対応したカーボンニュートラル設計を打ちだした。日本でもメインストリームになりつつあるSDGsを追い風に、国交省の「省CO2先導プロジェクト2019」など補助金事業からの支援を受けながら、ZEBへの価値が認知されるその時に備えて確実に歩みを進めている。

Company PROFILE

企業名(団体名) 株式会社兜一級建築士事務所
https://www.kabuto-design.jp/
代表者名 代表取締役社長 三摩 浩
所在地 〒500-8358
岐阜県岐阜市六条南2丁目17-4

Re:touch Point!

近い将来、ZEBが当たり前になる日が、必ずやってくると信じたい。

Re:touch
エグゼクティブプロデューサー
田中 信康
兜一級建築士事務所のSDGsに対応したカーボンニュートラル設計が掲載された新聞記事を見つけて、思わず声を上げてしまった。ZEHですらまだ始まったばかりなのに、ZEBとはすごいところに目をつけられたものだ。大型施設が排出するCO2を削減する時代が必ずやってくるとのお考えだろうが、正直、まだ世の中が追いついていないような気もする。
しかし、SDGsがそうであったように、ZEBの企業価値が認知されるその時は、意外に早くしかも突然やってくる。「私たちみたいな小さな会社でも、こういうことができるところを見せていきたい」。Re:touchでは、こういう会社を探してきた。ZEBが法制化されて慌てる前に、地球の未来のためにその大切さに気づいてもらえる、そんな日本であってほしい。三摩社長もそれを信じているに違いない。