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Interview
SDGsの先駆者に訊く

Re:toucher 21
大好きなローカル線を
存続させるために、
小学生は駅を
掃除することから始めた。
高橋 秀歩さん(岐阜県池田町)
インタビュアー Re:touchエグゼクティブプロデューサー 田中 信康

Re:toucher PROFILE

高橋 秀歩(たかはし・しゅうほ)さん

岐阜県池田町出身。
養老鉄道存続のために数々の活動に取り組み、2019年には車内で楽器を演奏し、みんなで楽しむ“おんがくれっしゃ”を企画し開催する。現在高校2年生(2021年現在)

SDGsターゲット
  • 04 質の高い教育をみんなに
  • 11 住み続けられるまちづくりを
  • 17 パートナーシップで目標を達成しよう
※このターゲットはRe:touch編集部の視点によるものです
西美濃の田園風景を走る第三セクターの養老鉄道。沿線に住む小学3年生の高橋少年は、学校の授業で、このローカル線が廃線の危機に直面していることを知る。両親の助けもあって養老鉄道について調べていくうちに、「電車が走っていることで地域が元気になる」と駅員から聞き、最寄りの駅を掃除することから始めた。
高校2年生になった今では、この養老鉄道に乗って学校に通う。これまでに車内で楽器を演奏する「おんがくれっしゃ」を走らせ、この春には、池野駅にたくさんのひまわりの種を蒔いた。養老鉄道を存続させたいという小学3年の少年の想いが、両親の愛情をいっぱい浴びて、友達や学校、地域へと広がっている。 今年の夏は、ぜひ、養老鉄道に乗って、ひまわりを見に行ってほしい。

Movie


小学3年生の「総合的な学習の時間」で、
養老鉄道が廃線の危機にあることを知った。

田中:小学生のころから、養老鉄道を存続させる活動をしているそうですが、きっかけは何だったんですか?

高橋:岐阜県池田町の養基小学校では、3年生の「総合的な学習の時間」で、養老鉄道についていろいろと調べています。その授業で、担任の先生から、養老鉄道が廃線になるかもしれないという話を聞いたことがきっかけです。

田中:そんなに早くから活動しているんですね。

高橋:電車が好きだったこともありますが、小さいころからずっと養老鉄道に乗っていて、身近なところで親しんできた鉄道だったので、何とかしたいなという想いがすごくありました。それで、社会科の課題追究学習で、養老鉄道について調べ始めました。

田中:それが、高校2年生になった今でも続いているんですね。養老鉄道を存続したいと口でいうのは簡単なんですが、すぐにアクションを起こしたばかりか、そうした想いを持ち続けているのはすごいことだと思います。

高橋:私は長続きしないタイプなので、親に頼ってしまったりとかして、正直、自分だけじゃ何もできなかったというのはすごくあります。

田中:それを素直にいえるところが、とてもすばらしいと思います。私たちは、一人で生きているわけではないので。高橋さんの想いがあったからこそ、ご両親も支えてくれたんだと思うし、友達や先生、地域の皆さんも応援してくれているんですよ。

高橋:そうですね。小学5年生から駅の掃除を始めて、中学生になった時に、一緒に活動してくれる仲間を学校で集めることができました。それからずっと今まで、毎月のように一緒に活動してくれる友達ができて、本当に感謝しています

田中:いい仲間ですよね。

高橋:あとは、社会科の課題追究学習をまとめる時に、養老鉄道だけでなく千葉県や和歌山県のローカル線の方とかにもお話をお聞きしました。「電車が走っていることで地域が元気になる」とか、今でも心に残っている駅員さんの言葉がいくつもあります。また、揖斐ジモト大学で講演させていただいた時にも、いろいろな方とつがりを持つことができて、本当によかったと思います。


駅を掃除したり、イベントをしたりと、
みんなで活動することが楽しい。

田中:今回の取材を池野駅でさせていただくために、駅員の方に許可をもらおうと連絡したら、もう二つ返事で快諾していただきました。高橋さんたちがこの駅を毎月のように掃除していることもあるでしょうが、高橋さんたちの想いが養老鉄道の方にもしっかりと伝わっているんでしょうね。

高橋:ありがとうございます。

田中:高橋さんをここまで駆り立てているのはいったい何なんでしょうか? 最近、こうした取材をさせていただくようになってわかったことがあって、Z世代といわれる若い人たちがものすごくがんばっているんですね。私たち大人がだらしなく思えるくらいパッションがあって

高橋:そうですね。この活動をしていることが楽しいというか、もちろん養老鉄道を存続させたいという想いが根底にあるのですが、いろいろなプロジェクトを進めていくことが楽しいからですね。

田中:養老鉄道を盛り上げるためのイベントも提案しているそうですね。

高橋:中学2年の時に50ぐらい提案しまして、そのなかで、車内で楽器を演奏しながら、みんなで電車の旅を楽しむ「おんがくれっしゃ」が実現しています。

田中:私も子どもを連れていきたいと思っていたんですが、コロナ禍で参加できなくてとても残念でした。大好評だったと聞いていますよ。

高橋:遠くからわざわざ乗りにきてくれた方もいらっしゃいました。


養老鉄道や自分の地域のことに、
もっと関心を持ってほしい。

田中:高校生になられて、今、この電車で通っているんですか?

高橋:はい、通っています。

田中:では、養老鉄道が存続するかどうかは、高橋さんにとって切実な問題になっていますね。

高橋:今、同級生の仲間はいますが、同じ世代とか、あるいは、もっと若い小中学生にも、養老鉄道のこととか自分の地域のことにもっと関心を持ってほしいですね。これから、同世代の人たちに、どのようにアピールしていくかが課題だと思っています。

田中:自分一人がやったところで何ができるって思いがちですが、でも、こういう活動を継続してやっていることで、この一人の想いが周りの人たちを少なからず動かしていくと思います。こういうローカルじゃないとわからない課題と、決してきれいごとだけでは解決できない事情があって、どれだけ想いを持っていても思うようにはいかないといったところも、これも一つの人生の厳しいところかなと。ただ、小学3年生のころからずっとやってこられて、地域の人のネットワークというものは、すごく貴重な財産になりますよ。

高橋:そうですね。

田中:今日は雨が降っているので残念ですが、今、フラワープロジェクトをやっているんですよね。

高橋:私は、花とかの写真を撮ることが好きというのもあって、駅に花を植えれば、フォトスポットとして人に来てもらえるじゃないかと。母の発案だったんですが、ここ1年ぐらいやっていますね。

田中:それであそこに。想像していたよりもずっと広いですね。これも協力してくれる人がポツポツと出てきたのではないですか?

高橋:そうですね。ひまわりの種を提供してくださったりとか、あとは、池田町の助成事業にしてもらっています


養老鉄道がこの地域に必要なことを、
たくさんの人と共有したい。

田中:こうした活動を続けていくうえで、何かめざしていることはありますか? こうなったらいいなとか。

高橋:詳しい地域の事情はわからないですが、養老鉄道がこの地域には絶対に必要なんだということを、より多くの人と共有したいと思います。

田中:今、新しく計画しているイベントなんかはありますか?

高橋:とりあえず、フラワープロジェクトの種蒔きが終わりましたので、これから順調に花を咲かせてくれればと。また、おんがくれっしゃは、コロナが終息したら再開したいと思います。ゆくゆくは、例えば、毎月定期的におんがくれっしゃが走って、同じ日に沿線でいろいろなイベントがあったりして、それで、養老鉄道に乗ってもらって、まちがにぎわって、そんなことになればいいなって、ずっと考えています。

田中:今、高校2年生で、これから大学受験があるんですが、この活動を続けていくつもりですか?

高橋:そうですね。まだ、どこの大学に行くのか決めていないので、何ともいえないんですが、学生生活とか折り合いをつけながら、できるかぎりのことはやっていきたいと思っています。

田中:フラワープロジェクトでこれからひまわりが咲いてきて、そこでまた何か新しいストーリーが生まれると思いますし、これがたくさんの人たちの共感を呼んで、新しいことにつながっていくといいですよね。

高橋:そうですね。

田中:ご両親にも感謝ですね。すばらしいご両親の愛情に包まれて、とても恵まれていると思いますよ。高橋さんは将来どんな職業に就くかわかりませんが、このふるさとへの想いを持ち続けて、もし遠くへ行ってもいろんな勉強をして戻ってきた時に、何かここで起こすかもしれないし、いや、本当に楽しみにしています。ありがとうございました。

高橋:ありがとうございました。


これから社会を担っていく
同世代を巻き込んでいきたい。

田中:池野駅というこんなすばらしいロケーションで取材させていただき、私たちもとてもありがたく思っています。

高橋:さっきも話したことですが、養老鉄道を守る団体が比較的年配の方が多いなというところで、これから社会を担っていくのは自分たちなので、若い人をどんどん巻き込んでいくべきかなというのはすごく思っています。

田中:こういうコツコツした活動こそが人の気持ちを動かしていって、実際に地に足つけたものになっていくと思います。フラワープロジェクトにしても、あそこまで掘り起こして、耕して、本当に大変でしたね。種を持ってきてくださったのは、駅の方ですか?

高橋:地域の支援学校と池野駅のまちづくり工房「霞渓舎」とにつながりがあって、母親が霞渓舎の手伝いをしている関係でそこに寄贈されていた種をいただいたという感じですね。

田中:いいですね。ひまわりが咲いたら必ず見にきますよ。

高橋:ぜひ、養老鉄道に乗って見にきてください。

TOPIC

  • 08 働きがいも経済成長も
  • 17 パートナーシップで目標を達成しよう
※このターゲットはRe:touch編集部の視点によるものです
養老鉄道の小さな伝道師として、
地域イベントに引っぱりだこ。
小学3年生から始めた養老鉄道に関する研究レポートは、社会科の課題追究学習のあとも中学生まで続いた。それは、養老鉄道にとどまらず、他県のローカル線にまで及んでいる。こうした研究成果を発表してほしいと、養老鉄道の小さな伝道師として、地域イベントで講演することも多かった。達人に学べ、養老鉄道沿線駅前バザール、養老鉄道検定セミナー、揖斐ジモト大学など。これら一つひとつの細かな記憶はないと、高橋さんも語るほどで、養老鉄道を存続させることから、まちづくりへとその活動フィールドが広がっている。

Re:touch Point!

養老鉄道を存続する活動で学んだことは、これからの人生にとっても貴重な財産に。

Re:touch
エグゼクティブプロデューサー
田中 信康
高橋さんご本人が長続きしないタイプと自己分析されていたように、やはりご両親のお導きがあってここまで続けてこられたのだろう。フラワープロジェクトもお母さまの発案だったそうで、まずはこのすばらしいご両親に感謝したい。
養老鉄道を存続させるための活動の入り口は鉄道ファンだったことだが、そのうちにみんなで活動することが楽しくなってきたというのは、ここにご登場いただいた方々すべてに共通するところ。自然体というか無理しないことが継続するポイントだといえる。
高橋さんがこの活動を通じて学んでこられたことは、これからどんな職業に就かれようとも必ず役立つ。ご本人もまちづくりにはご興味がありそうな印象を受けたので、ぜひ地方創生やまちづくりの分野で活躍してもらいたい。
(次のおんがくれっしゃでは、高橋さんとセッションしたいです)