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何か地域のみなさんのチャレンジを
後押しできたらと。
田中:まず、ひだしんさんについてお話ください。
古里:私たちは基本的に非営利で、地域のみなさんが出資をされて、金融をしながら相互扶助しようというのが原点になっています。営業エリアも限られていまして、高山市と飛騨市、白川村の2市1村だけになるのですね。人口は11万人ちょっとしかいない地域で、少子高齢化という社会課題が、ものすごい勢いで進んでいるということを実感しています。経営としても大きな危機感を持っていまして、私が戻ってきた8年ほど前から、中期経営計画で「CSV経営」をスローガンに置いて、しっかりと地域に価値を生み出すことにつなげていきたいと考えています。
田中:それで、どのようなことをされてきたのですか?
古里:何か地域のみなさんのチャレンジを後押しできたらと、東日本大震災のあとに注目を集めた投資型のクラウドファンディングを、まず自分たちで手がけられるようにしました。それをやっていくなかで、やっぱり地域のもう少し小さなアクションもご支援できたらというところで、購入型や寄付型のクラウドファンディングも取り扱うようになりました。これを6~7年やって、だいたい80件ぐらいのプロジェクトをご支援して、資金調達額も累計で2億円ぐらいになっています。種から芽吹いて、木になって、事業が育っていく。そういった「育てる金融」に、一生懸命に取り組んできました。
田中:早くから金融機関がまちづくりを支援するような取り組みをされてきて、ひだしんさんのなかでも化学反応というか大きな変化が起こっていったのでは?
古里:そうですね。もともと信用組合という金融機関には、ちゃんとそういったSDGsのフレームワークにつながるものが備わっていたものですから、知らず知らずにやってきたことが多いと思いますね。今までやってきたことがちゃんと言語化されるというか可視化されて、こういうことなんだというような腑に落ち感というのはあったと思いますね。
田中:古里さんにおっしゃっていただいたように、そもそも理念というか、根底に持っていらっしゃったことなので、SDGsも意外と浸透しやすかったというか、理解がしやすかったのはないですか?
古里:そうですね。私たちからすると、ひだしんができた時からやってきたことを、SDGsにあてはめるとこういうことだね、というような理解の仕方をしました。こういうことが持続的な地域のために必要だったりするというところで、ちゃんと実感を持って紐づけられたので、自分たちとしてはとてもよかったのかなと思っています。
田中:古里さんはUターンで帰ってこられて、それは地域への想いがすごいおありになって戻ってこられたと思いますが、このままじゃまずいよという背景から切り込んでいかれたということでよろしいでしょうか?
古里:はい。そういった危機感が様々な取り組みの後押しになったことは間違いないと思います。
フィンテックのような発想で何かできないか、
みんなで考えた「さるぼぼコイン」。
田中:クラウドファンディングも、古里さんが最初にアイデアを出されたということですか?
古里:当時、まだ融資部だったので、経営企画の部長にこれやりたいって新聞を持っていったら、おもしろいよなという話になって。この頃は企業支援業務が私のミッションでしたので、色んな施策はその観点から考えていました。例えば、よろず相談拠点の飛騨版をやろうと「ビズコン飛騨」という無料相談所を作ったり、事業者が利用できる資金調達のメニューを増やそうと投資型や購入型のクラウドファンディングを導入したりしました。
田中:この流れのなかで、「さるぼぼコイン」という発想が出てきたということですか?
古里:さるぼぼコインは、経営から今までやってきたことから目線を変えて、フィンテックのような発想で何か自分たちもできないかというお題が与えられて。その時に、プロジェクトチームを部署横断の横軸で立ち上げて、みんなで議論しながら考えました。
田中:さるぼぼコインの構想を練るのに、どれぐらいかかったのですか?。
古里:1年かからないぐらいですね。いくつかのプロジェクトがほかにもあって、どれにしようとなった時に、自分たちがやるのにストーリー性があって、かつ腑に落ちるものがいいよねと。実は、さるぼぼコインの前身といえる地域通貨のようなものは、紙でやっていたのですよ。例えば、ひだしんではキャンペーンを夏と冬に1回ずつやるのですが、定期預金を1,000万円お預けいただいた方には、割引券2,000円分還元しますので、組合員の事業者さんのところでお買い物してくださいねって。これがすごく好評で。また、この地域って観光客がたくさん来てくれるのですが、当時、電子マネーやクレジットカードが使えるお店が少なかったのですね。そうするとここのところをカバーできれば、地域の事業者さんの売上も上がっていいのではと。
田中:これ全国初ですよね。
古里:そうですね。電子地域通貨としては全国初ですし、QRコードを利用したマス向けの決済サービスということでも全国初だったかと思います。
50?70代のユーザーがとても多く、
80歳を超えるご婦人も使っている。
田中:このユーザーは、今どれぐらいいらっしゃいますか?
古里:2万人を超えましたね。
田中:高齢者の方ってどれぐらいの割合を占めているのですか?
古里:かなり多いのですよ。当初のターゲットは若年層に絞っていたのですが、ふたを開けてみたら、高齢者の方ばかりに。
田中:いや~、すごいですね。
古里:ユーザーのシェアも40~50%あるのですよ。コアのゾーンが50~70代で、最高年齢は85~86歳のご婦人です。おそらく全国のなかで、キャッシュレス比率がものすごく高い地域だと思います。ちゃんと統計を取ると、多分、1位になれるのではと思います。
田中:さるぼぼコインの課題の方はどうですか?
古里:やっぱり3年間やってきて、地域通貨を広げていくのはすごく難しいなと思っています。あとは、大手さんがやられるPayサービスとの競合みたいなところは、ものすごくリスクになりうるところだと。簡単、お得、便利みたいな。やっぱり地域の方々に、地域通貨を使うとこんなふうに地域がよくなるみたいなところをご理解いただくことが大切だと思いますので、みなさんにさるぼぼコインを使ってもらえるような仕かけをつくりながら、中長期的に、本当に長い目で見ながら、そういった意識を持っていただけるような仕組みを作っていかなければと思います。例えば、さるぼぼコインの年間のチャージ額の一定額を基金化して、その基金をどう使うかということについては、地域のユーザーの皆さんに決めて貰うというのが良いと思います。自分たちのまちの何かの活動に投資するとか、公園の新しいベンチや遊具を置くために使うとかですね。あとは、様々な行政サービスとの連携が重要になると思っています。補助金や助成金など行政から出ていくお金も地域通貨で拠出できるようになれば面白いと思います。
社会的インパクトが生まれるような仕組みを考えたいですね。
田中:ぜひやってください。ESG投資のなかでもインパクト評価とかですね。インパクト投資をインパクト評価でやっていく一つの切り口のすごく近いところにいらっしゃるのかなと思います。
古里:そういうことが上手くできたならば、ほかの地域よりもこの地域の方々のシビックプライドみたいなものとか、寄付文化の醸成といったところに、みなさんの意識って変わってくるのではという期待を持っています。
コロナが収束してきたら、
470万人の観光客を取り込んで。
田中:すごく共感しますね。何か目標値って持っていらっしゃいますか?
古里:コロナ禍の前ですと470万人を超える方が訪れて下さる地域ですから、コロナが収まってまたそのような状況が戻ってきたならば、ご来訪頂く方々の消費をできる限りさるぼぼコインに閉じ込め、地域から漏れない形で流通させたいですね。事業者間での地域通貨での決済というのを、これからいかに増やしていけるかというのも課題だと思っています。
田中:キイチゴが食べられるとか、あと、かつ丼でしたっけ。こういう一つのプレミア感というものを、今後も拡充されながら、ユーザーにとってもやさしい、わかりやすいものにしていくということですね。
古里:地域通貨を利用しないと本当の高山を楽しめないという世界を実現したいと思っています。そのために地域の事業者さんとアイディアを出し合って40位の商品やサービスを作りました。観光客の方々から面白さや価値を感じてもらえる商品やサービスをいかに作れるかというところに行き着いてしまいますが、このようなラインナップをどんどん増やしていきたいと思いますね。
田中:すばらしいですね。夢がありますし、盛り上がりますよね。
古里:簡単、お得、便利といった価値観を飛び越えて、電子地域通貨を使ってもらうためには、わくわく感とか面白さ、愛着のような感情が鍵になる気がしています。
田中:さるぼぼコインは、ひだしんさんに口座を持っていなくても、エクスチェンジできるのですか?
古里:もちろんです。実は、全国のセブンイレブンでもチャージができます。アプリのダウンロードとコインのチャージが済んだ状態で当地にご来訪頂けるような環境を整えたかったのです。そのために旅行会社さん企画旅行のパッケージを作ろうともしていました。数千円のクーポン券をセットにしておけば、アプリもダウンロードして頂けるかと。ただ、これらの施策はコロナ禍によって進捗が止まっています。
田中:じゃあ落ち着いてきたら、それこそ普及率のところも上がってくると。
古里:もっと増やしたいですね。
金融を一つのアプローチにした
まちづくりをしていきたい。
田中:ひだしんさんとしては、今後、こういったまちづくりをやっていかれるのですか?
古里:そうですね。それは、ディスクロージャーのなかにも掲げているように、金融を一つのアプローチにしたまちづくりをしていきたいです。
田中:イノベーションパートナーズを設立された背景はどのような感じですか?
古里:これも先ほど申し上げた「育てる金融」の最後に着手した取り組みなのですが、なかなかこの地域はリスクマネーに対して資金を供給できる仕組みがなくて。信用組合がリスクマネーにお金を出せるファンドをつくることが難しかったので、その当時の経営陣とかと話をしたのが、毎年、地域とかいろんな団体に寄付を結構するのですね。ちゃんと出た利益のうちの一定割合は、還元という意味で地域に行政に寄付をしたりとかという活動をしているので、寄付の方に回っていた原資みたいなものをファンドにして、地域のチャレンジャーに対して投資をする仕組みがあるといいのではということになりました。
田中:楽しみですね。本当にね。
古里:例えば、人手不足解消につながるサービスをやっている事業者さんに投資をしているのですが、地元の事業者さんとすぐにマッチングして、繁忙期に人手が足りなくなる時に、旅行込みで人がこっちに来て、旅行代金は働いた分で相殺されるみたいなことをやっているところがあって、そうすると関係人口もできますし、そういうきっかけ、何かがあるところを連れてくるようにしています。この地域の社会課題解決につながる事業をやっていらっしゃるスタートアップしか集めていないのですね。建築とか観光とか、あとは交通とかですね。
田中:ここにも、ひだしんさんの理念みたいなものを感じますね。ありがとうございました。
TOPIC
電子地域通貨であると証明される。
Company PROFILE
企業名(団体名) | 飛騨信用組合 |
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代表者名 | 理事長 大原 誠 理事長 黒木 正人 |
所在地 | 〒506-0009 岐阜県高山市花岡町1丁目13番地 1 |