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「このまちで子育てをしよう!」と思えるまちづくりを
田中:まず団体設立の背景からお聞きしてもいいですか。
桐部:私は今、5歳の息子がいるんですが、育児を始めた頃はすべてが初めての体験の連続で、つらいことや分からないことだらけの中で、産後うつになりかけたんです。でもその当時、自治体が展開する支援には、子どものための講座はあっても、ママ自身のケアやリフレッシュができる講座が見当たりませんでした。そこで、親子のヨガ体験をしているインストラクターに頼んで講座を開いたところ、まったく見ず知らずのママたちが「行きたいです!」と応募が殺到したんです。
田中:やはり他のママも、同じような悩みを抱えていたんですね。
桐部:ママたちも、悩みを解消したり情報を共有する場が欲しいんだということが分かったので、ママたちが抱える課題を解決できる団体をつくろうと思ったのが、設立の経緯です。
田中:設立後、JR岐阜駅にエレベーターを設置する活動も始めていますね。
桐部:これも自分の実体験から生まれた活動です。子どもが生まれてから、ベビーカーでの外出は本当に不便だと気づきました。特にJR岐阜駅はエレベーターがなく、子育て世代はもちろんお年寄りや体の不自由な方も不便さを感じていると実感。相談した岐阜市の職員と一緒に、国土交通省の中部運輸局を訪ねて陳情書を出しました。現在は2022年度中に、改札内に最低3基のエレベーターをつけようと改修工事が行われています。
田中:設立時も駅のバリアフリー化も、自分で実感した課題が他の人にとっても悩み事だったことを知り、提言につながっているんですね。防災に関する活動もその1つでしょうか。
桐部:そうです。うちの副理事長は夫の出張が多く、ほとんどワンオペレーションで育児をしているのですが、「そんな中で災害があったらどうやって子どもを連れて逃げればいいのか」という不安の声を聞いて、岐阜大学で防災について活動している高木朗義先生にお願いして、子育て世代に特化した「ぎふママ減災スタディ」を始めました。
田中:こうした取り組みは、何人ほどのメンバーで行っているのでしょうか。
桐部:現在、正会員として運営に携わっているのは30名。このメンバーでイベントやセミナーなどの子育て支援事業を行っています。そこに参加していただいた方には、会員として登録をしてもらっているんですが、その会員数は約1,000人になっています。
田中:その方たちが感じている課題から、また新しい事業が生まれていくわけですね。
桐部:正会員の30名も、もともとイベントの参加者で「自分も何かできるんじゃないか」と入ってきてくれましたし、会員の方からも意見や提案をもらうこともあります。何より「岐阜でこういう団体があるんだと、頑張っている姿を見たから私も頑張ろうと思った」という声が、励みになっていますね。
ママ×企業の共働で、新しい価値を創造
こどもトリニティネットの活動は、子育て支援だけに留まらない。ママたちが持っているスキルや働く意欲を生かそうと、地域の企業とのコラボレーションで新たな事業を生み出すパートナーシップ推進事業も展開している。
田中:パートナーシップ推進事業についてお聞かせください。
桐部:働きたいと願うママと新たな分野の事業展開を試みている企業をマッチングして、1つの価値創造を図ろうと、2019年からこの事業を始めました。正会員30名のうち15名をパートタイマーで雇用し、子どもへの思いや得意分野を生かして、ものづくりの技術を発信したい企業と共に商品を開発。商品を通じて社会への問題提起ができればと考えています。
田中:子ども用のヘルメットもこの事業で作られたんですよね。
桐部:「リンエイ」という自転車製造の会社と一緒に作りました。子ども用のヘルメットってかわいいものがあまりなかったので、ママたちが欲しいと思うデザインを考えました。他にも、親子で使いたい服や雑貨をデザインから販売まで行う「Larigo」というブランドを作っています。ファンになってくれた親子には、読者モデルのような形で登録してもらい、新作をプレゼントして写真をSNSにアップしてもらっています。
田中:インフルエンサーになってもらうんですね。SNSを活用している点も、若いママたちならではだと感じます。
桐部:SNSを用いたブランディング事業は、建設業や製造業の企業を中心に、今一番の主軸になっています。例えば、ハチミツを販売する企業では、こどもトリニティネットのメンバーが作ったハチミツを使ったレシピなどを、SNSやHPで公開していただいています。こうしたSNSの運用代行こそ、ママたちが在宅でできる仕事だと思っています。
田中:岐阜市問屋町の中にカフェもオープンしてみえますね。
桐部:岐阜の問屋町でイベントを開催している「TonyaEXPO実行委員会」が、街の再生を目指して問屋街の空き店舗に「Beringei cafe」をオープンしたのですが、私たちは、店づくりに必要なコンセプトやメニューづくりなどプロデュースをさせていただきました。
田中:まさに女性の視点を生かした活躍ですね。今後も、このパートナーシップ推進事業に力を入れていかれるんでしょうか。
桐部:今はよく女性活躍といわれますが、活躍するためにはやはり環境が整っていないといけないし、企業からの理解も必要だと感じています。同時に、ママたちのモチベーションや意識も向上させていかなければいけないと思っています。企業とママが一緒に良くなることを体現しながら、事業につなげていきたいと考えています。「ママだからできない」ではなく、「ママだからできる」「ママだからこそできる」とプラスに捉えて新しい価値を創造し、女性が活躍する姿を全国に届けて、日本を元気にすることを目指したいですね。
ママ発想の製品をSDGsのきっかけに
田中:今回、新たにオリジナルのSDGsバッジを作られたんですね。
桐部:めっき加工技術を持つ「美山理研工業」とレーザー加工金型の設計・制作を手がける「黒田製作所」が共働する「プレイズ」という会社を訪問した際に、社長が子育て世代ということもあって意気投合し、何か一緒にものづくりをしようと、このSDGsバッジを作ることになりました。パッケージを担当された方も妊婦さんだったので、一緒に意見を出し合って形にしました。
田中:本当にオシャレですよね。これはプラスチック製ですか。
桐部:リサイクルされたプラスチックで作られています。プラスチックってSDGsの観点ではあまり良くないものとされていますが、実際、私たち子育て世代の目線でいくと、完全に排除する生活は不可能だと考えています。だからリユースすることで、「今あるものは大事に使いながら、今後は環境に配慮したものを選んで、次世代につないでいこう」というメッセージを伝えられたらと思っています。
田中:製作資金はどうやって工面されるのでしょうか。
桐部:クラウドファンディングを実施する予定です。ご支援いただいた一部のお金で、子育て女性と企業がマッチングできるプラットフォームづくりと、「アースキューブ」という、ゴミの有害物質を無害化された灰にしてくれるゴミ箱を購入し、このバッジが欠けたりして捨てざるを得なくなった場合も、アースキューブに入れて無害化しようと考えています。
田中:やはり、今あるものを環境に悪いからと一気に排除するのは難しい。共存しながらリユーズ・リデュースしていくことが大切ですね。このバッジをどんな方に手にしていただきたいですか。
桐部:SDGsを推進している方だけでなく、ただかっこいいとかキレイと思って手にしていただけたらと思います。きっかけは何であれ、まずはこのバッジを知ってもらって、「SDGsって何?自分ができることは何だろう?」というところへ落とし込んでいけるようになればと思っています。(了)
TOPIC
SDGsバッジ制作
現在クラウドファンディング挑戦中
Company PROFILE
企業名(団体名) | NPO法人こどもトリニティネット |
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代表者名 | 理事長 桐部遥奈 |
所在地 | 岐阜市雄総桜町3丁目82番地 |