父親のすすめもあり、異業種の
カーディーラーで営業を経験。
田中:まずは、川崎文具店さんのご紹介からお願いします。
川崎:大正12年(1932年)の創業で、私で5代目になります。父の代までは普通の文房具屋さんでしたが、私が跡を継いでからは万年筆とインクの専門店として、全国からお客さまにご来店いただいています。
田中:お父さまから川崎文具店を引き継がれるまでは、別のお仕事をされていたとお聞きしましたが?
川崎:国産車ディーラーで2年ほど勉強させていただきました。短期大学を卒業した後に、そのまま会社に入ってもよかったんですが、父が異業種を経験しておくのもいいだろうと。
田中:その経験は、今のお仕事に役立っていますか?
川崎:そうですね。車という高額な商品を売るためには、カタログを読み上げているだけでは、お客さまの心に響かないんですよね。この車にはどんな機能があって、それがお客さま自身にどう役立つのか、具体的にイメージしてもらわないと。そのころはよくわかっていなかったんですが、今になって振り返ってみると、あれはこういうことだったんだって、すごく勉強になっています。
田中:あとで気がつくってことはよくありますからね。
大垣青年クラブ時代から温めていた
「キッズワークエキスポin大垣」。
川崎:文房具業界って、同業者のつながりがあまりないんですよね。そういうこともあって、大垣青年クラブという青年団体に入らせていただきました。そこで15年ぐらい自分磨きをさせていただいて、最後は大垣青年クラブの会長も務めさせていただきました。
田中:自分の仕事をしながら、ボランティア活動するのは、大変でしたね。
川崎:異業種の仲間づくりができたことは、やっぱり今の自分の助けになっています。
田中:「キッズワークエキスポinおおがき」は、大垣青年クラブを卒業されてから始められたんですね。
川崎:大垣市の興文小学校のPTA会長をやらせていただいていて、ちょうど大垣市が市制100周年だったんですね。大垣青年クラブで活動している時に知り合った大垣市の職員さんと、子ども向けのちゃんとしたイベントってないよねという話になりました。実は、大垣青年クラブをやっていた時から、このイベントの構想は練っていたんですよ。東京と大阪にあるキッザニアみたいなイベントですが、せっかくなら日本で初めてのことをやりたい、じゃあ、国民の3つの義務を体験してもらえるようなイベントにしようと。3つの義務とは「教育」「勤労」「納税」で、このキッズワークエキスポinおおがきには、納税の仕組みがあるんですよ。
田中:この実行委員会の代表をやられているということですか?
川崎:はい。私が代表になって、3年前に始めました。
田中:コロナ禍の影響は出ていますか?
川崎:昨年もやる予定だったんですが、できなくなってしまって。今年も厳しいですね。まだ、2回しかやっていないんですが、2日間で1,000人以上の子どもたちや保護者の皆さんが来場されます。実行委員会は、私と横田仏壇店さんだけです。
田中:えっ、お2人でやっていらっしゃるんですか。
大垣市にはすばらしい仕事があるって、
子どもたちに伝えておきたい。
川崎:大垣城ホールでやっていますが、県外からもいらっしゃいますよ。入場は無料です。大垣警察署さんに、事件が解決するところをやってもらいたいとお願いしましたら、鑑識が指紋を採るところまでご用意していただけました。
田中:それは本格的ですね。
川崎:子どもたちが事件現場に行って、そこに置いてある缶で指紋を採ります。そして、目撃者に職務質問して犯人の特徴をつかんで、イベント会場に潜んでいる犯人を捜査してもらいます。犯人が見つかれば、署まで同行して、証拠をそろえて逮捕となります。これを見た保護者の方が泣いていらっしゃいましたね。これはすごい、見たことがないと。このイベントはただ楽しいだけじゃなくて、大垣市にはすばらしい仕事がたくさんあって、大都会に行かなくても自分のやりたいことができるんだよ。また、ふるさとで暮らすのはいいことなんだよって、今のうちから子どもたちに伝えておきたいと思うんですよね。
田中:すごいですね。私たちがめざしているのもそこなんです。ふるさと教育とかいろいろやっていますが、本当に浸透させるのが大変で、それを子どものころに体験してもらうことで、そのなかから何人かが大垣市に残ってくれれば、こんなにすばらしいことはないですね。
川崎:ありがとうございます。
田中:さっきの納税というのは、どのようにするのですか?
川崎:大垣税務署さんに持っていきます。
田中:本当に持っていくんですか?
川崎:はい。大垣税務署さんにも参加してもらっているので、税金がなくなったら世界はどうなるというアニメを見てもらったり、1億円分の札束のレプリカに触ってもらうこともできます。納税してもらえば、証明書も発行してくれますよ。
田中:そこまで体験できるんですね。
川崎:私が今まで温めてきたアイデアをすべて詰め込みました。大垣青年クラブを卒業してそれで終わってしまったら、自分の成長も止まってしまうような気がするんですね。
田中:社会貢献ってどこまでやればいいのっていう議論がよくあるんですが、そんなもんじゃないんですよね。今の川崎さんのエネルギーあふれるお話もそうですが、本当に好きなんだろうなというところからくるものなので、その想いが十分に伝わっているんだと思いますし、イベントに参加された方が涙を流すなんてことは、そうそうないですから。
城下町のアンティークな文房具屋さんを
ブランディングしていこうと。
川崎:私もこういう商売をさせていただく以上、お客様にいかに感動してもらうのかということが、すごく重要だと思うんですよね。モノが持っている本来の価値が、お客さまの購買のバロメーターにはなってしまうんですが、そこにいかにして付加価値としての感動を提供できるのかということが、私の仕事かなと思いますね。
田中:万年筆とインクの専門店とおっしゃっていましたが、単なるセールストークではなくてそこにストーリーがあって、万年筆が本当に魅力的なものになっていますね。
川崎:結局、文房具屋さんがなくなっていくのは、一般的な文房具って知識がなくても売れるんですよね。でも、万年筆だけはこれをくださいってならないんですよ。お客さまと会話できる商品って、万年筆とインクと紙だなということに気がついて、これに特化しようと決めました。私の祖父が万年筆に詳しかったということもあって、万年筆を磨く道具や名入れする道具もいまだに倉庫に残っています。それなら、うちも大正時代の創業なので原点回帰ということをやっていきながら、城下町のアンティークな文房具屋さんというのをブランディングしていこうと思いました。そして、商品知識だけはだれにも負けないくらい勉強しようと、徹底的にありとあらゆる書物を、海外のものも含めて頭のなかに叩き込んでいます。私は、1本の万年筆に込められた想いをすべて説明させていただいています。例えば、このメーカーのこの商品なら、こういう書き心地だけではなくて、こういう人が使っていましたよとか。文豪はこういうことをいっていましたよとか、この万年筆とこのインクは相性がいいですよとか、そういったことまで深くお話しています。この万年筆を買ってよかったと感動してもらう。これが川崎文具店のスタンスですね。
田中:まずは、自分たちのお店の存在意義から入っていって、ブランド価値をどうしていくのかといったところで、原点に戻ったということですね。
大垣ビジネスサポートセンターGaki-Bizに、
いろいろとアドバイスをもらい。
川崎:父が亡くなって、お店を改装しました。以前は、蛍光灯が並んでいて、普通に商品を陳列している一般的な文房具屋さんでした。実は、置いていた什器、色を塗り直しただけなんですよ。
田中:そうなんですね。
川崎:ただ、あまり独り善がりになりすぎないようにしています。自分の好きなことだけやっていては、商売って成り立たないので。ありがたいことに、大垣ビジネスサポートセンターGaki-Bizさんにいろいろとアドバイスしていただいています。
田中:ブランディングの視点やお店づくり、売り方といったことを、いろいろとご相談されているということですか?
川崎:こういうことやったらどうでしょうかということをセンター長のところに持っていって、それはおもしろいですね、こういう視点にしたらどうでしょうというアドバイスをいただいています。
田中:ガキビズで客観的な意見を聞きながら、新しい商品やサービスづくりをされているんですね。
川崎:自分の頭にあることを言語化して、それをセンター長に聞いてもらい、怪訝そうな顔をされていたら、ちょっと違うかなと確認させていただいています。
田中:ガキビズのセンター長もすごいパッションを持った方で、しっかりと親身になって答えていただけるパートナーというか、大垣市のそういったところはすごく誇れるものだと思います。
川崎:ガキビズは大垣市の宝ですよ。
お客さまから、「色彩の錬金術師」と
呼ばれるようになって。
田中:万年筆って、独特の世界観がありますよね。
川崎:そうですね。万年筆のファンの方って確実にいらっしゃるんですよね。
田中:コアなファンが多そうですね。
川崎:万年筆が開発されてから約210年、現行に近い毛細管現象を応用した万年筆が登場して、130年が経つんです。古いものとか、歴史のあるものって、時間が経てば経つほど、輝くじゃないですか。うちは、お店を見ておわかりのように、新しいものは置いていないんですよ。
田中:「色彩語(しきさいがたり)・百鬼夜講」でしたか? 怪談や妖怪をテーマにした万年筆用のインクシリーズを販売されているんですよね。
川崎:そうですね。私は、お客さまから「色彩の錬金術師」という通称をいただいています。私自身は、「インクバロン」、インク男爵を自称しています。東京の文具女子博とかに出展させていただいたりしていますが、開場と同時にうちのお店のブースにたくさんのお客さまに来ていただいて、インクがすぐに売り切れるんですよ。
田中:モノが売れない時代だといわれていていますが、そこにしっかりとストーリーがあるんですね。今日お話をお聞きしていて、なるほどそこが魅力なんだと思いました。
川崎:モノを販売しているのではなく、物語を販売しているんですよね。色彩語シリーズは、第一弾が関ケ原合戦がテーマになっていて、関ケ原合戦の武将にちなんだ色を、関ケ原町の歴史民俗資料館の館長さんにつくっていただいています。ただ、それだけでは足りないので、関ケ原合戦のその武将の陣跡で行って、インクと空気を一緒に混ぜ込んでお届けしています。
田中:すごいこだわりですね。
川崎:これをサブスクリプションという形でやらせていただいて、約50人の方、お店に買いに来られる方も合わせると、60人ぐらいの方に販売しています。
田中:アイデアもすばらしい。
川崎:百鬼夜講シリーズは、2年かけて108色そろうサブスクリプションですが、すでに10人ぐらいの方に申し込んでいただいています。
田中:これってレアアイテムですね。
川崎:これは単品販売もしているんですよ。百鬼夜講シリーズは、「逢魔時」や「鬼門」、「黄泉」などと、物語がどちらかといえば禍々しいので、大垣市の金生山明星輪寺さんにお祓いをしてもらっています。ご祈祷済みのインクになります。
田中:この逗子のようなものもすごいですね。
川崎:それは陰陽五行箱というんですが、横田仏壇店さんにお願いして、レーザー加工をしていただきました。「三途の川」というインクがスタートですね。その2番目から、古典インクというインクに変わります。古典インクは、書いてからすぐに変化して色が変わるインクなんですよ。私は色が変わることを、「変化」(へんげ)と呼んでいます。この古典インクはペーハー値をそろえているので、お客さまが買ったものを混ぜ合わせても楽しめるようになっています。例えば、「逢魔時」は夕方6時を指すんですよね。「伏魔殿」は場所ですし、「第六天魔王」は織田信長です。これらを混ぜ合わせると、逢魔時の伏魔殿の第六天魔王みたいに、自分オリジナルのインクをつくることができるわけです。これをやっているのは日本で私しかいないです。
田中:こんなインクはないでしょうね。
川崎:桜の色や海の色だとかはどこにでもある話なんですよね。私はどちらかというと、目に見えない世界を色にするということを念頭に置いているので、どんなに抽象的なものでも色にしてしまいますので、色彩の錬金術師と呼ばれているんですね。ほかには、「インペリアル敷島」といって、和歌と枕詞をイメージしたインクのシリーズも販売していて、これだけで72色あります。こうしたお店のオリジナルインクだけで120色そろえていて、普通の文房具屋さんでは日本で私しかいないですね。
2022年に迎える100周年には、
最高傑作の限定モデル万年筆を。
田中:今後、こんなことをやっていきたいとかはありますか? 今年で99周年ですし。
川崎:今年の6月から99周年がスタートして、来年の6月から100周年がスタートします。
田中:これがまた大きな節目になりますね。
川崎:私のオリジナルの万年筆で100周年限定モデルを販売したいと構想を練っているとところです。私はいつも自分のなかの最高傑作をめざしています。また、これをきっかけに大垣市に来てもらえるようにしていきたいですね。これから大垣市の観光大使みたいなこともやりながら、自分のお店だけではなくて、大垣市の魅力的なお店の紹介もさせていただきたいと思います。
田中:ありがとうございます。いつもSDGsをキーワードに取材させていただいているんですが、今日お話しいただいたことにそのエッセンスがものすごくあります。子どもへの情熱もそうですし、故郷を愛する気持ちにあふれていらっしゃって、SDGsの本質なところをお聞きすることができました。そして、何より楽しかったです。
TOPIC
万年筆ファンを魅了している。
また、怪談や妖怪をテーマにした百鬼夜講シリーズは、「三途の川」や「逢魔時」、「鬼門」、「丑時参」と禍々しい名称のため、大垣市の金生山明星輪寺でご祈祷してもらっている。古典インクという書いた後に色が変わるものもあり、こちらは2年で108色がそろうサブスクリプションとなっている。
Company PROFILE
企業名(団体名) | 有限会社川崎商店 |
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代表者名 | 代表取締役 川崎 紘嗣 |
所在地 | 〒503-0904 岐阜県大垣市桐ヶ崎町64 |