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Interview
SDGsの先駆者に訊く

Re:toucher 20
ハリヨが泳ぎ、
ホタルが舞うあのころを、
心のどこかで追いかけている。

大垣市生活環境部環境衛生課(岐阜県大垣市)

主幹 森井 信悟さん
インタビュアー Re:touchエグゼクティブプロデューサー 田中 信康
SDGsターゲット
  • 04 質の高い教育をみんなに
  • 06 安全な水とトイレを世界中に
  • 11 住み続けられるまちづくりを
  • 12 つくる責任 つかう責任
  • 13 気候変動に具体的な対策を
  • 15 陸の豊かさも守ろう
  • 17 パートナーシップで目標を達成しよう
※このターゲットはRe:touch編集部の視点によるものです
子どものころ、私の実家の裏には井戸があって、6月にはホタルが舞った。夏になるとスイカや瓜を冷やしたりと、湧き水が生活の一部になっていたのを覚えている。戦後、大垣市は繊維工業を中心に工業都市として発展したが、その過程でこうしたことを一つひとつ忘れていったように思う。
令和になって、大垣市ではゼロカーボンやSDGsへの取り組みを加速させている。今回、お話を聞いた大垣市環境衛生課の森井さんによると、こうしたことは世間が騒がしくなる前からやっていたことが多い。けっして派手ではないが、樹木が大地に根を張るように、少しずつしっかりと。そこには、イノベーションがあるわけではない。だが、どこにも負けない「継続」という底力を感じる。
便利な生活に慣れてしまった今となっては、もう昔の大垣市に戻ることはできない。頭ではわかっているが、ハリヨが泳ぎ、ホタルが舞っていたあのころを、心のどこかで追いかけているようだ。

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すべては、平成12年に策定した
環境基本計画から始まる。

田中:大垣市の環境衛生課では、どのような取り組みをされているのかお話ください。

森井:私は、大垣市に入庁して初めて配属さたのが、環境衛生課だったんです。入庁して2年目ぐらいですかね、大垣市では最初の環境基本計画(現在の大垣市エコ水都環境プラン)をつくることになって、市民の皆さんや事業者、環境団体などにも委員として加わっていただき、大垣市の環境をどうしていったらよいかまとめていきました。この時のメンバーが、大垣市環境市民会議へとつながっていきます

田中:こうしてお話をお聞きすると、早くから取り組みをされているのですね。「ハリンコが泳ぎ、ホタルが舞う水都・大垣」というスローガンもいいですね

森井:このスローガンは、当初の環境基本計画からあるんですよ。環境基本計画を策定するなかで、市民の皆さんから自然に出てきた言葉だったように記憶しています。

田中:それは知らなかったです。

森井:それがずっとつながってきています。もともと大垣市は工業都市として発展してきて、昔のように湧き水もなくなったねという市民の皆さんの危機感があって、何とかしなければいう想いが土台にあったのではと思います。

田中:とてもいいスローガンだなと思っていて、これが市民の皆さんの誇りみたいになっていくといいですね。

森井:私も、実は、大垣市役所に入るまで、ハリヨのことを知らなかったんです。

田中:そうなんですか。

森井:環境基本計画を策定している時に、ハリヨやホタルのを保護されている方がいらっしゃって、子どもの時にそういうものをいっぱい見ていたんでしょうね。ハリヨは、大垣市の小中学校で実施されている「ふるさと大垣科」の副読本にも載っているのですが、実際に、ハリヨを見たこともない子どもたちもいて、こうしたことがきっかけになって関心を持ってもらえればいいですね。

田中:先ほど、環境市民会議はこの流れのなかでとお聞きしましたが、何年ぐらいになるのですか?

森井:平成13年の7月に、環境基本計画の委員だった皆さんにも入っていただきスタートしました。

田中:ソフトピアジャパンで毎年3月に開催されている大垣市環境市民フェスティバルについても教えてください。

森井:環境市民会議には、事業者、団体、個人と、本当にさまざまな取り組みをされている方が参加されていますが、そうした取り組みの発表の場がほしいということで始めました。大垣市環境市民フェスティバルでは、環境をテーマにしたワークショップがあったりと、子どもたちが楽しく体験できるようにしています

田中:子どもたちって、本当に楽しんで参加してくれるので、こうしたことって市民の皆さんに環境意識が根づくんですよね。

森井:そうですね。2020年3月は記念の20回目でしたが、コロナで断念しました。


大垣市環境市民フェスティバルが中止になって、
ネットを活用することに。

田中:それが、2021年3月はおおがきSDGsストリートという形になったんですね。「暮らしを変えて未来に夢を」をテーマに、大垣市の魅力を守る活動をネットで紹介しようと。

森井:このテーマも、当初の環境基本計画からあったんですよ。

田中:これも最初から生きてるんですね。

森井:2020年度の環境市民フェスティバルを中止したものですから、環境市民会議の皆さんがとてもがっかりされて。コロナ禍での新しい生活様式ではないのですが、ネットを活用して取り組みを紹介できないかチェレンジしてみようということになりました。ご高齢の方もたくさんいらっしゃって心配しましたが、サイトが公開されると、すごく良いものができたと、とても喜んでいただきました。また、SDGsという新たなアプローチを試みたことで、環境市民会議に参加したいとか、サイトのコンテンツを使えないかとか、いろんなご相談をいただくようになって、SDDsを共通言語にした新しい出逢いが期待できそうです

田中:事業所からの、どうしたら仲間に入れてもらえるのみたいな反応は、まずは一つ入り口のところで、すごく良い感触をお持ちなんじゃないかなって思うんですが。

森井:そうですね。環境問題は非常に身近で、家庭でできることがすごく多いので、きっかけとして良いのではないかと思います。

田中:それこそ、レジ袋の有料化なんかもそういうことだと思いますし。

森井:今でこそレジ袋の有料化が法制化されていますが、大垣市では、レジ袋の有料化についても、ずいぶん前から取り組んでいるんですよ。環境市民会議では、女性団体や事業者も巻き込んで、平成14年度から「レジ袋ないない運動」を進め、平成20年3月には、市内の事業所でレジ袋の有料化が実現されました

田中:大垣市市民環境賞も長く続けていらっしゃるのですか?

森井:平成14年度に創設しています。これも、環境基本計画がきっかけなんです。地道に活動をされている方を表彰させていただくことによって、自分の活動に誇りを持ってもらうとともに、市民の皆さんにこのような活動をしている人がいるということを知ってもらい、草の根的にいろいろな環境活動を広げていきたいということで始めました。

田中:いいですね。みんな環境基本計画からつながっているんですね。こういうパネルにして市民の皆さんに発信されているのは、やっぱり大垣市ならではの取り組みだと思います。


大人になって大垣市を離れても、
故郷のことを覚えていてほしい。

森井:これまで、どちらかというと小中学生向けの環境学習や出前講座をやってきました。具体的には、川のなかに入って生き物を探したりとか。また、大垣市では、「ふるさとおおがき科」という授業を小中学校で実施していて、だんだんと小中学生には、ふるさとへの誇りや愛着が浸透してきていると思います。おおがきSDGsストリートのイベントを商業施設で開催した時、小学生の時にダンボールコンポストの授業を受けた高校生が参加していて、展示パネルを見ながら、「この写真、うちの学校、これ〇〇先生じゃない」と話していました。当時はこんなことをしていたのか、懐かしいなあ、またやってみたいなといった気持ちが出てくると思うので、やはり、いろいろな機会でPRすることで、活動がつながっていけばという想いがあります。

田中:環境活動は地道ですし、子どものころにこういうことをやっていて、大きくなって思い出すってこともありますよね。

森井:私たちが、小中学生の子どもたちと一緒に川の中に入り、生き物を見つけるという環境学習を行っています。川の中にいる生き物を調べることによって、その川の水の汚れの具合を調べるというものです。川のなかに入ってもらうことってすごく大事なんです。汚くたっていいんです。ごみがいっぱいあることをわかってもらえればいい。じゃあ、何で汚いのということになるので。実際、子どもたちって汚いところでも平気なんですよ。楽しんでやってもらえるので、そういう体験ができる場を大切にしていきたいですね。

田中:高校生に向けて、何か考えていらっしゃることはあるのですか?

森井:今は、小中学校で実施してきたふるさと学習が、高校になると途切れてしまっています。そこで、「環境SDGsおおがき未来創造事業」という事業を計画しています。この事業では、環境市民会議の皆さんや事業者に、SDGsの取組や地域の課題について講義をしていただき、高校生たちに大垣市について改めて知ってもらう機会をつくりたいと思っています。SDGsが一つのキーワードになっていますが、事業者の皆さんも待ったなしでSDGsのことを考えられていて、どのように発信してよいか悩んでいると思うんです。そこに、高校生が入ることによって、事業者のPRになります。さらに、高校生と一緒に議論することによって、お互いの考えを知ることもできます。高校生にとっても事業者にとっても、何か発見の場となって広がっていくのではないかと期待しています。

田中:結局、まちづくりには、行政と民間の連携が欠かせないですし、学校教育が入ることによって、そこに深みが出ると思います。大垣市には、この三位一体のシナジーっていうか、もともとしっかり相まっていろんなことをやっていく土壌があるので、今回はSDGsを基軸にされていろんなことを考えていく時に、高校生の発想には大きな気づきが絶対にあると思います。

森井:まずは、SDGsとは何かという基本的なところから入って、大垣市の事業者や市民団体からSDGsに関する課題などを投げかけていただき、高校生と一緒にいろいろなことを学ぶ機会を、年間を通して講座形式で実施していきたいと考えています。

田中:私も、学校教育の現場に入っていくことがあるのですが、みんな一生懸命に勉強して大都市圏に出ていってもいいから、故郷に対する想いをしっかり持っていて、何かの拍子に故郷への想いを表現してくれるとありがたい。そういう教育をしていきたいとおっしゃっていたんですが、とても印象的でした。森井さんが考えていらっしゃることは、そういうところにつながる可能性があるなって思いますし、すごく楽しみですね。

森井:ありがとうございます。


みんなが協力しないとできない、
「ゼロカーボンシティおおがき」

田中:2020年、大垣市では、「ゼロカーボンシティおおがき」を宣言されましたが、市民の皆さんにとってもやっぱり誇らしいことだと思うのですが。

森井:全国的にそういった機運が高まっていますが、もともと「大垣市地球温暖化対策実行計画」という計画を策定していました。その計画では、国や県より高い二酸化炭素排出量の削減目標を掲げていましたが、ゼロカーボンを実現するためには、さらに踏み込まないと到底できることではありません。

田中:私も、ことあるごとにこのPRをさせてもらっているのですが、市民の皆さんはもちろん事業所も含めて、ここに住んでいるみんなが協力しないとできないですよね。

森井:みんな便利な生活に慣れてしまって、もう昔には戻れないですよね。ただ、レジ袋の有料化もそうですが、大垣市では法制化される前から実現できていて、少しずつでも変わっていくことはできるのではないかなと思います。

田中:やっぱりこれは広報の成果だけじゃなくて、ハリヨやホタルをいたるところで見ることができたころへの郷愁みたいなものが、市民の皆さんにDNAとして残っているんでしょうね。

森井:環境市民会議もずっと継続して活動してきたのですが、もっともっと若い人にも参加してもらいたいですね。

田中:ありがとうございました。

TOPIC

  • 04 質の高い教育をみんなに
  • 06 安全な水とトイレを世界中に
  • 11 住み続けられるまちづくりを
  • 12 つくる責任 つかう責任
  • 13 気候変動に具体的な対策を
  • 15 陸の豊かさも守ろう
  • 17 パートナーシップで目標を達成しよう
※このターゲットはRe:touch編集部の視点によるものです
SDGsというアプローチが加わり、
新しい出逢いにつながっている。
大垣市環境市民会議の環境活動の発表の場として開催されてきた大垣市環境市民フェスティバルがコロナの影響で中止されたことから、SDGsという新しいアプローチを加えてネットで配信することになった「おおがきSDGsストリート」。大垣市の魅力を守り、伝える草の根の活動を、フォトムービーやパネルなどで紹介するほか、大垣市市民環境賞の表彰式など大垣市環境市民会議が主催するイベントの情報配信を行っている。

Company PROFILE

企業名(団体名) 大垣市生活環境部環境衛生課
代表者名 市長 石田 仁
所在地 〒503-8601
岐阜県大垣市丸の内2丁目29番地

Re:touch Point!

行政、事業所、学校がスクラムしたSDGsやまちづくりに期待が持てる。

Re:touch
エグゼクティブプロデューサー
田中 信康
大垣市では、レジ袋の有料化が法制化される前から、「レジ袋ないない運動」を展開していた。大垣市環境市民会議の女性が中心になって、女性団体や事業所を巻き込んで行われたそうだが、こうした女性の牽引力みたいなものは大垣市の一つの特長だと思う。だれかの押しつけでない、何か地面から湧き上がってくるような、そんな地道さが逆に崇高さえ感じさせる。
コロナ禍の災いが転じた形となった「おおがきSDGsストリート」は、SDGsという新しいアプローチとネット配信ならではの汎用性で、これまでにない出逢いがすでに始まっているとか。大垣市には、行政と事業所、そして、学校が、しっかりとスクラムを組んで考えられる土壌があり、環境衛生課が進めている高校生と事業者が一緒に考えるSDGsへの取り組みでは、どんな奇想天外なアイデアが出てくるかとても楽しみで、期待したい。